第三章◆強襲 3

 この一週間、私とレグルスが鍛錬をしている間にも狩人衆でたんさくを続けていたが、巣の規模は今なお異常な速度で拡大し続けていた。ここまで大きくなるまで気づけなかったことが本当にない。

 探索の結果、複数のゴブリンロードが確認できたことから、それを統率している存在、ゴブリンキングがいるということは確信に変わっていた。

 作戦としてはゴブリンロードを私とレグルスで殲滅、その後ゴブリンキングのいる最奥のすみめ込む形だ。

 狩人衆はわなを張り、戦いによって散らばる下位ゴブリンたちを村へがさないようにほうもうを構築している。

 ねんため村民にもなん準備をしてもらい、包囲網がとつされそうな時はとなりむらへ避難してもらう手はずとなっている。これで最悪私たちが失敗しても、がいは最小に食い止められるだろう。

 ゴブリンキングが相手となると確実を期すために増援がしかったけれど、王都からはゴブリンキングと戦えるようなSランク級の冒険者をすぐに派遣することは難しいとの回答だったため、限られた人員でベストをくすしかなかった。

 全く、冒険者をとっくに引退した父母にこんな大役を任せるなんて、冒険者ギルドも人使いがあらいったらないわ。

「準備はいいかしら? みんな、命を第一に考えて絶対生き残るのよ。村民を守ることは絶対だけど、あなたたちの命も等しく大切にしなさい」

「「「応!!」」」

「それでは、そうとう作戦を開始します!」

「「「応!!」」」

 小さく、しかしにあふれる声を上げ、おのおのの持ち場に散らばっていく狩人衆。私たちも数人の隊員を連れて奥へ進んでいく。

「あなた……シリウスのためにも、絶対生きて帰るわよ」

「あぁ、もちろんだ。君は俺が守る。俺ら二人が組んだら最強だろう?」

「そうね。あなたとならドラゴンにだって負ける気がしないわ」

「ふっ、その通りさ! よし、行くぞ『らいじんてん』」

 レグルスの特級じゆつらいじんてん』により強力なかみなり属性が付与エンチヤントされ、身体能力がね上がる。そしてその付与エンチヤントは愛刀『ライナギ』にもまとわれ、すさまじい魔力を帯びた。

「まず俺が周囲を殲滅する、護衛を頼む」

「ええ、勿論よ」


「『雷神のトールジヤツ裁きジメント』」


 しゆんのうこうな魔力が上空に集まり、こうはんごうらいが降り注ぐ。雷はゴブリン、ゴブリンリーダーはもとより、ゴブリンジェネラルまでもいちげきほうむり去っていく。

 広場にいたゴブリンたちの大半は殲滅され、生き残った者も散り散りに逃げ出していく。

 レグルスの魔術にれていると、とつじよ凄まじいしようげきがゴブリンたちをき飛ばしながら、魔術に魔力を注ぎ雷を降らせ続けるレグルスに飛来した。

「ハァッッ!!」

 瞬時に『ライナギ』をく。

 でんを纏ったざんげきで衝撃波をさんさせた。そんな私を余裕の表情で観察しながら、凄まじい存在感と共に衝撃波を放った存在が姿を現した。

「ゴブリン……キング……!」

「お出ましか……!」

 三びきのゴブリンロードとゴブリンマジシャンを従え、ゴブリンキングが姿を現した。

 ゴブリンキングは身長が二メートル程度で引きまった筋肉を纏っており、魔族とゴブリンの中間のような容姿をしていた。身長が三メートル以上あり筋肉質なゴブリンロードと並ぶと一見ひんじやくそうに見えるが、纏っている魔力の密度はゴブリンロードの比ではない。

