第4話 与作、斧を手にする

冒険者として生きていこうと決めた時まず必要なのは武器だった。


比較的大きな街であるルサカは冒険者も多くいるため冒険者向けの武器や防具を扱う店も多い。


俺は街にあるすべての武器屋に行った。

そして、現実を知った。


全然お金が足りない。


小さなナイフ一つ買うにもその時の俺にとって、いや今の俺にとってもだが、かなりの額が必要だった。


異世界での金属の価値と俺の思うそれとの乖離が激しく、異世界で金属は高価なものだった。


そしてなにより武器として加工する技術に対しての価値がものすごく高いらしく、武器として置いてある物はべらぼうに高い。


剣を颯爽と振るい、このファンタジー世界で成り上がる夢が一瞬でさめた。


盗むしか...ないっ!


陳列されている武器を眺めながらその思いに至った瞬間、刺すような殺気を感じ、そちらを見ると強面店員の眼光が鋭くこちらを見ていた。


この店は...だめっ!


一度見た、街にあるすべての店を再度周って万引きできそうなところを探したが、初めに店を周ったときは気づかなかったがどこの店も強面店員だらけだった。


後で知ったことだが武器屋の店員は元冒険者が多いらしい。


いちゃもんつけてくる荒くれ者になめられないように雇っているところがほとんどとか。


そもそも盗むという発想が間違っていた。


自分で作るしかない!


というわけで森に行き手軽な木の棒を探そうとした。


初期装備といえばヒノキの棒だ!


と思い立ったがいい感じに武器として使える棒なんてそう簡単に森に落ちていなかった。


刃物がないから生えてる木を切って加工することもできないし、そもそも森は魔物がうじゃうじゃいて、恐ろしくて探すどころではなかった。


失意の中、トボトボと肩を落としながら街を歩いているとあるお店を見つけた。


農具店だ。


もしかしたらと覗いてみると、


あった!これだ!

見つけたのは斧だった。


短めの手斧で持ち手は80cmぐらいか斧の部分は小さいが振り回すにはちょうどいい重さだった。


どうやら薪を割るためのものらしい。

農具は他にも大きな斧や鍬や鎌などが置いていた。


店員さん曰く、これらは駆け出しの鍛冶師が練習に作ったものらしく武器として作られたものに比べればずいぶん安かったが、安いといえど斧は手持ちギリギリの金額だ。


これが無くなってしまうと4日分の宿代が無くなってしまうが、夢の為には惜しまない。


もし今買わなければ後日同じ値段であるかわからないし、そもそもこれを使って魔物を刈れば金なんてすぐに稼げるはず。


すぐに購入し、冒険者ギルドへ向い依頼を受注。


ゴブリン討伐しかなかったが致し方ない。


悪臭がすごいと聞いたが我慢すればいいだけの事。


ギルドの受付に聞いた通り街を出て草原を目指した。


草原へ到着するや否やいきなりゴブリンが現れた。


緊張感が一気に高まったが、震える手に力を籠め思いっきりゴブリンの首めがけて横に振るった。


野球歴9年のスイングを食らいやがれ!


ゴブリンに当たった瞬間、斧にかかる抵抗を感じたが力の限り振り切ると首を深く切りつけ一撃で倒した。


やった!俺はやったぞ!


しかし初めて嗅ぐゴブリンの悪臭に眩暈がし、その場で吐き続けたが、それでも興奮はおさまらなかった。


へへっ、やったぞ。


口を拭いながらゆっくりと顔を上げると別のゴブリンが近づいてくるのが分かった。


やってやる!


斧を振りかぶり思いっきり横に振るった。


最高のスイングだ!

吹っ飛んでいった!

吹っ飛んで....えっ!?


吹っ飛んでいたのは斧だった。


正確には斧の先、金属部分が丸々彼方へ飛んでゆき、手にあるのは木の柄だけ。


鍛冶見習いが作った斧である。

斧は不良品だった。


そのあとは突っ込んできたゴブリンに肩を噛まれたが無理やり引きはがし斧が飛んで行った方へ一目散に逃げた。


逃げる途中飛んだ斧を見つけた。


痛みと、悪臭と、壊れた斧と。


涙が頬を伝った。


その後街に戻りお店に文句を言いに行くも取り合ってもらえず店内で喚き散らすと強面店員が奥から出てきて追い出された。


途方に暮れいつもの宿の入り口前に行くもお金がないことに気づく。


街の隅っこの路地裏ですっぽ抜けた斧と木の柄を抱いてその日は寝た。


また涙が頬を伝った。


それから何とか斧を修理しようと思い、いろいろ店を巡ったがそもそもお金がないので取り合ってもらえず自分で直そうにも材料がない。


斧は金属部分に穴がありそこに穴の大きさに合わせて削ってある木の柄の先端を差し込むだけのすごく単純なつくりで、自分で差し込んで見ると一見直ったようにも見え、軽く振るっても大丈夫だが少し力を入れて振るうとすっぽ抜ける。


それなら斧の柄を使えばと思い木の柄だけでゴブリン討伐に向かったが、何度殴りつけてもゴブリンは倒せず気づけば複数のゴブリンに囲まれ死にそうになった。


その後、試行錯誤しどうにか考えた結果、修理するのではなく現状で使えるように戦い方を変えた。


つまり、振るから斧がすっぽ抜けるんだから、突くしかないやん。


と、いうわけで斧でチクチク突く戦法となり今日に至る。

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