第9話 特殊能力

「ユウトがいた世界の人間ってのはどんなもんか知らないが、こっちの世界には人間族、魔族、獣人族の三種類の人種がある。獣人族ってのはまあ身体能力が高く、直感で生きている強運なのが大半だ。で、人間族ってのは王族たちみたいな種族。こっちは腕力はあまりないが、道具を作り出してそれを使う器用さと知恵がある。あとは神聖術を使えるな。で、最後に魔族だが」

 サンドラはそこまで一息に言うと言葉を区切った。獣人族や人間族については今は本題ではないのだろう。見た目には判断があまり付かないのだろうということを考えると、元の世界の人種とそう差異はなさそうだ。黒人は運動能力が高い、白人は優劣主義だ、とか。

「魔族ってのは膨大な魔力を持っている。だから、人間族に使えないような術も使うし、獣人族みたいな腕力も魔力で補うことがある。まあ使いどころはそいつ自身の趣味嗜好だね。そのかわり、繁殖能力がそんなに高くない。人間族や獣人族に比べれば、って程度だがね」

 この世界の魔力というのがどんなものかはよくわからないが、それは魔族しか持っていないらしい。人間はそのかわりに法力という力を持っていて、それで魔法を使える……って、法力と魔力は違うものなのだろうか。

「それと特筆する能力がもう一つ。野生の生き物を眷属にすることで勢力を増やすんだ。これにも魔力が必要だね。魔力を分け与えた生物はその魔族の眷属となって独立して動き出すんだ。だから、繁殖力が弱くても勢力が強い。この眷属は魔物と呼ばれているね」

 なるほど。法力は他に分け与えることはできないから別物、ってことなのか。ちょっと仕組みがわかってきた。

 優翔が真剣な顔で聞いていると、ふっとサンドラが笑った。

「さて、ユウト。問題だ。あたしはどの種族だと思う?」

 今までの先入観では、サンドラは人間だと思っていた。けれど、今の話を聞いて、獣人も魔族も全てあり得ると思う。

 いや、魔族は戦争中だからないとすると人間族か獣人族か。

 優翔が悩んでいると、サンドラは満足そうに頷いた。

「やっぱり頭は悪くないね。安心しな、あたしは人間族だ。祖父が獣人族だったらしいから、純粋な人間族ではないだろうけど」

 混血ってのはずるいんじゃなかろうか。いやまあクウォーターならほとんど人間族なんだろうけど。

「で、だ。本題の戦争についてだけど」

 不満が顔に出ていたのだろう、サンドラは苦笑をして話を続ける。

「魔族は自分たちで戦わない。種族的に少数だからね。代わりに、眷属たちに人間族を襲わせるんだ」

「自分たちは高みの見物、ってことか」

 ん、間違ってないよな? 部下に捨て身の特攻させて自分は安全なところにいる。確かに戦争の総大将としては正しい在り方だけども。

「まあそんなとこだね。でも、眷属にも問題があってね。あまり強くない魔族の眷属は、理性や知性といった物をどっかに捨ててくるみたいでね。主人の命令も聞かない、ただ血に飢えた獣のように戦い続けるんだよ」

 そして、戦争中はそういった眷属が大量に作られる、とも。

 それはつまり、命令系統など存在しない、ただの野生の獣と何ら変わりない。いや、むしろ強い分よりたちが悪い。

「ある程度の知恵がある奴はそもそも人間族が沢山いるこんな街には入ってこないし、知性のないやつは門番や衛兵が倒していくから、一応町の中は安全なんだけどね」

 問題は眷属じゃなくて魔族が来た時だ、とサンドラは言う。確かに、怪物級がきたら王都であってもダメージは小さくないとは思う。

「なんで、魔族は直接襲いに来ないんだ?」

「そりゃあ、魔王の意向だね。よっぽどの殺戮王でなければ、無辜の民を殺したい、とは思わないんだろう」

 なるほど、と優翔は納得し、頷く。戦争の目的は多々あれど、国土の開拓や奴隷の入手などであれば、人口を減らす必要はない。それこそ、世界征服、などであれば別だが。

「そう聞くと、魔族ってのも普通なんだな」

「そりゃそうさ。ただの種族なんだから」

 当たり前のことを、と言うようにサンドラに笑われた。

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