動作不良の原因を追え
第18話 コピペではかどる魔法付与
「すいませーん」
表から入るのは初めてだけど、思ってた通りの感じ。
ずらっと並べられた杖や腕輪、指輪といったアクセサリー。うーん、何かアクセサリー買って帰ろうかな……
「はいはい、なんだい。ってミシャかい。どうしたんだい?」
「えーっと、ちょっと相談がー。この子も一緒にいいですか?」
「あんたの相棒かい?」
「です。いい子ですよ」
「ワフッ」
ペコリと丁寧に挨拶するクロスケ。
「あんたより常識はありそうだね。まあ、暇だし、奥へ来な」
手招きされて奥に。昨日話したスペースへ。昨日と同じテーブルに案内される。
「で、どうしたんだい」
「あ、えーっと、これお土産です。どうぞ」
「へー、教会に行ってきたのかい」
「ええ。で、お土産屋のおじさんに聞きました。ナーシャさんが魔術士ギルドの支部長だって」
「今頃気づいたのかい?」
ちぇっ、素で返されてしまった。
「はあ……。私がロゼお姉様の弟子だって件は良いんですか?」
「あたしが支部長だから問題ないんだよ。なんならあんたも魔術士ギルドに登録しとくかい?」
「あ、う、うーん……。ロゼお姉様が何ていうかな……」
「どういう話を聞いてるのか知らないけど、ロゼ様と揉めてるのは魔法なんかどうでもいい連中だけだよ」
え、そうなの? もっと全面的に敵対してるようなものかと思ってたんだけど。
「なんだ、そうなんですか。ちょっとホッとしました」
「ただ、あんたがロゼ様の弟子って話はいきなりすぎてまずいね。魔術士ギルドに所属したくなったらあたしの弟子ってことにすればいいよ」
「はい、ありがとうございます。この街を出る前にはお願いすると思います」
そう言うとナーシャさんの表情が少しだけ曇る。
「ノティアを出てくつもりなのかい?」
「すぐってわけじゃないですよ。ルルやディーと揃って行けるようになったら、です」
ナーシャさんがホッとした笑みを浮かべる。
「あの子のこと頼むよ」
「はい、できることはします。ので……ちょっと教えてほしいことがー」
「はあ、なんだい。感心して損したよ。そっちが本命かい?」
「あはは……。で、あのお土産の女神像に付与されてる魔法を教えて欲しくてですね」
「教えてやってもいいんだけどね。魔術士としての対価が欲しいところだね」
「むむ、そうですね……」
ナーシャさんには魔法のことは全部知っておいてもらった方がいいか。
「まだ魔法付与してない像があったら、それに私が付与するっていうのでどうでしょう?」
「なるほど、そりゃいいね」
ナーシャーさんが少し待つように言って店舗の方へと消え、程なくして戻ってきた。例の女神像五体を抱えて……
「さて、こいつは終わってるから解析して、残りの四体を頼んだよ」
「えー、ズルい……」
「ま、全部預けとくから気長にやりな」
「はあ、しょうがないですね」
私は昨日買ったガテンワンドを出して机の上に置いた。さて、ちゃっちゃとやってしまおう。
《起動》《解析》《付与》
右手で女神像の魔法付与を解析し、左手でガテンワンドに付与する。
「ふう……」
「あんた、何したんだい!?」
「えーっと、こっちの女神像を解析してこの短杖に付与ですね」
頭を抱えるナーシャさん。
「うまくできたみたいなので、こっちの四体に付与しますね」
ナーシャさんは放置してノルマを終わらせてしまおう。付与されてる魔法はガテンワンドの方に移したので後でじっくり検証しよ。
作業に集中してサクサクとコピペ。内容まったく理解せずにコピペコーディング、いやコピペエンチャントかな。ともかく良くないのでさっさと終わらせてしまいましょ。
「ふう、終わりましたー……痛っ!」
と、終わった途端にナーシャさんのゲンコツをもらう。
「年寄りを何度も驚かせるんじゃないよ!!」
「うう、すいません。魔法付与のことは伝えてなかったからちょうどいいかなって」
「あんたはいったいどんだけ魔法の才能があるんだい……」
「魔法を人よりちょっとうまく制御できるだけですって。ねぇ、クロスケ?」
ふいっと横を向かれてしまった……
「はっ! あんただけだよ、異常なのを自覚してないのは。ともかく、その魔法付与も信用できる相手以外に見せるんじゃないよ!?」
「十分理解してます」
「ホントかねぇ……」
ジト目で睨まれたのでニッコリ微笑んで返すことにした。
大丈夫ですって。わかってますからその目はやめて欲しいかなー……
「で、そもそも何で女神像に付与された魔法を知りたかったんだい?」
「それなんですが、腕時計を作りたかったんですよ」
「なんだいそれは。腕に時計でも生やすのかい?」
やっぱりこっちには腕時計っていう文化?がないのか。
そもそも鐘の音以外に時間を知る方法がないので「時計」っていう概念も怪しいかな。チート翻訳がうまくごまかしているのかも?
