第三章◆強襲 1

 目を覚ますと、いつものてんじようが目に入った。

 あれ、何してたんだっけ……。

 そうだ! ゴブリンと戦って最後に力を使い切ってぶっ倒れたんだった!

 最後に、ぼんやりとだがゴブリンリーダーが魔術らしき光に包まれていたおくがある。

 そして僕がここにているということは、だれかに助けられたのか。皆は無事だったのか。

 皆の安否が気になりリビングへと行くと、両親が何やら話し合っているところであった。

 僕の姿を見た二人は、そうごうくずし駆け寄ってきた。

「シリウス! 起きたのね、気分はどう?」

「大丈夫だよ。それよりゴブリンはどうなったの? 皆は?」

「落ち着け、今村の中にゴブリンはいない。皆は無事だ。それより話がある。座りなさい」

「はい……」

 真剣な表情をした父さんと母さんと向かい合って座る。とりあえず皆が無事で良かったけど……流石さすがにゴブリンと戦ったのバレたよな、ぶったおれたし……。

かしこいお前のことだ、俺たちが言いたいことは分かっているだろう……。どうやって魔術を習得した? その年でゴブリンリーダーを倒すほどだ、しは聞かんぞ」

「気力のあつかいもかなりのものね。少なくとも武器に気力をまとわせられないとあんなナマクラでゴブリンをることなんてできないもの」

 二人の視線を一身に受け、あせたきのように流れる。

 ……ダメだ、魔術と剣術に精通しているこの二人に現場を見られて誤魔化せるはずがない。変にうそをついてもすぐにバレるだろう。

 かくを決め、正面から二人をえる。

「魔術は、父さんの部屋にある魔術書を読んで勝手に勉強しました。気力は、毎日まきりをしている内に扱えるようになりました」

「それだけじゃないだろう……? ただ魔術や気力を身に着けただけでは、あれだけのゴブリンをげき退たいすることは無理だ。シリウス、裏山で実戦していたな?」

「……ごめんなさい……」

 やはりこの二人は凄い。自分の両親のどうさつ力にただただどうもくする。

「反省はしているようだな……。しかし、どうしたものか……」

「シリウスは私たちが思っていたより早く成長していたようね……。あなた、もうこれだけの力を身に着けているシリウスをおさえておくのは無理よ」

 母さんの言葉を受け、父さんは目をつぶってこめかみをみしだいた。

「むぅ……シリウス、お前はどうしたいんだ」

「僕は……強くなりたい。母さんのりの手伝いもしたいし、いつかは外の世界を見てみたいって思うんだ……。ダメかな……?」

 父さんの目をぐ見つめて、正直な言葉をつむいだ。

「…………ふぅ……。大人しい子だと思っていたが、やはり俺たちの子か……」

「あなた、私はシリウスに剣や狩りを教えるわ、いいでしょ?」

 困りつつも、嬉しそうな表情をかべる父さんに、母さんはウズウズとした様子でせまっていた。

 実は、狩りを教えたいって思ってくれていたのかな?

「分かった。シリウス、魔術は俺が教える。魔術は一歩間違えると本当に危険なものだからな。あと、これからは勝手に危ない所には行くな。必ず俺たちに聞いてからにしなさい、いいな?」

「父さん、母さん……ありがとう……!」

「明日からはビシバシきたえるからね! とりあえず今日はもう休みなさい、まだつかれが取れていない顔してるわよ」

 母さんは頭を一度で、僕を自室へ送ってくれた。ベッドに入った僕は、ひそかにテンションが上がっていた。

 明日から父さんと母さんに鍛えてもらえる! やった!

 今後のことを考えて興奮していたが、身体からだに残る疲れが僕を夢の世界へといざなっていった。


    ■


 翌朝、目が覚めてすぐに薪割りに行こうとしたところ、母さんに呼び止められた。

「いままで任せっきりにしていたし、シリウスの薪割りを見せてもらおうかしら。もちろん気力を纏ってね」

 二人で裏庭に行き、僕はいつも通り薪割りを始めた。

 身体とおのそうほうに気を纏わせて、リズムを保ち割っていく。じやつかん筋肉痛で身体が痛みいつもよりスピードは落ちていたが、数分で薪の山が出来上がった。

「終わったよ!……母さん?」

 となりうでを組んだままこうちよくしている母さんを見つめると、目を見開いていた母さんはハッとしたように腕を組み直した。

「な、中々やるわね! それじゃあこのまま剣のたんれんをしてしまいましょうか。この木剣で私に打ち込んできなさい。ゴブリンリーダーと戦ったんだもの、使い方は分かるわよね? 気力はいくらでも使ってもいいわ、全力で来なさい」

