第二章◆戦闘 1

 この世界に転生してから、もうすぐ六年になる。

 僕は日々、まきりや畑仕事、家事の手伝いをしつつ、その合間に前世で学生時代にかよっていた近所の道場で行っていた鍛錬を積んでいた。また時々父さんの部屋に忍び込んでは魔術書を読みあさったりもしていたかな。

 あれから初級魔術はマスターし、今では中級魔術書を読み進めている。魔術書を読み解き、術式をかいせきしながら試行さくしているため習得速度はとしたものであるが着実に使える魔術は増えているし、魔力も増えてきている。

 父さんと母さんから魔術やけんじゆつを習えればもっと早いと思いたのんではみたのだが、まだ早い、危ないと却下されてしまった。

 ……実はこっそり森で弱い魔物を狩って経験を積んでいるんだけど、これは秘密だ。


 ある晩、父さんに呼び出されてリビングに行くと父さんと母さんがばんしやくをしていた。

 こっそり森に行っていることがバレていやしないかと内心ヒヤヒヤしつつも平静をよそおい席に着くと、父さんがうれしそうに口を開いた。

「シリウスももうすぐ六歳になる、早いもんだ……。知っているかもしれないが、この村には教会があってな、村の子どもはそこで色々なことを学ぶんだ。いつも本を読んでいるシリウスはすでに知ってることも沢山あると思うが、同い年の友達もできるし楽しいと思うぞ。どうだ、行ってみないか?」

「おとなりのララちゃんも同い年だからいつしよに通うことになるわね。覚えてるかしら? お隣さんもシリウスが一緒なら安心だって言ってくれてるのよ」

 教会か……地方の小学校みたいなものかな? この世界の知識をつけるにしたことはないし、他の村人とのコミュニケーションも必要だろう。

「うん、行ってみたい! いつから?」

「おぉ、そうかそうか! 神父様には明日伝えるから、来週からでも通えるだろう。明日、神父様にあいさつがてら必要なものを買いに行こう」

「分かった!」

 父さんと母さんは満足そうにうなずき、微笑ほほえんでいた。

 とりあえず、森に行っていることはバレてはいないようで一安心だ。


 翌朝、軽く朝食をとり、父さんと家を出る。家の前には、軽くウェーブがかかったミルクティー色のかみのほんわかとした印象の少女が立っていた。

 少女はおっとりしたふんではあるが愛らしく整った顔立ちをしており、不思議と人を引きつけるようなりよくかもし出している。将来は多くの男をりようするであろうこの美少女は、お隣さんのララちゃんだ。

