第7話 「薬草」の検索結果はxxx件です

 南門の門番さんが言うには、『未来の覇権』ギルドで選ばれた若手パーティーは一時間ほど前に出立したらしい。


「どういうメンバーなのか聞いておけば良かったかな? 追いついちゃうとアレだし……」


「大丈夫だよ。彼らは馬車で行ったらしいし、追いつくことなんてないって」


 そんな他愛のない話をしながら街道を南へと進む。

 この街道は南端にあるラシオタという港町へと続く道。四時間ほど歩くと着くらしいので、長さは二十キロちょいぐらいかな。

 例のダンジョンはその中間よりは北にあり、街道にある小道を東に少し進んだところにあるらしい。街道に近いって不用心な気がするんだけど……


「ダッツさんたちが第十階層への扉を見つけるまでは、浅くて初心者向きのダンジョンって感じだったね」


「おー、ルルは入ったことあるんだ」


「マルリーさんに紹介されて、ダッツさんたちに連れてってもらったことがあるんだ。ダンジョンの中にしか生えないコケの収集って依頼だったんだかな。すごく地味な作業だったよ……」


 ルルとダッツさんはその時に仲良くなったらしい。


「ダンジョンにいる魔物ってどうだったの?」


「うーん、敵はほとんどゴブリンかな。あとオーク。たまに魔法使うやつがいたくらい」


 森にあったゴブリンの洞窟とあんまり変わらないんだ。それなら自分でも大丈夫か。

 オークは……豚だよね。この世界でも異世界物の定番『オークカツ』はあるのかな。


「そういえば、ダンジョンの魔物って外から入ってくるの?」


「うーん、そういう話も聞くけどよくわかってないかな。ダンジョンの周りは魔物少ないから、多分そうなんじゃないかな」


 まあ、安全に暮らせそうなねぐらにしてしまうのはわかる気がするけど。


「で、ダンジョンって……何なの?」


「うーん、ボクも聞いた話だからあやふやだけど生物の一種らしいよ。ほっとくと成長するって話らしいし」


 なるほど、ダンジョン生物説の世界なのかー。


「ダンジョンコアってあるの?」


「ミシャって変じゃない? なんでそんなことは知ってるの?」


 ごめんなさい。そういうラノベが好きだったからです。

 と正直に言うわけにもいかないので適当にごまかすしかないかな。


「えーっと、なんていうか、ダンジョンってすごく大きいから、核になるものが必要なんじゃないかなーって思って?」


「もう! 意味わからないんだけど!」


 プリプリ怒り始めるルルを作り笑いでかわす。


「まあまあ。でも、それなら新しく見つかった階層もそんなに脅威じゃなさそうだね」


「多分ね。だからダッツさんたちが外されたのかな……ちぇっ」


 ルルはまだその件に怒っているようだ。


「若手に成功体験をさせるって話、私も一理あるとは思うけど……。でも、そういうのって相応に苦労した上での成功じゃないと、単純に調子に乗っちゃうだけな気がするんだよねー……」


 体育会系でパワハラに近いような若手イジメは言語道断だと思う。

 でも、周囲の苦労を知らないまま『俺はアレやったんだぜ!』って感じになっちゃって、今度は失敗した時に周りのせいにし始めるというパターンを随分見た。


『採用面接の時は素直な子だったのに、なんでこんな奴になったんだ……』


 人事のおっちゃんが嘆いていたが、そういう奴にしてしまった当時の課長は経費でキャバクラ嬢に貢いでたのがバレてクビになりました。ドンペリ開けたら流石にバレるでしょ。


「ミシャ? ミシャ!?」


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」


「ミシャってボクと同じくらいの歳かと思ってたんだけど……ひょっとしてもっと大人なの?」


 精神年齢は三十路前です……


「十八歳だよ!」


「ボクの一つ下? ホントに?」


「む、疑うならさっきダッツさんとマルリーさんの婚期の話してたのバラすよ?」


「そ、それはやめて!」


 本当に何歳なんだろう、あの人。あ、寒気がしたのでこの考えはやめよう。


「そういえば気になってたんだけど……うちのギルドって他にメンバーいるの?」


 ルルが前に他のギルドメンバーを初めて見たとか言ってたから。


「うーん、正確な人数はボクも知らないんだけど結構いるらしいよ。王都とか他の国に行ってる人がほとんどみたい」


「え、なんで? ギルドってここでお仕事こなすことが義務なんじゃないの?」


 街の税金がうちのギルドにも使われてるんだろうし、ベルグはともかく他所の国でって……


「うちのギルドはギルド税は払ってるけど国や領主からは援助は受けてないんだって。依頼料だけで賄ってるって言ってた。あと、たまに戻ってくるメンバーが寄付していくらしいよ」


「え、それってすごいことなんじゃ……」


 そういえば、土地も建物もマルリーさんの私財だって言ってたから、そこに賃料は発生しないのか。でも、ギルド税は何年か先まで前払い済みだとか言ってたし、それってメンバーの寄付だけで払える額なの?