 そう言うと、母さんはどこかから取り出した木剣を僕にわたしてくれた。

 なつかしいかんしよくだ……学生時代に近くの道場に通っていたけれど、社会人になってからとこの身体になってからを合わせると十年以上まともに剣をっていなかったので、ぎこちない感じだ。

 母さんは僕では力量が全く読めないほどに力量がかくぜつした相手だ。これなら僕程度が全力で打ち込んでも、本当に全く歯がたたないだろう。

 これから鍛えてもらうんだ、しみはしない。僕の全力を知ってもらう……!

 学生時代を思い出しながら、納刀の構えを取る。

 母さんはいつしゆんげんな顔をしたが、すぐに中段に構え僕を見据えた。いつさいすきがない、美しいとすら感じる構えだ。

 一度ゆっくり深呼吸をして、母さんに向かって一歩ずつ歩み出す。

 土をむ音がいやに大きく聞こえる。

「ハァッ!!」

 二歩目を踏み出す瞬間、僕は全力で気力を纏いばつとうと同時に母さんのどうこんしんの水平りを放つ。

 木剣は吸い込まれるようにれいに胴に入った──かと思いきや、いつのまにか木剣が割り込まれこうげきを受け止められていた。そしてそのまま流れるように攻撃をはじき返された。

「なッ……!?」

 ただ攻撃を弾かれただけなのにもかかわらず、あまりのりよくに手がしびれている……。だが、母さんも声を上げて瞠目している。

 相手に落ち着く隙をあたえてはだ……!

 僕は弾き返された勢いを利用してそのまま回転し足にざんげきを放ったが、やはりかみひとで防がれてしまった。

 息もつかずにそのまま連撃を放ち続けるも、そのことごとくが軽く弾き返されてしまった。

「はぁ……はぁ……」

「ふふ、ふふふふ……。まだまだ気力にはゆうがあるみたいね……! 次は私の攻撃を防いでみせなさいっ!」

 母さんはおんな表情を浮かべながら、いまだ息を整えている僕にゆっくりと近づいてきた。

「ちょ……まっ……」

「行くわよっ!」

 右手をかかげ止めようとする僕に、母さんは高速で剣撃を放ってきた。

 ギリギリ木剣で防ぐも、すさまじい速度で二のを浴びせてくる。僕は必死に木剣で攻撃を受け続けるも、じよじよあくりよくが弱まり木剣を弾き飛ばされた。

「ふふふ……。シリウスの力は大体分かったわ! 凄まじい才能ね、これからドンドン強くなるわ。いえ、私が強くしてあげる! まず第一に、筋力と体力をつけるトレーニングをしていきましょう。あとは私との戦で気力と技術を鍛えていきましょ。うふっ、楽しみね……!」

 今までで一番かと思うくらい楽しそうにこうこつの表情を浮かべる母さん。

 いきなりのスパルタだが、望むところだ!


    ■


 昼食をとり、久々に裏山に足を踏み入れた。

 今日はじゆつの鍛錬のためであり、父さんと母さんもいつしよだ。母さんは魔術はからっきしらしいが、気になるのでついてきたらしい。

「シリウス、まずどんな魔術が使える?」

「えーと、『初級光魔術』『中級ほのお魔術』『中級水魔術』『中級風魔術』『中級土魔術』『中級氷魔術』『中級かみなり魔術』が使えるよ!」

 目を瞑り、こめかみを揉みしだく父さん。どうしたのかな?

「あー……っと、耳が遠くなったかな……。全基本属性魔術が使えると聞こえた気が……」

「あっ! ごめん、中級といってもまだ少ししか使えないんだ……。魔術書を読み解くのに中々時間がかかっちゃって……」

 まだ中級魔術をすべてマスターしているわけではないことを伝え忘れていた。

 僕が急いで補足すると、父さんはなんとも言えない表情でうなずいた。

「……世の中の魔術師の大半が泣いてしまいそうな台詞せりふだな……。ま、まぁとりあえず、得意な魔術とかあるよな? いくつか使ってみてくれないか?」

「分かった! じゃあそこの木につよ」

 改めて、父さんに自分の魔術をろうすることにきんちようしてきた……。

 頭を振ってな思考をはらい、集中力を高める。


 よし、行くぞ!