 今日は父さんがララちゃんも一緒に神父様への挨拶に連れていくそうだ。

 ララちゃんとは両親と一緒に何回か顔を見たことがある程度で、まともに会話をしたことはなかった。どんな子なのだろうか。

「こ、こんにちは! レグルスさん、シリウスくん、今日はよろしくお願いしましゅっ!」

 ……んだ。

 ずかしそうにうつむくララちゃん。やされるなぁ。

「はい、こんにちは。今日はよろしくね。こっちがララちゃんと一緒に教会に通うことになるシリウスだ」

「ララちゃん、こちらこそよろしくお願いします」

 僕が軽くしやくをすると、ララちゃんは顔を赤く染めたままこくこくと頷いた。

 教会へ向かい歩き出すと、ララちゃんは僕の少しだけ後ろをちょこちょこと歩いていた。なぜかななめ後ろ辺りからじーっと見られており、少し落ち着かない。

 チラッと後ろをみると、ララちゃんの円らな瞳と目が合った。

「シ、シリウスくんはおうちでいつも何してるの?」

「えーっと、本を読んだり、家事の手伝いしたり……かなぁ。ララちゃんは何してるの?」

 まさかたんれんだとかは言えないので、無難に返しておく。

 これもうそではない。読書といっても主に魔術書だけど……。

「ほぇー……私も絵本好きなの! 『ネココのおうち』が一番好き! シリウスくん読んだことある??」

「へぇー、その本は初めて聞いたよ。今度読んでみるね!」

「う、うん! 今日帰ったら貸してあげるね! えへへ」

「ありがとう、楽しみにしてるね」

 そんな取り留めのない会話をしていると、すぐに教会にとうちやくした。教会に入ると、三十代前半くらいのおだやかな顔立ちのきんぱつ男性がむかえてくれた。

「神父様、こんにちは。この間話しました、うちの息子とロジャーのむすめのララちゃんです。二人共、この方が教会で色々と教えてくれる神父様だ」

「はじめまして、レグルスの息子のシリウスと申します」

「は、はじめまして! ララですっ!」

「はじめまして、二人共これからよろしくお願いしますね」

「「よろしくお願いします!」」

「ふふ……シリウスくんもララちゃんもれいただしい子ですね。レグルスさん、お二人をお預かりするのは来週からで良かったですか?」

「はい、来週からでお願いします」

 そうして僕らは教会に持っていく黒板とチョーク等をこうにゆうし、帰路についた。その間も僕の後ろにはララちゃんがくっついており、しつもんめにあっていた。

 子どもはこうしんおうせいだね。


    ■


 初めて教会に行く日、また家の前でララちゃんと待ち合わせして行くことにしていた。ララちゃん一人では心細かったそうだ。

 子ども二人では危ないだろうとも思うのだが、村の中にはほとんど魔物は出ないしへんな村なので変質者などもおらず、平和そのものなので問題はないようだ。

 また両親が僕を信用してくれているということもあり、初日から二人だけで教会へ行くことになった。

「シリウスくんとおでかけー、ふんふん♪」

 鼻歌を歌いながら楽しげに歩くララちゃん。微笑ましい。

「あ! シリウスくん! 『ネココのおうち』読んだ?」

「あぁ、貸してくれてありがとう、読んだよ! ネココ可愛かわいかったね!」

「ネココ可愛いよね!! わたしはモココも好きなのー!」

 ネココはねこのような魔物で、モココは羊のような魔物だ。どちらも戦闘力はほぼかいで、主にペットやちくとして飼われている。

 この世界では、魔物は外敵でありつつも重要な食料源ともなっているのだ。

 ララちゃんと絵本について話をしているうちに教会に到着し、神父様に連れられて教室に入った。

 連れて行かれた教室には六~十歳程度の子供たちが二十人ほどおり、学年ごとに机をくっつけてグループになっているようであった。

 僕たちが新入生のための島に着席し他の子たちを待っていると、ポツポツと子どもが集まって席がまった。

「さてみなさん、今日から教会に通い始める新しいお友達が来ました。仲良くしてあげてくださいね。それでは新しい子たちから、自己しようかいをお願いします。ルーク君からどうぞ」

「ルークです! 将来の夢はぼうけん者です、よろしくお願いします!」

 笑顔がまぶしい金髪のイケメンが元気よく立ち上がった。

「グレースです。私も冒険者になりたいと思ってます、よろしく!」

 赤いショートヘアで気が強そうな女の子。ボーイッシュであるが目はパッチリしており、将来キレイ系の美人になりそうな子である。

 ていうか、冒険者ってそんな人気な職業なのか。危険だし中低ランクだと賃金も低いし、人気がない職業だと思っていた。

「ローガンだ。将来はうちの牧場をぐと思う。よろしく」

 のうこんの髪で無表情の少年。このねんれいにしては筋肉質な身体をしている。おそらく牧場の手伝いできたえられたのだろう。

「クロエ。じゆつ。よろしく」

 うすむらさきの髪で猫背の女の子。前髪が長く顔はよく見えないが、整った顔立ちであることがうかがえる。

 ……この村の美少女率の高さ、おかしくないか?

 クロエさんはねむそうに目をこすりつつ少しだけ話し、席に着いたしゆんかんには船をぎはじめていた。

「シリウスです。将来のことはまだ考えてませんが、早く両親のりの手伝いができるようになりたいと思ってます。よろしくお願いします」

 なぜか将来の話をする流れになっているおかげで、先のことなんて全然考えていなかった僕が少し恥ずかしい。

 ばくぜんと世界を見て回りたい、としか思っていなかった。そもそも、この年齢でみんな将来のことを考えているとかえらすぎないか?