 土地建物もそうだけど、マルリーさんが自腹でかなりの額を出している感じだよね……


「すごいよね! でも、謎なんだよ!」


「謎なんだ……」


 そんな雑談をしているうちに、件のダンジョンへの小道にたどり着いていた。


***


「ここから先だよ。薬草は道端の草むらにあるらしいけど……ボク詳しくないから……」


 ルルが助けを求める視線をよこすので、


「あ、うん。私わかるし、クロスケもいるから。ちょっと待ってね」


《起動》《防衛機構》《静音》《索敵》《探索:コプティ》


 いつものセットに《探索》をターゲット指定して加える。

 探索の魔法は対象物の実物を見たことがあるのが前提。

 コプティは春咲きの薬草で、いわゆるヒールポーションの生成に必要となる。……と本に書いてあったし、実際に作ってもみてちゃんとできたのでショルダーバッグに入れてある。


「ミシャ、魔法使えるんだ!」


「薬草探すのが仕事なんだから、その程度で、だよ?」


 正直、攻撃魔法とかガンガン使うようなお仕事は遠慮したい。程よく稼いであちこち旅するのが目標なので。


「っと、あったよ」


 探索に感があった方に足を運ぶ。そのちょっと離れたところにあった草むらをかき分けるとコプティが見つかった。


「これを探せばいいから」


 二人に見せるとルルは難しい顔をしたが、クロスケは『完全に理解した』みたいな顔をした。いや、それはわかってない奴なのでは?


「ワフッ!」


 とクロスケが駆け出し、さくっとコプティを見つけた。前言撤回、完全に理解してましたね。


「ルルはクロスケを手伝ってあげてね」


「うう……そうする……」


 探す役・摘む役で分担して効率よく行こうねー。


「あ、葉と茎だけでいいし、あるやつ全部摘まないでね。少し残しておかないと来年無くなっちゃうから」


「はーい」


 ルルも私も採集用に持ってきた小ぶりの麻袋を取り出し、摘んだコプティを手際よく詰め込んでい

く。


「ねえ、ミシャ。この先って奥へ行くよりも、道沿いの方がいいかな?」


「そうだね。帰りが楽になるから道沿いで行こうよ」


「りょうかーい。クロスケ、あっちねー」


 と仲良く進んでいく二人。帰りが楽なのもそうだけど、ちょっと見てみたい気がしている。この世界にあるダンジョンの入り口とやらを……


***


「これが入り口なの?」


 なんてことない洞穴?の入り口。その側には『許可なく立ち入りを禁ず ノティア領ギルド管理課』という立て札。

 立て札自体はちゃんとした金属で作られている感じだけど、なんだか寂れた観光地っぽくて期待外れ感がすごい。


「そうだよ。ちょっとわかりづらいから、この立て札が目印になってるんだ」


「がっかりだよ!」


 ナニコレ……緊張感のかけらもないじゃん……

 がっくりと膝をついて両手をつく私に、ルルが不思議そうな顔をする。


「ミシャが何を期待してたのか、ボクにはわからないんだけど」


「もっとこう、石造りの門があって、頑丈そうな鉄の扉とかがさ!」


 森にあったゴブリンの洞窟と変わらないんだけど……


「うーん、王都の西の山脈にあるダンジョンはそういう感じって聞いたことあるけど」


「はあ……。わかった、絶対そこに行ってやるんだから……」


 立ち上がり、膝についた土を払う。


「……ミシャはノティアから出て行っちゃうの?」


 ルルがちょっとびっくりしたような顔をして言った。


「あ、いや、すぐにとかじゃないよ。村から出てきたばっかりで街での生活とかもっと知らないとダメだし。でも……もっといろんなところに行ってみたいって気持ちがあるから、いつかは旅に出ると思う」


「むう……なんだかちゃんと考えてるんだね」


 ちゃんとは考えてないかなぁ。とりあえず一ヶ月ぐらいここで生活してみて、そのあとは西に向かってみようかなってぐらいで……


「ちゃんとじゃないよ。好きなことしたいって思ってるだけだもん。他の国にはすごく美味しい食べ物があるかもしれないし」


「そっか……うん、そうだね!」


 ルルは何か納得したような顔で笑った。


「ルル、もう袋はいっぱいになってる?」


 私の方はもういっぱいだ。依頼は袋一つをいっぱいにすれば良くて、二袋目までは報酬が増えるってことなので、ルルの方もいっぱいならこれ以上は無駄になる。


「うーん、いっぱいかな。詰めればもう少し入るかも?」


「ううん、終わりにしよ」


 無理に詰め込んでコプティの葉がちぎれたりするほうが良くないので終了で。


「せっかくだし、ちょっとダンジョンの中、覗いてみる?」


 そういえばルルはダンジョンに興味ありそうだったなと聞いてみた。

 話を聞いた分には、最初の階層ぐらいは覗いてみても問題ないと思うし。


「あ、ダメだよ。ダンジョンは依頼を受けたメンバーじゃないと入れないから」


「え、そういうものなの?」


 ルル曰く、入れそうに見えるけど結界のようなものがあって、それが作動するらしい。


「このダンジョンはノティアがきっちり管理してるからね。そうじゃないと、新しい階層の話だって抜け駆けする人が出てくるでしょ?」


 そいやそうだ。依頼の報酬抜きにしても、より深い階層で何かしら良いものが手に入る可能性があるわけだし、勝手に入ってくパーティーがいてもおかしくない。

 それに「めちゃくちゃヤバい封印」とかがあって勝手に解放されたら……


「いつ入っていつ出たとかがこの看板とギルドカードに記録されるんだよ!」


 ちょっと得意げなルル。

 仕組み的には《判定起動》が組み込まれた魔道具になるのかな。勝手に解析すると怒られそうだし、折を見てマルリーさんに相談してみよう。


「新しい階層の話が落ち着いたころに、依頼があるようなら入ってみようか」


「いいね、それ!」


 目をキラキラさせて賛成するルルを見てちょっと不安になる。


「ダッツさんたちにも一緒に来てもらおうね」


「えー! 三人で行けるよねぇ、クロスケ?」


「ワフワフッ!」


 もう、クロスケも危険そうなことに賛成するんじゃありません。


「さっ、今日は帰ろ」


「うん!」


 とダンジョン入り口に背を向けたところで、不穏な地響きが私たちを襲った……

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