「ニンゲンヨ……ヤッテクレタナ」

 ゴブリンキングはきばをむき出しにし、おぞましい声を放った。まさかここまでとは……。

「人語をあやつるほどなのね……」

「高位の魔物は人語を解するとは言うが、ゴブリン族にそこまでの知能が宿るとは……やっかいだな……」

「ユルサナイ、カトウナニンゲン、コロス」

 ゴブリンキングが凄まじい殺気を放つと同時にゴブリンロードたちが地をり、いつせいおそいかかってきた。

「ゴブリンロードたちは俺がやる。ミラはゴブリンキングを! 『雷槍雨ライトニングレイン』」

 雷のやりが雨のように降り注ぎ、ゴブリンロードを襲う。そして予定通り、ゴブリンロードのヘイトがレグルスに集中し、ゴブリンロードたちはそちらへ突進していった。

「ハァァァァッッ!!」

ライナギ』に気力をみなぎらせながら、一足飛びでゴブリンキングににくはくし刀を振るう。

 ──ガギィィン

 こんしんけんげきを放つも、ゴブリンキングはそれを軽々と受け止めかいそうに表情をゆがませた。

「ッ!?」

 必殺の一撃を放ったつもりが受け止められ一瞬どうようしたが、すぐに無数の剣撃を放つ。

 ──ガギギギギギギィンッ

 ゴブリンキングはにくにくしげな表情を浮かべつつも無数の剣撃をなし、それどころかすきくように反撃を放ってくる。おそろしい反射神経だ。

らいじんてん』の効果でこうげき速度は優勢であったが、どうにも攻撃力が不足している。

 ゴブリンキングの纏う魔力密度は凄まじく、深い傷をあたえられないでいた。一方ゴブリンキングはあつとう的なりよりよくほこっており、一撃でも当たれば勝敗を決するほどのりよくの剣撃を放ってくる。

 私は手数で押しゴブリンキングは一撃を与えられる隙をうかがう、そんな戦いが続いていた。


    ■


 らいめいひびわたると同時に、裏山から凄まじい魔力が放たれた。

 恐らくゴブリンマジシャンの結界がこわれ、今までいんぺいされていたゴブリンキングの魔力が解き放たれたのだろう。あまりの悍ましく強大な魔力に、背筋がこおる。

 父さん、母さん……がんれ……!

 村外れの避難広場で、僕はいのることしか出来なかった。

「シリウスくん……」

 ララちゃんがつぶらなひとみらし、心配そうに僕の顔をのぞき込んできた。こんな小さい子に心配をかけてしまうとは、情けない。

だいじようだよ、父さんと母さんはすごい強いんだ。ゴブリンキングだってすぐたおしちゃうさ」

 僕がそう言っても、ララちゃんはぜん心配そうに僕のことを見つめていた。

 父さんの強大でみ切った魔力と母さんの力強い気力が、これだけはなれていても感じられる。本気の二人は僕の想像をえた力を持っていた。

 しかし、それ以上にまがまがしく強大な魔力を放つゴブリンキングに不安はつのってしまう。

「シリウス……これ、ヤバくないか?」

「この禍々しい感じ、これがゴブリンキングなの……?」

 最近たのまれて操気を教えており、多少の気配察知ができるようになったルークとグレースさんが青い顔をしている。

 周りを見ると、待機している狩人かりゆうど衆も不安そうな表情をしていた。これだけ強大な力だと、多少でも気配察知ができるといやでも感じてしまうだろうな。

「あぁ、恐らくゴブリンキングでしょう。凄まじい力ですが……父さんと母さんなら倒せると信じてます……」

 そんな話をしていると、急に上空に多数の魔力が感じられた。その直後、地響きを立てて近くに何かがついらくした。

 ……ゴブリンキングの強大な魔力で気づくのがおくれたな……。

 そこには百匹近いゴブリンやゴブリンリーダー、そしてきんこつりゆうりゆうとしたたいに立派なよろいを装備したゴブリンとそのお付きみたいなゴブリンが現れた。

 しかしやつら自身もまどった様子を見せキョロキョロと周りを見回していた。ゴブリンの中には着地の衝撃にえきれずにうずくまっている者も多く見られる。

 ……もしかしてとつにゴブリンマジシャンの風魔術で狩人衆から避難してきたとかか?