「あっ、ララです……。えーと、将来はジユツ師になりたいです! よろしくお願いします!」

 ジユツ師か……心やさしいララちゃにピッタリだ。

 ジユツは魔術と異なりジユツ局が術式をどくせんしている回復術だ。や病気を治す効果を発揮する。

 習得にはジユツ局のにんが必要であり、生半可な勉強やしゆぎようでは認可試験には合格できないため、じゆようは多いのに人が足りていないじようきようである。

 上級生たちも簡単な自己紹介を行い、その後グループごとにシスターたちが話を始めた。シスターは前世でいう担任のようなものみたいだ。

 僕たちのグループに来たシスターは十代後半くらいの青髪の女性であった。

「それでは皆さんよろしくお願いします。ではまず皆さんでお話しして、グループの委員長を決めてください。委員長になった人は今年一年、グループを代表しての報告や、グループの皆さんへのれんらくなどをしてもらいます。誰かに押し付けるのではなく、皆さんで相談して決めてくださいね」

 委員長というよりも連絡係みたいなものかな。責任感や連帯感をはぐくむためのものなのかもしれない。

「えーと、どうしようか、まず誰かやりたい人とかいる? あとごめんグレースさん、クロエさんを起こしてくれない?」

 イケメンのルークが場をまとめ始める。もうこのイケメンが委員長でいいんじゃないか?

「ん……私は私以外なら誰でもいい……」

 眠そうなクロエさんは明らかにやる気がない。

「俺は口下手だから、すまないが上手うまくやれるとは思えない」

「わ、わたしはっ! シリウスくんがいいと思います!」

 ファッ!? ララちゃん何言ってんの!?

 こういうのは中身大人の僕がやるのはちがうと思うんだ。ということで、少々あせりつつイケメンにそれとなく水を向けた。

「あー……僕はルーク君が向いてると思います。人の意見を引き出したり、まとめたりするのが得意そうですし」

「えっ俺? うーん……シリウスの方が向いてねーか?」

 イケメンはニヤニヤしながらそんなことを言い出した。こいつ、おもしろがってるな。

「……将来、冒険者になってパーティを組む時のために、人をまとめる経験をしておくと役に立つんじゃないかと思うんですが、どうですか?」

「確かに!! そう言われるとやりたくなってきた……!」

「じゃあ、委員長はルーク君ということで、皆さんいいですよね?」

「あぁ、いいぞ」

「いいんじゃない?」

「どーでもいい」

 三者三様であるが、みなこうてい的だ。一人を除いては……。

「ね?」

「はぅ……わたしもいいと思います……」

 不満そうなララちゃんに念を押すと、しぶしぶといった様子でうなずいてくれた。気持ちはうれしいんだけど、ごめんね。

「決まったようですね。それでは今日はちょっとだけ聖書を読んで終わりにしましょうか」

 聖書は、主にがみアルテミシアに関する話であった。

 世界を創造した女神アルテミシアが光のけんぞくルミエラとほのおの眷属イグニアスを生み出し、世界に光をもたらしたというストーリーだ。

 この世界の魔力の源は女神アルテミシアにあると言われており、この世界では非常にメジャーな神話である。初級魔術教本のぼうとうにもそのようなことが書いてあったおくがある。

 その後一時間ほどシスターが聖書を解説し、初日であるということもあって僕たちは昼前には帰宅したのであった。


    ■


 こちらの世界に来てから朝起きる時間が非常に早くなった。部屋にはカーテンなどないため、朝日が差しこみ勝手に目が覚めるのだ。

 前世に比べると信じられない程に健康的な生活だと言えるだろう。

 朝起きるとサッとえ、同じく起きたばかりの母さんに朝のあいさつをして裏庭へ向かう。

 生活魔術『流水ウオーター』で生み出した冷たい水で顔を洗うと気持ちよく、一発で目が覚める。

 最近は氷魔術を習得したおかげか、『流水ウオーター』で出す水の温度を変えることができるようになったので本当に便利だ。

 庭に出て軽くストレッチをした後、まきりをしていく。

 この薪は自宅で使うだけではなく、父さんが商人へばいきやくもしているものだ。サービス価格で売却しているため主収入にはならないが、僕の目的はお金かせぎではない。たんれんだ。

