第11話 適性検査
武器を選ぶ前に適性を見たい。そう言ったサンドラの言葉に否やを唱える理由もない優翔は、訓練場の奥の小部屋へいた。
目の前には宙に浮いた水晶玉のような物。その奥にはサンドラの顔が、その水晶の光に照らされてぼんやりと浮かぶ。
宙に浮いた水晶玉なんて、現実に見る機会などあるわけもなく。ここが今までいた世界とは違うことを、改めて痛感する。
「まあ、筋力や武器の才能なんてのは色々触ってみなきゃわからないからね。それよりも見たいのは『法術』の適性だよ」
「法術の適性?」
そういえば先ほども法術という言葉があった。人間族が使えて、魔族が使えないという術。
「ああそうさ。法術は多かれ少なかれこの世界の住人は使えるけど、その能力には差があるんだよ。使いこなせれば勿論戦術も広がるけれど、そもそもあまり使えないなら初めから使わない方がいい」
「同じ術を使うにしても、簡単にできる人と中々できない人がいる、ってこと?」
優翔の質問にそうさ、と頷く。
「例えば、擦り傷一つ治すとしよう。法術の適性があれば術一つですぐに治る。けれど、全く適性がなければ術を発動するまでにまる一日かかるんだ。擦り傷なんか、その間になおっちまうだろ?」
例え話に納得。たしかにそれは、コスパが悪すぎる。
「適性があれば戦術が広がる、けれど適性がないからと言って戦えない訳じゃないってことか」
「その通り。まあ、適性って言っても色々あるからね。術が戦闘に使えるかどうか、それがわかればいいぐらいの簡単な検査だよ」
この水晶はそんなに複雑なものではなく、術を使う能力が高ければ高いほど強く光る、程度らしい。法術にも傷を治すものから戦いに使えるものまで様々あるようだが、それぞれに適性――属性、といった方がわかりやすいか――があるのだろう。
ごちゃごちゃ考えても仕方がない。優翔は恐る恐る水晶に手をかざした。
目が痛くなるような光が一瞬。その後は光が強弱を繰り返し、最終的に部屋の中が日中の明るさになる程度の光で止まった。
「ほう、これはこれは」
感心したような声を上げたサンドラ。まだ目がくらんでいる優翔とは違い、しっかりと見えているようだ。これが武人なのか。
「さすがは勇者様、といったところだね。王宮法術士と同じぐらいじゃないか」
あくまで法術を使う才能だけはある、ということらしいけれど。少なくとも法術を使うことで戦術の幅が広がるのは確からしい。けれど、そんな力があるとは優翔には全く感じられない。今まで生きてきたのと同じ。体の中に何か渦巻いているとか、そんなものは感じ取れない。
「法術についてはあたしはからっきしだからね。それについてはコンラートかあの子に聞くといいよ」
そう言うとサンドラはどこからか取り出した木刀を優翔に手渡した。
「優翔ぐらいの身長だと長さはこんなもんだね。重さは軽い方だから、まずはこれを振り回せるようになってから考えた方がいい。新兵と一緒に訓練、するだろう?」
先ほどの話を聞いた後の優翔に、拒否する理由はなかった。
調停者は斯く語りき 由岐 @yuki-tk
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