第21話 遠隔手続き呼び出し(RPC)

「じゃー、行きますよー」


「「「おー!」」」


 鬨の声?を上げる、ルル、ディー、私の三人。クロスケも声を上げてくれた。

 ミュイさんがそれを冷めた目で見ててなんか怖い。気にしても仕方ないんだけどね。


「ではー、ギルドカードを立て札にかざしてくださいー」


 言われた通りにギルドカードをかざすと、うっすらと発光してカードの裏に謎のマークが入った。どういう仕組みなのか気になるけど、今は解析はお預け。


 マルリーさんを先頭にダンジョンへの道を降りていく。降りている間は薄暗かったのだが、第一階層に着いたところで結構明るくなった。年数が経った蛍光灯ってぐらいの明るさ。もちろんLEDじゃないやつね。


「この天井にある苔が発光してるの?」


「そうだな。光苔と言われている、ダンジョンや魔素の濃い場所で見かける苔だ」


 うーん、ファンタジー……


「ではー、隊列は昨日と同じでいいですかねー。罠の類はこのダンジョンにはないですしー。あ、ミュイはクロスケさんの隣にいてくださいねー」


「……了解です」


 ミュイさんはちらっとクロスケを見てから頷く。なんか私たちよりも目が優しい感じになってる気が。実は犬好きなのでは?


「じゃ、行こー!」


 ルルの号令で歩き出す私たち。それなりに警戒はしてるけど、昨日、一昨日とダッツさんたちが通ってるから大丈夫だろうという感じ。マルリーさんがそのペースで歩いてるから問題はないと思う。