 武器に気力をまとわせる練習として、おのに気力を纏わせて薪を割っていく。

 気力を纏わせた斧は強度やあじが増し、薪割りが効率的になる。

 最初は気力の消費が激しくて数本割るとヘトヘトになっていたが、今はな消費もおさえられるようになり負担も感じなくなった。

 薪割りが終わった後は軽くかたげいや筋トレを行い、朝食ができるころにリビングへ向かう。

 そして朝食をとり軽く水であせを流してから、同学年の皆と教会へ向かう時間をむかえる。

 この村の居住区域はある程度固まっており、また教会が少しはなれた場所にあるため必然的に他の子どもと同じ道を通ることになるのだ。

 教会では読み書きや計算を学んだり外で遊んだりと、ゆるやかな時間を過ごしている。

 この世界の言語の読み書きは魔術書を読みあさっているうちにできるようになっていたし、計算は言わずもがな前世の記憶があるためゆうである。

 そのお陰でシスターのご指名により、グレースとローガンの脳筋二人組に勉強を教える羽目になっているのは誤算であったが……。

 正直、大学の数学などよりこの二人に算数を教えるほうがよほどなんであった。

 どうにかしてでんたくを作って二人にあたえる方が現実的なくらいである。


 昼すぎくらいに教会から帰宅し、母さんに一声かけてから家を出る。

 母さんが狩りに行かない日を、僕は裏山での鍛錬日にしていた。

 裏山では山道を走り込みながら中級魔術の復習を行う。これはげながら、もしくは武器で身を守りながらでも、いつも通り魔術を行使することができるようにする訓練だ。

 魔物はいつでもこちらを殺しに来るため、必要なタイミングで必要な魔術を冷静に行使できるようになっておきたい。

 立ち止まらないと魔術を放てません、では話にならない。

 まぁ常にマルチタスクで仕事をしていた前世を考えると簡単なものだ。

 森の中を走っていると、『魔力感知』でじやくな魔力を三つほど感知した。ゴブリンだ。

 ゴブリンとは緑がかったはだの小人型の魔物で、前世のゲーム等に出てきた姿そのままだ。

 人を積極的におそう習性があり、特に女性や子どもがねらわれることが多いため見つけた場合すみやかに狩ることがすいしようされている。いつぴきでは弱いのだが、放置するとはんしよくして集落を作り近くにある村が襲われることもあるため非常に危険な魔物である。

 一方、狩人かりゆうどからしたら肉は食べることができず、かろうじて体内にあるかくが少額で売れる程度であるため狩っても得をしないめいわくな魔物として認識されている。

 ちなみに魔核とは、魔物の魔力の根源、人間でいうところの心臓に近い臓器だ。

 魔核には魔物が死んだ後に魔力が固定化され、武器や魔道具の材料、燃料等として活用されている。魔物の強さに応じて売却額が変わり、冒険者や狩人にとっては貴重な収入源である。

 僕は森に来ていることをないしよにしているため、肉がとれる魔物を狩っても家に持って帰れないし魔核を売るツテもないので、せんとう経験を積むためには都合のいい相手なのだ。

 ゴブリンを発見し走っていくと向こうもこちらに気付いたようで、一匹がその場に待機し、残り二匹が左右にこっそりと分かれていく。

 おとりの一匹に意識をひきつけてきようげきするつもりなのだろう。『魔力感知』で位置をあくできる僕には全く意味がないが。

 ゴブリンが魔術の射程に入ったところで、すかさずりようわきしげみに圧縮した風のだんがん風球ウインドボール』を放ち、せんぷくしていた二匹をっ飛ばす。

 囮としての役割を果たそうと僕に走ってきていたゴブリンは二匹が吹き飛ぶ様を見ながらも止まることはできずに、そのままたんけんを構えながらっ込んできた。

 やけになったゴブリンに『雷撃スタンボルト』を放ち、感電させる。足がもつれつつも短剣を突き出してくるが、それを軽くかわして脳天にするどい氷の矢『氷矢アイスアロー』を放ち、片付ける。

