チームビルディング
第13話 ハケンから直接雇入へ
覇権ギルドにいた人たちの視線がなかなかに痛い。
そのほとんどが完全武装のマルリーさんに注がれているんだけど、当のマルリーさんはいつものぽわぽわ顔で全然気にしていないという風だ。
「おおお、マルリー嬢、やっぱり神々しい……」
うん、見た目的にはそうだよね。
「あれがオーガも裸足で逃げ出す『永遠の白銀マルリー』か……」
何そのカッコいい二つ名。
「ああ、マルリーさま……お姉様になって欲しい……」
こっちの世界もそういうのあるんだ。うん、知ってた。
「ルル」
と背を押すルルに声をかけると、ルルの方もわかっているのか覇権ギルドの中をぐるりとみまわした。目的の人物を探すために。
「あ、いた!」
ダッシュで駆け寄ってがっしりと掴んだのはエルフさん、ディアナさんの腕。そのまま有無を言わさず引きずってくる。
どうやら何かの手続き、まあ、このギルドの退会手続きをしたところなんだろうと思う。自分だったらそうするだろうと思うし。
「ちょ、ちょっと」
「はいはい、連行しますよー」
マルリーさんもニコニコ顔でそう言うので問題はなさそうだ。やってることはわりと酷い気もするけど。
「うん、ごめん。あきらめて」
私もそう言いつつ、空いている左手側をがっしりと掴む。さすがにこの場でいろいろと聞き出すのはアレなので、うちのギルドまで連れて行くつもりだ。
こうして私たちは、白昼堂々と一人のエルフをさらって自分たちのギルドへと帰還したのだった。
***
「はい、ここに座って座って」
ルルがディアナさんを強引に座らせ、私たちも同様に席に着く。
場所は二階の応接室。マルリーさんが上座。ルルと私が一緒に座り、向かい側にディアナさんを座らせている。クロスケは前と同じで階段の登り口の見張り役だ。
「あの申し訳ないが、私はもうあのパーティーもギルドも抜けたのだ。あちらに迷惑がかかるようなことはしたくないのだが……」
少しきょどり気味にそういうディアナさん。なかなかに義理堅いというかポイント高い。
だが、ここに呼んだのは別に今さらあのパーティーに復讐しようとかそういう気はまったくなくて、単純にまずは一つ質問があるから。
「それはどうでもよくて、じーちゃん呼んだのってディアナさんなんでしょ? ボクが孫娘だって知ってたの?」
うんそれ。私ですらあの瞬間まで知らなかったことをなんで知ってたのか?
「あ、いや、そのことについては全く知らなかった。その……昨日の夜のことから順を追って話していいだろうか?」
「うん、それでお願いします」
私がそう促すとディアナさんはふうっと一息ついてから話し始めた。
「私はあのあとパーティーメンバーの元へ戻って、全員で謝罪すべきだと主張した。だが、リーダーが反対し、あろうことかあなた方の功績を奪う算段を始めたのだ……」
ため息交じりに言うディアナさん。まあ、今日、何かほざいてたあれだね。
「私はそこでもう一緒にやって行くのは無理だと思い、パーティーから抜ける旨を伝えて彼らの元を去った。そして、彼らの悪意をなんとかあなた方に伝えておかねばと思ったのだが……」
「今日はもう勘弁って言われてすぐは来づらいよね……」
「なので、こちらのギルドの方に言伝願おうとここに来た……」
「うーんー、もう寝てたと思いますねー。寝不足はお肌に良くないのでー」
ブレないことに定評のあるギルマス。
「どうしたものかと困っていたところ、ダッツ殿の知り合いだという女性から声を掛けられた」
「ああ、ミュイ姉が関わってたんだ、納得だよ」
なんだかルルとマルリーさんが納得しているようだけど、私には全然わからない。そのミュイさんとやらがルルのお爺ちゃん……領主様を?
「ダッツ殿は実力もあり、あのギルドでも一目置かれている存在。そんな方の知り合いという方に、今さら恥も何もないだろうと全てを話した。すると、明日朝に街の有力者に合わせるので、そこで全てを話せば万事解決すると……」
なるほど。その有力者が領主様=ルルのお爺ちゃんだったってことか。
まあ、私やマルリーさんに伝えたところで『う、うん、そっかー。で、どうしよ?』ってなるだけだし、それなら万事解決って言われた方を選ぶかな。ちょっと素直すぎる気がするけど……
まあ、それはいいとして、
「ねえ、ルル。そのミュイさんって? 私そこがよくわからないんだけど」
「ミュイ姉はダッツさんの妹だよ。今はおじーちゃんの身辺警護みたいな感じかな。メイドって本人は言ってるけどね」
「納得したよ。これで全部繋がった」
ダッツさんが何やら動いていたのは、そのミュイさんに指示を出してたんだろうね。ダッツさんにしてもマルリーさんにしても、ルルが領主様の孫娘だということは知ってたみたいだし、おかしな事にならないように手は打ってたってあたりかな……
「で、ルル。私に言うことあるよね?」
そう言ってルルの方を向くと、ルルがすっと顔を背ける。
「あなたねぇ……」
「隠してたわけじゃないよ。言うタイミングがなかったっていうか。それになんかそういうの嫌なんだもん!」
「別にいいけど。今さら私の態度が変わったりしないからそのつもりで」
そう言いつつ、ルルの頭を掴んでぐいっとこちらに向ける。
「えへへー。ミシャ、ありがと!」
本当に嬉しそうな笑顔でそう言われてしまうとこれ以上は怒れない。チョロいなぁ、私……。
「二人は信頼し合っているのだな……」
感心したようにディアナさんが呟くのだが、それで思い出したことを聞いておかないといけない。