「ふーん、こういう風なんだねー」


 通路があって部屋、そして通路と繋がっている繰り返し。通路は途中で曲がっていたりするが、分岐がないので迷うこともない。


「ミシャは初めてなんだよね? 想像してたのと違う?」


「そうだね。もっとこう……ちょっと歩いたら罠があったり、いきなり角から敵が出てきたり、道がいくつも分岐してたり……」


「そんなダンジョンだったら、私はここにいないと思うんだが……」


 ディーが肩をすくめる。

 そんなわけで道なりに進むとあっさりと第二階層へと降りる階段へと到達した。


***


「はいー、ここで休憩にしましょー」


 現在、第八階層。今いる部屋を出た先が第九階層への階段へと繋がっているということで、ここで休憩となった。

 持ってきた茶葉を水球で包んで加熱することで、さくさくとティータイムの準備をする。


「第九階層も今まで同じで一本道なの?」


 ディーにお茶を注ぎながら質問。


「ああ、そうだな」


「で、第十階層への階段へと繋がってるんだよね。なんで今まで見つからなかったんだろ」


「ボク、なんどか最後の部屋だったところに行ったことあるんだけどね。ホント何もない部屋だったんだよ」


 ルルがカップを差し出すのでそちらにも。マルリーさん、ミュイさんにも順に注いでいく。


「このダンジョンの長年の謎でしたねー。最深部っぽいものが何もありませんでしたしー」


 ああ、そういう最深部っぽいものはあるものなんだ。


「そうなんだよね。でも、ダッツさんの話だと、月に一度の定期探索に来たら、急に先への通路が出来てたんだって」


「ふーん……。まあ、そこから調べ直した方がいいかもね」


「そうだな。私が来たときは全く気にせず進んでしまったが、見落としがあったかもしれない」


 なぜ今になって現れたんだろう。ちょっと『不死者の氾濫』との関連性もありそうな気がしなくもない。全くの勘だけど……


「まあ、このダンジョンが出来てからずーっと見つかってなかったって話だし、多分何もないと思うけどね」


 そんな話をしていると、急にミュイさんが割り込んできた。


「確認しておきたいことがあります。例の扉を開けることができ、先に進めたとして、そのまま第十一階層を発見できたところで撤退するということでいいんですよね?」


「もちろん、そのつもりですけど」


 私は答えたのだが、


「えー、行けるところまで行こうよー!」


 と不満を口にするルル。


「ダメですよー。任務は第十一階層の発見なんですから、そこまで進んだら報告が優先ですー」


「そうだな。先を見たい気持ちもわかるが堅実に行こう」


「むー、わかったよ……」


「安心しました」


 ルルが渋々だが納得してくれたのを見て、ミュイさんもほっと胸を撫で下ろす。


「さてー、では、先へ進みましょー」


 マルリーさんの号令のもと、私たちは休憩を終えて、目的の場所へと進み始めた。


***


 第九階層も特に魔物に遭遇せずに最後の部屋だったという場所に到着した。

 今までのこの階層の部屋はギルドの一階と同じくらいだったが、この部屋はそれよりも二回りほど広く、確かにこの階層のラストなのかなという感じだ。


「あれが見つかった通路?」


 ルルが左手奥を指差すと、そこは今までの部屋と同様の通路につながっているようだ。


「なんか普通。あれが今まで見つからなかったってなんでだろ……」


「警戒しつつ近づいてくださいねー」


 さくさく進むマルリーさん、言動不一致が過ぎます……


「うーん、さっぱりわかんない!」


「私はまったく違和感を感じないまま進んでしまったな」


「この先は階段だけ?」


「ああ、そうだな」


 うーん、あんまり時間かけてもしょうがないかな。まあ、ああ言った手前、一応真面目に調べておくかな。


「クロスケお願い」


「ワフッ」


 ちゃんと理解してくれたのか、クロスケは通路を少し進んだところで仁王立ちする。


「じゃ、ボクもクロスケと一緒にいるよ」


「私とミュイは後ろを見ておきますねー」


 盾持ちと斥候が前後にわかれ、私とディーが通路口のところに残った。


「さて、あった壁が消えたって考えるのが妥当な線だけど……。跡形もなく消えたのか、どこかに隠れたのか」


 部屋と通路の境目付近を念入りに見てみる。

 ん? 下に埋め込まれてるのかな、これ。なんか見落としそうなほど狭い隙間がある。壁が迫り上がってくるのか。


「うーん、どうやって持ち上げるの?」


「何か見つけたのか?」


「多分? 気のせいかもしれないけど……」


 油圧とか……はないよね、この世界。ああ、魔素で持ち上げてもいいのか。でも、ずっとそのままには……。うーんうーん……


「ここの下に壁だったものが収納されてるとして、どうやって持ち上げて保持したままにできると思う?」


「そうだな……。扉を持ち上げたあと、支える梁を渡しておけばいいのではないか? 今この見えてる部分がその梁なのかもな」


「これを右か左かどっちかにスライドさせると、その下に壁が埋まってる、と。閉めるときは、いったん梁をスライドさせ、壁を引き上げてから梁を戻して土台にすればいいのか。なるほどー」


 成立しそうな可能性があるギミックは理解できたけど、それを魔法でやり切るの難しくない?? こんなの作った本人にしか操作できないでしょ……


「やっぱりこれって、ダンジョンが意図して動かしてるのかな」


「ダンジョンの仕掛けだとしてもあまりにも異質すぎる。今まで扉などなかったところに、見つけられない、開け方がわからない扉が出てくるのは不自然すぎるだろう」


「だよねえ」


 この先を隠したくて作ったんだろうけど誰がこんなことを? それに今になって開ける理由は?


「保留! とりあえず先へ進みましょ。問題はこっちじゃなくて、開かないっていう次の階層の扉なんだし、ここで時間使いすぎるのもね」


「ふむ。そうだな」


 後ろを警戒してくれていたマルリーさんたちを呼び、前にいるルルとクロスケに追いつく。


「おー、ミシャでもわからないことあるんだね」


「ルルは私のことなんだと思ってるの……」


 そして私たちは問題の第十階層へと降りたった。


***


「大丈夫そうですねー」


 マルリーさんを先頭に問題の部屋に入る。

 第十階層に降りて通路をまっすぐ行った先の部屋。結構広い。この前、整理に行った倉庫ぐらいあるかな?


「ここにオーガロードがいたの?」


「ああ、左手奥に扉が見えるが、あのあたりにいたな」


 部屋には特に障害物もないので、まっすぐ扉に近づく。あ、急に開くと怖いや。一応、心構えはしておこう。


「頑丈そうな扉だね」


 通路にぴったりと収まっている扉なので結構でっかい。主に鉄でできてるけど、一部に魔銀が使われているのかな。


「これがよくわからない装置ですかー」


 扉の右側の壁、顔ぐらいの高さの場所にその装置が設置されている。『例の腕輪をここにセットしてね』っていうくぼみがあって、直球だなーって感じ。でも、今回はそれを使うつもりはない。


「とりあえず見てみるけど、何もしなくても急に開いたりするかもしれないからよろしくね?」


「任せてよ!」


 ルル、ミュイさん、クロスケが扉から少し離れたところに正対し、マルリーさんとディーは私を守るように囲む。

 さて、まずは解析からかな……


《起動》《解析》


 ん、これ自体は魔素の経路を固定してるだけかな。で、その先は……扉本体なのかー。

 ああ、そうか! 動かしたい物体そのものを魔導具にしておけば魔素の範囲指定がすごく楽になるよね。気づかなかったなー。あ、さっきの第九階層もひょっとして?