「なっ!? ゴブリンロード!?」

 広場を警備していた狩人衆のさけびを聞き、鎧を装備したゴブリンロードを観察する。非常に濃厚な気力を纏っているが、今の僕ならちできない相手ではないレベルだな。

 幸い奴らは広場から少し離れた場所に落ちてきたため、村民たちはそこまできようこう状態におちいっていなかった。

 まだゴブリンたちのせんとう態勢が整っていないチャンスをのがさないよう、地面に両手を付け『土檻アースジエイル』を放つ。ゴブリンたちの目の前に、土の柱が交差しながらばやく立ち上がり土のおりを作り上げた。そしてその土檻アースジエイルの中に『雷矢雨サンダーレイン』を降らせ、土檻アースジエイルの近くにいたゴブリンたちを素早くせんめつする。

 これで土檻アースジエイルとゴブリンの死体がじやで進行速度がにぶるはずだ。

「皆さん! 念のためなんしてください!! 狩人衆の方々は弓でえんをお願いします!」

 檻の向こうへ弓を射てば一方的に攻撃できるはずだ。

「な……!? いや……分かった。さぁ皆さん避難を!」

 狩人衆の隊員は一瞬はとまめでつぽうを食らったような様子を見せたが、すぐに気持ちを切りえてテキパキと動き始めた。

 流石さすがは母さんが束ねている軍──狩人衆だ。

「い、一体何が!?」

「空からゴブリンが降ってきたぞ!!」

「あの魔術は!? アステールのぞうがやったのか?」

「に、げるわよ! 早く!」

 村民たちはようやく現実に思考が追いついてきたみたいで、混乱でざわめき始めた。しかしそこは狩人衆が上手うまゆうどうし、的確に村の外へ村民たちを避難させはじめてくれていた。

 そして僕たちは土檻アースジエイルの外から魔術と矢を雨のように降らせ、一方的にゴブリンを殲滅していく。このまま片付けられればいいのだが……。

「「「グギャギャギャアアアッ!!」」」

 そうは問屋がおろさないか……ゴブリンロードとゴブリンジェネラルが気力をめたほうこうを放ちながら土檻アースジエイルせいだいに吹っ飛ばした。

「きゃぁぁっ!?」

 へんが降り注ぐ中聞こえた悲鳴の方を見ると、ゴブリンジェネラルの視線の先には地面に倒れた女の子とその子を守るように座り込んだララちゃんがいた。まだ全員避難しきれていなかったのか!?

「オォォッ!!」

 そくに『雷光付与ライトニングオーラ』でかみなりまとい身体能力を向上、一足飛びに地をけ二人に降り注ぐ土檻アースジエイルの破片を余さずはじき飛ばす。


雷槍ライトニングスピア


 そして同時に、大剣をりかぶるゴブリンジェネラルへ雷の槍を放つ。雷の槍は光のを引き、ゴブリンジェネラルの胸に吸い込まれた。

「二人とも、大丈夫!?」

「シリウスくん!? この子が足をくじいちゃって……」

「う……ふぇ……」

 七、八歳くらいの子だろうか、きようあんが入り混じった表情をしてなみだで顔をらしていた。僕は濡れた瞳で僕を見つめるその子の頭を軽くで、足首に気力を送り込んだ。

 軽いねんであれば気力による肉体活性化ですぐ治るはずだ。ついでに氷魔術でかんれいきやくもしておく。

「冷たっ!? あれ……痛くない……?」

「もう動けるはずです。危ないので急いでここから離れて! ララちゃん、頼んだよ!」

「う、うんっ! 分かった!」

 少しの間であったが、ゴブリンロードとゴブリンジェネラルとたいしている狩人衆は半泣きになっていた。申し訳ないが、後ちょっとだけ耐えてくれ!


雷槍ライトニングスピア


 狩人衆に気を取られているゴブリンロードのよこつらに雷のやりが飛来する。しかしゴブリンロードはすさまじい反射神経でそれをはらい、するどい眼光をこちらに向け咆哮した。

「グギャギャアアアアッ!!」

 不意打ちで片付けようと思ったが無理か……! ゴブリンロードはそのきよだいな肉体とは裏腹にしゆんびんな動きで、地響きを立てながらこちらにせまってくる。

「ゴブリンロードは僕が! みなさんはゴブリンジェネラルをお願いします!」

「分かった! こちらは任せろ!」

 こいつは集中しなけりゃ倒せそうもない……うちの狩人衆であればゴブリンジェネラル二ひきくらいであれば問題ないはずだ。


雷光付与ライトニングオーラ』『ライトニングブレード


 でんを纏うけんを発現し、構える。ゴブリンリーダー戦の時のように武器がない時にでも近接戦闘ができるように覚えておいた魔術だ。強化魔術もかけ直し、高速でゴブリンロードの死角であるわきしたもぐり込み、ライトニングブレードを振るう。

 ──ギィィンッ!