 まず『えいしよう』で雷のを構築する『雷刃ライトニングエツジ』をまとった右手をばやぎ、木を三等分に切りく。バラバラとなり宙をう丸太に、かんはつ入れずに『雷槍ライトニングスピア』『炎槍フレイムランス』『氷槍フリージングランス』と三属性のやりを放った。

 三筋の光はそれぞれキレイに丸太の中央をつらぬき、消し炭、もしくは粉々にした。

 僕の使える魔術の中で攻撃力重視の中級魔術をいくつか披露してみたがどうだろうか。

 おずおずと二人の表情を見ると、口を開けたまま目をこすっていた。

「「…………」」

 二人共だまってないで何か言ってほしい……。レベルの高い父さんから見たら子どものお遊びみたいな魔術だったからガッカリしたのだろうか?

「……複数属性の中級魔術を並列展開して、しかもこの精度と威力か……。本当にそこら辺の魔術師よりも余程ゆうしゆうだぞ……。これは鍛えがいがありそうだ! 適性は、威力を見るに俺と同じ雷属性のようだな」

 父さんの言う通り雷属性魔術が一番魔力消費が少なく威力が高い魔術を放てるので、きっとそうなのだろう。

 しかし威力を均一にして放ったつもりだったのにかれるとは、凄まじいどうさつ力だ。

「父さんも雷属性が得意なの?」

「あぁ、雷属性と時空属性が俺の適性だな。魔術適性は遺伝しやすいから、シリウスにも時空属性の適性があるかもしれないな」

 時空属性とは夢が広がりそうな属性だ。思わず父さんにめ寄る。

「時空属性? 魔術書にはってなかったよね? まさか転移とかできたりするの?」

「あぁ、父さんのオリジナル魔術だからな、魔術書には載っていない。転移も可能だけど、高位の魔石で補助した上に魔力を大量に消費するからそう簡単に使えるものじゃないんだ」

「そんな魔術をオリジナルでつくるなんて……父さんすごすぎない?」

「はっはっは! 大したことはないさ! そもそも魔術師はオリジナル魔術を創り出して初めて上級魔術師と言われるからな。一人前になるには必ず通る道さ」

 一人前のハードルが高すぎやしないですか? 時空魔術を創る並みのことなんて中々できることじゃないと思うんだけど……この世界ではつうなのかな?

 僕もオリジナル魔術を創って一人前になれる日が来るのだろうか。

「剣だけでなく魔術も才能があったなんて……魔術に負けないよう剣もしっかりと鍛えてあげないとね……うふふ……」

 父さんの横で母さんは不敵なみをかべていた。その顔はこわいからやめよ?

「シリウスはきちんと魔術理論を理解して詠唱破棄で術式を組んでいるし、魔術書にある属性魔術も広く学んでいるから少し教えれば成長は早いだろう。最近の魔術師はすぐ詠唱にたよるが、詠唱なんて隙が大きいし燃費も悪いからな。これからも魔術理論はしっかり学んでいくんだぞ! 俺も教えてやるから。そうすれば上級魔術習得なんてすぐさ」

「はい! がんります!」

 僕の返事に父さんはニカッと笑い、魔術講座が始まったのだった。


 それから半日ほど父さんにしごかれてフラフラになりながら山を下りると、家の前に村の狩人かりゆうど衆の隊員が一人待機していた。

 それを見た母さんはしんけんな表情で隊員にけ寄っていく。

「何かあった?」

「ミラさん、お休みのところ申し訳ありませんが本日の報告に参りました。本日も村内にゴブリンの出現はありませんでした。たんさくについては村の警護を優先しているため、中々進んでおりません。ゴブリンマジシャンにいんぺいされていると思われるため、数少ない上級探索スキル持ちの隊員がそうさくしていますが、しんちよくかんばしくありません」

「そう……報告ありがとう。探索速度は仕方ないわね、村の安全が優先ですもの。明日は私も探索に参加するわ」

「はい、ありがとうございます。それでは失礼します!」

 ビシッと敬礼をして去っていく隊員。村の狩人衆というより、軍人みたいだ。

 ゴブリンの巣の探索は中々芳しくないようだ。捜索に加わろうかと母さんに聞いたが、いつしゆうされてしまった。

 とにかく今は自らをきたえることに集中しよう。いざという時のために。

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