「鐘が鳴った時は時間がわかりますけど、その間はわからないですよね。あとどれくらいでいくつの鐘がなるのかって気になりません?」
「いまいちわからないねぇ。そんなに気になることかい?」
むう、生活スタイルが時間に依存してないからかな。日本人が依存しすぎてるから私が気になるだけなのかもしれない。
「あと、そうですね。例えばダンジョンに入ってると鐘の音が聞こえないじゃないですか。それってご飯だったり休息だったりの時間がわからなくなって危ないと思うんです」
「……それは理解できるね」
「なので、腕輪にでも付与して持とうかなって。詳しく解析して改良したい部分もありますし」
ナーシャさんは何も言わずに立ち上がると、今度は腕輪をいくつか持って戻ってきた。
「五つある。ルルにあんた、マルリーにエルフの嬢ちゃん、そしてあたしだ」
頷く。出来たらちゃんと渡せってことですね。了解です。
「そろそろギルドに戻ります」
「ああ、気をつけて帰りな。あと次来たときは裏口から来な」
「ロッソさんところから入っていいんですか?」
「うちの旦那には話しとくよ。表から来て魔術士ギルドの誰かとかち合うと面倒だからそうしておくれ」
確かに。私もなんかボロが出そうで怖い。
ん?
「うわっ!」
教会の昼の二の鐘の音が響き渡り、テーブルに置いてあった女神像がいっせいに光り始めた。ついでに私の短杖も……
「私の弟子って話、無かったことにしたくなったんだがね?」
「帰りますね!」
聞こえないフリをして、私とクロスケはダッシュで裏口から逃げ出した……
***
ギルドへ戻る道すがらいろいろと考える。
やっぱり自分の魔法への適性は異常なレベルっぽい。魔力がたくさんあるとかではないけど、魔法を完璧に詠唱できるせいで、普通の魔術士ではありえない程の効率が出ているらしい。
これ、十%ぐらいの効率を基本に魔法が作られたとしたら、それを百%発揮できると相当ヤバいよね……
「ただいまー」
「ワフー」
「あ、おかえり!」
「ちょうど良かった。今、ミュイ殿が来られてな。しばらく後にダッツ殿たちの本日の調査の結果を教えてくれるそうだぞ」
昼の二の鐘が鳴って少し経ったぐらいかな。だとすると……
「……揃っているようですね」
「はいー、じゃ、二階へ上がりましょうー」
クロスケはいつものポジションに寝転び、私たちは二階へ上がるといつもの応接室へと入った。
マルリーさんがローテーブルの上座に椅子を一つ足し、ミュイさんをそこへ促す。
私とルル、マルリーさんとディーが向かい合わせに座ると、それを確認したミュイさんが話し始めた。
「結論から言いますが、兄達のパーティーは第十階層に降りましたが、そこから先へはほぼ進めませんでした」
「ほぼー?」
「オーガロードがいたと思われる部屋に到達。敵はいなかった。先へ進む扉は閉まっており、それを開くであろう魔法装置を発見したが動作せず。それ以外の場所を念入りに調査したが特に怪しい場所はなし。他に手がかりもないため撤退……」
「え、それだけ!?」
「はい」
静寂が訪れる。ルルもディーもどうしたものかという顔。
私……とマルリーさんは想定どおりなんだよね、それって。
「えーっと……魔法装置?って何だったんでしょう?」
「ライルさん、兄のパーティーの魔術士ですが、解析してもわからなかったそうです」
え、わからないとかあるの? 付与されてる魔法構築を断片的に見てわかりそうな気がするんだけど……
「明日はどうされるんでしょうねー?」
「明日はナーシャさんに同行してもらうつもりでいるとのことですよ」
