自室
今日は久しぶりに酔ってしまった。顔は火照っており、テレビはついているがいまいち内容は頭に入らず、ただ眺めているだけだった。少し不味いなと思い水をとりに立ち上がろうとする。しかし足がふらつきソファの上に転んでしまった。もういいやと思いそのままソファに倒れこむ。ついさきほど連絡した彼氏から返事がないかスマホを確認するがまだのようだ。今すぐ会いたいから部屋まで来てほしいとこんな平日の夜中に連絡してしまった。付き合い初めて三年を過ぎるがこんな我が儘を言ったのは初めてのことだと思う。
テレビからは深刻な顔をしたニュースキャスターが深刻な声で何かを伝えようと大きな身振り手振りで必死に話している。さっきまで飲んでいた焼酎の氷は溶け、絶妙なバランスが崩れてカランと音がなる。
彼とは元々同じ大学のサークルで一緒だった。サークル自体は1年もしないうちにほとんど行かなくなったが、彼との交流はなんとなく続いていた。そんなある日いつも通り二人で飲んでいると突然付き合って欲しいと告白された。わたしはあまり迷わずによろしくお願いしますと返した。そこから今日まで付き合いは続いている。特別趣味が合うわけでもないし、お互いお喋りなほうではないので二人で居ても会話がないことも多い。このままこの関係が続くのだろうと楽観的に思うときもあるが、たまに一緒に居て楽しんで貰えてるか不安になる時もある。
ニュースキャスターはさっきとは別人ではないかと思うほど明るく、何かのスポーツのニュースを熱く説明している。遠くから電車の通過する音が響いてくる。コップの中では氷は溶け小さくなり薄くなった焼酎の水面が振動で揺れている。
一緒に寝ていた時に彼からされた質問を思い出す。将来のやりたいこととかある?それに対してわたしは曖昧な返事しかしなかった。その答えがわからなかったからだ。あなたと幸せな家庭を築くことよと可愛らしく言えばよかったのだろうか。それとも嘘でもいいからなにか壮大な目標を語るべきだったのだろうか。彼からの返事はまだこない。平日のこんな時間だ、彼も朝早いのでもう寝ててもおかしくはない。彼はとても真面目で優しく仕事でも私生活でも周りから慕われ、尊敬されている。彼はわたしの一歩も二歩も先を歩いている。明確な目標を持ちそれに向けて日々努力している。わたしには何もない。
ニュースキャスターは単調にシメの言葉を述べている。外からは何も聞こえない。コップの中の氷はすべて溶けてしまっている。
もう寝よう。わたしも朝は早い。部屋は散らかったままで化粧も落とさず、着替えも歯磨きもしていない。明日の朝に後悔するかも知れないけど今日はもういい。明日から頑張ろう。彼と並んで歩けるように頑張ろう。わたしが追い付くのだ。
ケータイが振動する。画面を見ると彼からの連絡が入っていた。ごめんもう寝たかな?今からそっちに行くね。彼らしい簡単な返事だった。彼には成功してほしい。けどわたしも幸せになりたい。今日だけ許して貰おう。彼にも自分にも。
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