 いやいや、それは後回しにして、魔導具になってる扉自体の解析をしないと……


 うん。やっぱり想像してた通り受信要素があった。ちょっと違ってたのは《受信実行》だったってこと。

 ナーシャさんの女神像は単純な《受信》。送信側は時刻データを送っているので、それを受け取って処理すれば良い。

 この扉の《受信実行》は受信側が何をするかという命令を送信側で送れるんだろう。もちろん、受信側でできることに限るんだろうけど。

 要するに『リモートプロシージャーコール』。魔法版の。


「ミシャ、何かわかったか?」


「あ、うん、ちょっと待ってね。ルル、ミュイさん、クロスケ、もう半歩下がってください」


 三人が下がったのを確認。さて、やろう。


《起動》《送信:解錠:4725:開門》


 まず扉がほんの少し上に動いた。そして地面から鈍く擦れる音が響き、それが収まると、今度は扉がゆっくりと下がりはじめる。


「「おおっ!」」


 ルルとディーが思わず声をあげたが、まだ終わりじゃない。

 扉が完全に床に埋まったあと、鈍く擦れる音とともに左下から現れた『梁』が扉の上を覆って止まった。ディーが思いついたギミックが大正解だったわけだ。


「ふう、開いたよ」


「さすがですねー」


 拍手? 大楯と籠手をガチャガチャさせるマルリーさん。

 ミュイさんは……そこまで目を丸くしなくてもいいと思うんですけど?


「クロスケ、お願い」


「ワフッ!」


 扉のあった場所を越え、少し先へと進んでくれる。

 ……どうやら普通の通路っぽいね。


「さて、どうします?」


「どうって。進むんじゃないの?」


「いや、ミシャはもう少し調べて、これを閉じられないか確認したいんだろう?」


 さすがディー。落ち着いてる時は超優秀。


「うん、この先に……手に負えない相手がいたときに撤退するとして、閉じておかないとまずいからね」


「なるほど!」


 そんなわけでクロスケを呼び戻して、全員部屋の中に待機。閉じるのも難しくないと思ってる。鍵を開けて門を開けたので、門を閉めて鍵を掛ければいいだけの話。


《起動》《送信:閉門:施錠:4725》


 先程の動きが逆再生されるように門が閉まった。で、鍵の数値はまったく同じにしておいた。忘れると困るから……


「さすがミシャ! バッチリだね!」


 はしゃぐルルとハイタッチ。


「ミシャさん、少し休みますー?」


「んー、大丈夫です。魔素はあまり使わずに済んでます」


 扉と梁を動かすためにがっつりと魔素を使うかなと思ったけど、最低限の面を作って動かしているようで、かなり効率が良い。施錠と解錠はともかく、開門と閉門を自分が構築しようとすると、どうしても扉と梁の重さで厳しそうなんだけど、どうやってるんだろ……

 単純に扉だけを解析しても動作が無いからよくわからないんだよね、これ。実際に命令を実行させつつ解析しないとダメなんだろうな……


「ミシャー?」


「ミシャさんー、帰ってきてくださいー。もう一度開けてもらって進みましょー」


 おっと、また思考の海にダイブしてしまってた。今の優先事項を先に済ませないと。

 さくっと扉を開けて隊列を組み直す。前衛は右にルル、左にマルリーさん。中衛は右がディー、左が私。後衛は右がミュイさん、左にクロスケの布陣。

 続く通路は少し先で曲がっているのか見通せない。

 かなり怖いな……。ちょっとヤバいかも。鼓動が早く、呼吸が浅くなる。


「心配しなくても大丈夫ですよ。もしもの時は私が殿を務めます。いつも通りでいいんです」


 後ろからミュイさんの声がかかって……


「ふー、ありがとうございます」


 深呼吸して鼓動が落ち着くと、通路の先が見えるようになった。

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