 ゴブリンロードは凄まじい反射神経をもっていつしゆん身体からだを回転させ、大剣でその剣撃を受け止めた。そのまま力任せに振り下ろされる大剣をバックステップでかわし、向かい合う。

 身体強化ブーストしても速度、力、共におとっているな……。

 最大火力のこうげきを当てれば一撃で倒せそうだけど、外した瞬間に終わりだ。どうにかして必殺の一撃を入れるすきを作るしかない。

 ──ギギンッ! ガギィンッ!

 らいせんを引きながらじゆうおうじんに動き回り剣撃を放ち続けるも、高速反射でゴブリンロードにすべてを防がれてしまう。

 激しいけんげきひびきが無数に響きわたる。

 あの大剣、ライトニングブレードをこれだけ受けているのになんでこぼれ一つしないんだ? つうの鉄剣なら一発で切断できるほどの魔力を込めてるっていうのに……。むしろ打ち合うたびライトニングブレードの魔力がゴリゴリけずられているくらいだ。何かからりでもあるのか?

 攻撃を防がれたところで思い切りバックステップをみ、大剣に『かいせき』を行使する。


◆【名前】ゴブロニア・ブレード

◆【ランク】Sランク

◆【説明】ゴブリンキングの魔力が込められた魔剣。

◆ゴブリン族が使用した場合のみ、その力を発揮する。

◆その強力な魔力により生半可な魔術は無効化され、

◆強度はちようこうしつの魔鉱石オリハルコンをもしのぐ。


 おいおい、なんつーとんでもない物持ってんだ!?

 ゴブリンキングの魔力が込められた魔剣とか、そりゃ押されるわけだよ……。こんな剣と打ち合っていたらこちらの魔力が持たないぞ。

 戦略をシフトしよう、まずはあしもとねらって機動力をいでやる。ゴブリンロードの足下で地をうようにちょこまかと動き回りながら足下を狙いライトニングブレードを振り回す。

 ゴブリンロードはわずらわしそうに大剣を振るうが、足下へは攻撃しにくいようでさきほどまでの鋭さはない。剣撃を全て躱し、しつように足下を狙い続ける。

「ガァッ!!」

 いらったゴブリンロードは気をふくらませ、大地に思い切り大剣をき立てた。高めた気力を大地へ一気に注ぎ込むこのスキルは……こうはん物理攻撃『ゴブリンデモニッション』!

 予想通り大剣を突き立てたしよばくはつし、全方向につちくれとともにしようげきが放たれた。

 これはまずいッ……!

 ちらりと後ろを見ると、ゴブリンジェネラルのなきがらの前で息を整えている狩人かりゆうど衆がきようがくの表情をかべていた。完全に射程範囲内だ。

 とつに『風衝撃エアストライク』を行使、彼らにおそいかかる土塊に風のかたまりをぶつけて粉々にふんさいする。しかしそれは、強敵ゴブリンロードの前で見せていい隙ではなかった。

 後ろで急速に膨れ上がる気力にさま振り返ると、きように表情をゆがめたゴブリンロードが大剣を大きく振りかぶっていた。

 ゴブリン族の必殺わざ『ゴブリンブレイク』。

 めは大きいが、発動すると超高りよくの剣撃を放つ技である。ゴブリンロードのりよりよくとゴブロニア・ブレードでり出そうとしているそれは、受け止めれば僕が、ければ背後にいる狩人衆が消し飛ばされるだろう。

 ──しかし僕は、その〝隙〟を待っていた。


瞬雷ブリツツアクセル


 瞬時に紫電が身体を駆け巡り、身体能力に加え思考が超加速する。

瞬雷ブリツツアクセル』を纏う僕の目にはあまりにどんじゆうに映るゴブリンロードの剣を横目に、激しくまたたらいこうを纏いライトニングブレードをゴブリンロードへ振るう。次の瞬間にはゴブリンロードの上半身はズルリと、ひとしずくの血も流さないまま地面に落ちていった。

 そこには、紫電のおどくるう音だけが響き渡っていた。

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