ナーシャさんならわかる可能性がある? どういうことだろう……
ああ、意味として理解できないってこと? 書かれている文字はわかっても、その文字が何を意味するのかわからないことがある、のかな。
あの腕輪に付与されていたのは解錠の送信だった。そこから思いつくのは受信。あ、受信っていう概念が存在しない?
「どうやら私たちもちゃんと準備しておかないとダメっぽいですねー」
「明日は円盾も出来上がるし楽しみ!」
「そうだな。明日はミシャも体を動かしておいた方がいいぞ」
私がお散歩に出てる間、二人は何してたんだか。
「……ナーシャさんが同行しても解決しないと見ているのですか?」
「そうですねー。どういう魔法装置かはわかるでしょうけどー、それで扉は開かないんじゃないかなーとー」
「あなたたちなら進めるということですか?」
「だってミシャがいるもん!」
ルルのドヤァが炸裂! はいいんだけど、ミュイさんの視線が痛い……
「そうですか。ともかく、明日はもう少し遅い時間に報告に来ることになると思いますので、そのつもりでお願いします」
ミュイさんはそれだけ言うと立ち上がって部屋を後にしてしまう。
「怒らせちゃったんじゃない?」
「ミュイ姉はいつもあんなだから気にしなくて大丈夫!」
「それなら良いが、ほどほどにしておいた方がいい。親しき中にも礼儀ありだからな」
「そうですよー。まー、ミュイからかうのは楽しいですけどねー」
ちょっとギルマスー……
「それで、この後どうするの? まだ昼の三の鐘も鳴ってないじかんだけど」
「ダンジョンの構造がどうなってるか知りたいかなー。ルルもディーも入ったことあるんだし教えてよ」
「そうですねー。あそこは初心者向けダンジョンってことでー、そのうちミシャさんにも行ってもらうつもりでしたしー。第九階層までの地図を持ってきますのでー、見ておいてくださいねー」
マルリーさんが席を立つ。
「そうだ。ルルはディーの精霊魔法見せてもらったの?」
「うん、見たよ。すごかった! ディーって光、風、土、水、樹の五つも契約してるんだよ!」
「おおー、すごい!?」
よくわからないけど、きっとすごいんだろう。うんうん。
「直接攻撃するようなものは少ないので、主に皆をサポートしていくことにするさ」
「なるほど。回復系?」
「……ミシャって普通のことを全然知らないことがあるよね」
「まあ、いろんな意味で常識はずれだな」
失礼な。知らないから聞いただけなのに。
「回復魔法は神官さんが得意としますねー」
地図を持って戻ってきたマルリーさんがそれらをテーブルに置いて座る。
「神聖魔法の回復、精霊魔法の回復、ポーションでの回復、この三つでしょうかー」
「なるほど。ディーは精霊魔法の回復が使えるんだ?」
「ああ、樹の精霊に力を借りる《癒し》だな。だが、回復速度は緩やかなので、戦闘中は後手に回りやすい」
「そっか……」
魔法の話に入れ込んじゃってしまってたけど、そもそも戦闘で怪我しないように、怪我しても治せるようにしておかないと危ないんだったな。
「ポーションはダメなの?」
「うーん、ポーションは戦闘中に扱いづらいんだよ。傷口にかけるのが一番治りがいいんだけどね」
「前衛にはかなり難しい話だ」
デスヨネー。
「ちょっと効果は遅いけど飲んでも効果は出るんだよ。でもね……」
「前衛にはかなり難しい話だ」
大事なことなので二回言いました的な。
「うーん、一応、ポーション作ったの持ってるんだけどな」
「あらー、ミシャさんはポーションも作れるんですねー」
あれ? これも言ってなかったっけ?
