第3話 嗚呼、痛すぎる閉店;c;
先日、といっても4月の初め頃だったか、或る定食屋さんが閉店した。
一応、住んでいる国は誤魔化している(つもり)だから、あんまり詳しく書かないけれども、あるタレントが若いころに組んでいたコンビが、さる有名なテレビ番組の企画として世界中をヒッチハイクで回った際にアルバイトをしていたお店だ。そういう背景のあるお店だから、店先には古くて色褪せた「●●●日記」という書籍が飾られていた。
まぁ、私は一応そのテレビ番組が人気だった世代だけれども、実は、放送をリアルタイムで見た事は一度もない。なので、そっち方面の想い入れは一切無い。単純に、日本食の定食屋さんとして、非常に重宝させて頂いていた。
お店の立地は雑多なアジアの都市らしく「女装した男の人が頑張るお店」が多い一画。近くには、「○○の歌舞伎町」と呼ばれるような日本人相手のカラオケやスナックが乱立する通りや、偽物ブランドと裸踊りで有名な(?)通りがあるが、そんなナイトスポットからは少し外れた路地だ。
多分、一番通った時期はほぼ毎日、昼食の度に訪れていたと思う。外回りの無い事務所勤務の日の「お昼はそこで決まり!」と迷わない時期があった。また、それほど気を張らない相手と軽く済ませたい「夜の飲み」でも、そのお店はとても丁度良い存在だった。
お気に入りは「ロースカツ定食200バーツ」と「納豆定食180バーツ」。この2つがスタメンで、時折ロースをヒレにしたり特上にしたり、とバリエーションを付ける。因みに麺類は正直なところ微妙だった……が、この2つのメニューがあれば、充分だった。
ロースカツはやや硬い場合があるが、大判でボリュームがあり、それに、大盛のキャベツと自家製の浅漬け、ちょっと薄味の味噌汁にご飯という定食。勿論ご飯は大盛無料で、なんならお替りも無料だ。
納豆定食の方は、ネギと刻みのりを散らし、からしを添え、卵黄(入れますか?と訊かれる)を乗せた納豆が主役。それに味付け海苔と甘めの卵焼き(ちゃんと大根おろしが添えてある)と塩サバの切り身がおかずとして付く。もう、どれが主役か分からない感じだ。当然ご飯は大盛無料でお替りも出来た(はず)。印象として、昼のお客の6割から7割が「納豆定食」のリピーターだったと思う。
そのお店については、ご飯大盛が無料というサービスもさることながら、お茶が無料で出るのも嬉しい点だった。
馴染みのない人は分からないと思うが、お冷かお茶をサービスで出すお店は、この国では珍しい。大体が1本20から25バーツほど出してペットボトルの水を買うか、もっと出してコーラなどを頼むかだ。お茶のサービスは昔やっていたお店も、コロナの第一波後に止めてしまったパターンがある。残念だが、仕方ない話だろう。
残念と言うならば、非常に残念な点が1つある。それは、閉店前の2か月ほど足を遠ざけてしまっていたことだ。ちょっと郊外への外回りが増え、市内で昼食が取りにくいスケジュールが続いた事が理由だ。そんな中、3月の中頃に1度行く機会があったが、その日は何故か午前中から体調が悪くなってしまい、結局、昼食どころではなくなってしまった。そのため、次に行った時には既に閉店していた。
閉店してしまったお店の、文字が外された軒先や看板は、何とも言えず物悲しいものがある。ただ、この物悲しい思いは、何もこのお店に限ったことではない。蕎麦屋は1年近く前に無くなったし、牛丼屋も4月半ばで消えた。良く行く店が次々無くなっていくと「昼飯なんて、要らないや」という気持ちになる。気が滅入って来るのだ。
現在コロナの第何派目なのか……もう鬱陶しくて数える気も起こらないが、現地政府は再度「外食店の店内飲食禁止」を発令している。これ以前にも夜の営業が制限されていたり、アルコール類の提供が取り止めになっていた時期があるので、恐らく多くの個人経営や小規模企業のお店は、かなり苦しい状況になっているだろう。
「店内飲食禁止」が解かれた後、久しぶりに行ってみたら「……」という状況が増えるかもしれない。画一的なチェーン店では絶対に無理な個性を持つ、そんなお店が少しでも残る様に、今は祈りつつ、カップめんを食べるしかない。
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