図書館
前回の期末試験は学年で真ん中より少し上くらいの成績だった。県内でも一二を争う進学校でのテストと考えれば普通なら誉められてもいい成績だろうと思う。しかし部活をやるわけでもなく毎日勉強ばかりしている僕としては物足りない。今日も授業が終わったら図書館の一番奥の席で授業の復習と予習に取り組んでいる。
ひとつ前の席では眼鏡をかけた女子が今日も熱心に本を読んでいる。少し遠くからは学生たちの楽しそうな話し声が微かに聞こえる。受付では司書の男性が何かをパソコンに打ち込んでいる。
勉強ばかりしている僕に対して、両親はあまり無理するなよと心配して声をかけてくれる。そのたびに僕は大丈夫だよ、ありがとうと返事をする。それ以上何かを言われることはないが両親の表情が晴れやかではないことは何となくわかる。
眼鏡の女子がページをめくり、眼と本の間にある自分の髪を邪魔そうに耳にかける。遠くに聞こえていた楽しそうな声は徐々に大きくなっている気がするが、まだ五月蝿く感じるほどではない。司書さんは欠伸をしながら立ち上がり背中を伸ばしている。
僕の両親は極めて普通の人たちだと思う。学生時代はそれなりに勉強をしてそれなりに部活を頑張り、時には友達と遊んだり、異性との恋愛に夢中になったりしてきたはずだ。そんな彼らからすると図書館にこもり勉強ばかりする僕のことがきっと理解できないのだと思う。しかし、そんな僕を受け入れ大事に育ててくれている。
本を読んでいた女子に友達と思われる学生が近寄ってくる。それに気がついた彼女は読んでいた本に栞を挟み閉じる。遠くから聞こえていた声はいつの間にか聞こえなくなっている。司書さんもどこかに消えてしまった。
なんでそんなに勉強ばっかりしているのとクラスメイトに聞かれたことがある。そのときは将来のためだよと普通の回答をしたことを覚えている。そうなんだちゃんと将来のこと考えていて偉いねと純粋に答える彼は、野球部のキャプテンをやりながら成績は僕よりも良く、友達も多く人柄も良い。しかし時には遅刻をし先生に怒られたりもしている。僕はそんな彼のようになりたかった。正直将来のことを考えて勉強しているわけではないし、特別好きなわけでもない。しかし特別スポーツができるわけでも社交性があるわけでもないし、ましてや芸術的なセンスがあるわけでもない。そんな僕が人より多少なりともできることは勉強くらいだった。勉強以外にすがるものがないのだ。
ふと前の席を見ると本が置いてあった。きっとさっきまで座っていた彼女が読んでいた物だろう。その本を手にとってみるとカフカ寓話集と書いている。特別本が好きなわけではないが、カフカのことは知っている。授業で変身という本が題材になったことがある。不思議で暗い物語を書く人だが世界的に有名な小説家のようだ。表紙には不思議な絵が書いてあり、それを見ているとなぜか不安な気持ちになった。しかし、この本を読むことで何かが変わらないかと甘い期待を持ちながらページをめくってみた。
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