 そしてグギャグギャさけびながら逃げ出そうとしている残りの二匹にも同時に『氷矢アイスアロー』を放ち、一撃で心臓をつらぬいた。

 死んだゴブリンの胸をナイフで切り開き、魔核を回収する。最初は気持ち悪すぎて何度もいていたが、今はもう慣れたものである。

 死体はそのままにしておくとえきびようを招くため、『発火フアイア』で焼却しておく。火力を上げていつしゆんで燃やしくし、すぐに『流水ウオーター』で消せば森への延焼の危険もない。

 やっぱり魔術は便利すぎる。

 ちなみに魔核は古代樹の下にめて保管している。家に持ち帰って母さんに見つかったら大変だからだ。

 その後もサーチアンドデストロイをり返す。


 実は先日父さんの書庫を漁っていたら、魔物をとうばつした者は魔物に宿る魔力を吸収して強くなる可能性があると記述してある魔術書を見つけた。

 話半分に『かいせき』で検証してみたところ、確かにわずかではあるが魔物をたおした後に能力がじようしようしていることが判明したのだ。

 それから僕は積極的に魔物をることにした。

 まぁゴブリンは増えると害しかないので、どちらにせよ狩るべきなのだが。

 森をけ回りゴブリンを大量しゆりようしている内に日が暮れはじめていた。

 それにしても最近、ゴブリンの数が増えている気がする。僕も母さんも結構な数のゴブリンを狩っているはずなのだが、一向に数が減る気配がない。

 つうのゴブリンの数というものを知らないからこれが異常なのかは分からないが、そこはかとなくいやな予感をいだく。

 ゴブリンについて考えつつにつくと、となりの庭でせんたくを取り込んでいるララちゃんと目が合った。

「シリウスくん、おかえりなさい! なにしてたの?」

「ちょっとそこら辺を走ってたんだ。走るのが好きでさ」

「……もしかして、裏山に行ってたの……?」

 ララちゃんはつぶらなひとみを僕から離さず、首をかしげた。

 ぬぐったはずの汗が、背からき出す。ララちゃんってけているようで結構鋭いんだよなぁ……。この確信に満ちた瞳、これはせなそうだ。

「……他の人には秘密だよ?」

「ふたりの秘密……? えへへへ……」

 なにやらトリップしてらっしゃるみたいだが、秘密は守ってくれそうだ。ララちゃんはむやみに秘密を他人に話すような子ではないから、きっとだいじようだろう。

 ついきゆうされないよう、トリップしたララちゃんをそっとしたままげんかんとびらを開く。

「シリウス、おかえり。夕食の準備を手伝ってくれないか?」

「分かった! 手洗ってくるね!」

 我が家では、父さんが料理を作っている。

 というか、家事ぜんぱんが父さんの仕事である。母さんの料理は……うん。独特だから。

 限界に近い空腹を感じつつ、父さんの手伝いをする。僕も前世ではすいをしていたので、料理は得意な方だ。

 僕と父さんの二人で作ると、あっという間に美味おいしい夕食が出来上がった。

 両親と食事をしていると、父さんが僕に話をってきた。

「シリウス、最近よく外に遊びに行っているが教会の友達とは大分仲良くなれたか?」

「あ、あー……ぼちぼち……かな? 勉強を教えたりするくらいには仲良くなったかな?」

 ごめんなさい放課後はぼっちで鍛錬しています……。

「そうか、楽しそうでなによりだ。はははっ」

「今日はどこに行っていたの?」

 母さんの目が、心なしか鋭い。もしかしてあやしまれているのかな……。

「えーと、そこら辺をふらふらしてただけだよー」

 うそではない。そこら辺の裏山だ。

「そう。大丈夫だとは思うけど、裏山には近づいちゃダメよ。最近ゴブリンが増えてるから、もしかしてどこかに巣ができ始めてるのかもしれないの。ゴブリンは子どもを襲うから、気をつけてね」

「分かった、気をつけるよ」

 確かに最近ゴブリンが多いとは思っていたけど、巣ができつつあるのか。やはり異常だったんだな。

 まぁこの村の狩人衆が本気を出せばゴブリンの巣なんてすぐにせんめつされるだろう。

 母さんもびんかんになっているようだし、ゴブリンの巣が殲滅されるまで裏山には近づかない方が良いかもしれない。

 それからしばらくの間、僕は自己鍛錬と魔術書の解読を日課にすることにした。

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