「もう驚かないけどさ」
「ミシャが作ったポーションはヤバそうだな」
頷き合うルルとディー。
「どういう意味!?」
「普通のポーションのつもりでエクストラポーション作ってそうですよねー」
「そ、そんなことはない、と、思います、多分……」
普通に、普通に作ったはず。だけど、ナーシャさんの話を聞いた感じだとそれでもやばそうなんだよね……
サイドポーチにあった親指ぐらいの小瓶を取り出して机に置く。この世界、当然ガラスの量産化はされてないので、結構厚めで蓋はコルク?っぽいものだ。
「ほう。王都で見たよりも色が濃い気がするな」
「これ、傷口に一滴で治りそうな感じだね」
「むー、普通は傷口にどれくらいでいいの?」
「うーん、ポーションの質によるけど、その瓶の半分ぐらい?」
あ、そうだったんだ。森の館にあった瓶を適当に使っちゃったからなー。
ん?
「このポーションを魔法で飛ばして当てるっていうのはダメかな?」
「ほう、それは面白い考えだな」
「前衛で戦ってる味方の怪我した場所に当てるってことだよね? すっごく難しくない?」
狙った箇所に正確に当たるような仕組みにしないとってことか……
目標地点に自動追尾するようにすればいい? 途中に障害物があった場合はどうしよう?
「ミシャさんが旅立ってしまったようですがー、ポーションについては準備しておいた方が良いと思いますねー」
「買ってきておくべきだろうか」
「ミシャが作れるんだから、薬草を採ってきた方が良くない?」
「そうですねー。戦闘訓練も兼ねて、明日、東門から森に行ってみますかー?」
「え、東門から森に行っていいの!?」
「私が付いていく分にはいいですよー」
「薬草の採集はいいとして、ミシャが錬成したポーションを入れる瓶が必要なのではないか?」
「それは今から買いに行こ!」
「ではー、そういうことでー、ミシャさんはゆっくり考えてくださいねー」
………
……
…
「えーっと、明日は東門から森に行って薬草を採る?」
「うん」
「それで私がポーションを作る?」
「そうだ」
「いつ決まったの?」
「ミシャがポーション飛ばす魔法を考えてる間に」
気がついたら応接室に誰もいなくて何事かと思ったら、ちょうどルルとディーが現れたところ。
「もうすぐ夕飯の時間だから呼びに来たんだけど、ちょうど良かったみたいだね」
「う、うん」
まだよくわかってないけど、とにかくポーションを飛ばして当てるメドはついた。《火球》の要領でポーションの玉を魔素膜で包んで飛ばす感じ。指定箇所へのホーミングは、いったん考えすぎずに上空まで飛んでから最短コース?
ちょっと試してみるかな……
《構築》《元素》《水》
親指の先ぐらいの水球がふわっと浮き上がる。魔素のコントロールの感覚で動かせるけど、見えてる範囲になるので、飛距離はいまいちかなあ。誘導に関しては後でもう少し考えてみよ。
「私はもう驚かないぞ」
「慣れるよね」
この水球、その辺に捨てるわけにもいかないし、ルルの口に突っ込んでおくかな……
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