「き、気のせいです。それよりあの小役人が言ってた『インターン』について聞きたいんですけど」
「え、えっと、実は私もよくわかっていない……」
「じゃあ、質問を変えましょう。ディアナさん、他のメンバーだった人たちとは全く友人でもなんでもないんですよね?」
「……ああ、その通りだ」
あ、やってしまった……。前世でもそうだったんだが、どうも質問するときに『責めている』感じが出てしまうらしい。全然そんなつもりはないんだけど。
「あ、えっと……別に責めてるわけじゃないですよ。単純に事実確認ですから」
言ってからまたいまいちだったなと気づく。『真実は時に人を傷つける』とはよく言ったものだ……
「それでですね。あなた以外のメンバーはどうやら貴族のご子息ご令嬢らしいですが、今日いなかった他の二人はどうされました?」
「あの場にいなかった二人は早々に王都へと帰るそうだ……」
「ええ!?」
「え、いや『帰るそうだ』って?」
そう問うと、ディアナさんは今朝からあの会議に来るまでのことを話してくれた。
朝かなり早くにミュイさんと指定された場所で合流。そのまま領主様、ルルのお爺ちゃんの朝の散歩の間に時間をもらって面会。洗いざらい話し、他のメンバーがどうしているかを聞かれたところでミュイさんがそう答えたらしい。
「帰ったらしい二人は魔術士……見習いレベルですが、ふたりとも女性なのでオーガとの遭遇ですっかり怯えてしまって……」
「あー……」
まあ、わかるけど。私も一人だったら間違いなく逃げてた。ルルがいて勝ったから、今普通に居られるけど、負けて命からがら逃げてたら……
「昨日の話し合いの場でも二人はその……生気がないような状態でした」
「でも、そんなにすぐ帰れるものなの?」
「どっかの貴族の子女らしいから、ツテでもあったんじゃないかな」
そう言うルルにうなずくマルリーさん。
「退屈しのぎのお遊びぐらいのつもりで来ていたのなら、良い薬になったと思いますよー」
「ま、どうでもいいよ。他に質問がなければこの件は終わりでいい?」
私もマルリーさんもうなずく。そして、マルリーさんは例のものを取りに下へと降りていった。
「あの……もう用件が終わりなら、私はそろそろ……」
と席を立とうとするディアナさんの肩を、すすっと後ろに回ったルルががっしりと押し留める。
「え? えっと……」
「まあまあ、悪い話じゃないですから。それに『私個人で謝罪してくれる』って話でしたよね?」
ディアナさんは引きつった笑みを返すしかないようだった……
***
ディアナさんにはさっくりとうちのギルド『白銀の盾』の新メンバーとなってもらった。で、私たちはさっそく手近な依頼、今朝話してた倉庫の整理の依頼でも……というわけにもいかず、ルルがいつもお世話になってる鍛冶屋に向かっている途中。
ちなみにクロスケはお留守番。ついてくるかと思ったんだけど、ただの買い物だよって言ったら昼寝モードになってしまった。賢い……
お昼も過ぎてしまい、今から依頼をという時間でもなかったのと、ルルの凹んだ円盾を見たマルリーさんが直すか新しいのを買った方がいいと言ったから。
あと、私も魔術士っぽい装備を持っておいた方がいいと言われてしまった。初歩的な生活魔法ならまだしも、攻撃魔法が打てるのに手ぶらなのはおかしいと。
ロゼお姉様からもらった指輪があるからいらないと主張したけど、マルリーさんもルルも、ディアナさんまでも『おかしい』と言うので仕方なく……
そのディアナさんだけど、
「……本当に良かったのだろうか?」
「問題無いよ。あるならマルリーさんがそんなこと許さないし」
「はあ……。ミシャ殿もそう思いますか?」
少し困った顔で私を見る。
「うーん、かたい。『殿』はいらないかな。ミシャでいいよ」
「え?」
「ルルもいらないよね」
「そうだね。でも、それならボクたちもはずすべきだよ」
そっか、そうだよね。
「んー、ディアナ……ディア……」
「ディーとかでどうかな?」
おろおろしているエルフさんを放置して、その彼女の呼び名を勝手にあれこれ考える私とルル。
「あ、あの!」
「あ、ごめんね。流石に嫌だったら拒否していいから」
「いえ、その……できればそれで……」
「あ、そうなの?」
「じゃあ、ディーにしましょ」
「うん、ディー! よろしくね!」
「は、はいっ!」
まだちょっと堅苦しい感じはあるけど、普段からこういう感じならこれ以上は押し付けかな?
「で、ルル。道ホントにこっちであってるの?」
「あってるよ! ほら、ここから先が偏屈街だよ」
通りの名前……
「ここが鍛冶関連のお店が並んでる通りなんだ……。ディーは来たことある?」
「いえ、流石に私一人でここに来るにはちょっと勇気が……」
「ん? どういうこと?」
と私はルルを見る。
「ここの住人はほとんどドワーフだからね。じいちゃんが領主になった時に呼んできた人たちだよ」
「我々エルフは無駄にプライドが高いので、どうしても他種属、特にドワーフとは……」
そう言って苦笑するディー。
「そうなんだけど、ディーはエルフじゃなかったっけ?」
「私はそういうのが嫌で里を出てきたので……」
「広い世界を見てみたい的な?」
「そんなに高尚ものではなく。その……暇だったので……」
すいっと目を逸らすディー。
「あはは!」
「わかるよ。私もそんな感じだし」
そんなことを話しているうちに、どうやら目的の店に着いたようだった。
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