第8話 魔族

 まずは武器を決めろというサンドラに慌てる。戦いの場に出るつもりはない。優翔は命が惜しい一般市民だ。

 だが、そんな優翔にサンドラは目を丸くして驚く。なんで驚くんだ。

「この国は魔族との戦争中だ。それは聞いているだろう?」

 確かにそれはレオンから聞いた。まだ7日しかいない世界だが、別に戦争中という言葉は初めて聞いた訳ではない。

「戦争中だとは聞いていますけど」

「だったら、勇者にならなくとも武器は必要だよ。何も聞いていないのか?」

 何故戦争中だと武器が必要なのか。一般市民なら、戦う必要はないんじゃないのか。そんな思考が顔に出ていたのだろう、サンドラはまいったね、と頭をかいて背中を向けた。

「ついておいで。中で説明してやる」

 一瞬、見限られたのかと思ったが違うらしい。戦うつもりも戦闘訓練を受けるつもりもないけれど、この世界のことを知らなすぎるのも問題だ。優翔はサンドラの後を追いかけた。


 訓練場に併設された小さな部屋は、休憩室と呼ぶのにちょうどいいぐらいの広さだ。木造りのテーブルとイスが二脚、壁には大きな地図が貼ってある。おそらくこの国の地図なんだろう、数ヶ所に印がつけられている。

 きょろきょろと室内を見回していると、サンドラが椅子をすすめた。

「まあここに座れ。あんた、この国に来てから何を学んでいたんだ?」

 直球ストレート。迂遠な言い回しじゃない分、こちらも誤魔化しがきかない。まあ、この人ははぐらかそうとしても許してはくれなさそうだけれど。そんな視線の鋭さを感じる。

「この国の文字を」

「ずっと?」

 まさか、と言うように聞かれ、頷く。サンドラは呆れたように椅子に寄り掛かった。

「ユウト、あんたの教育係は誰だい」

「エルヴィラです。レオンには、賢者の弟子だと聞いています」

 優翔の言葉にサンドラは両手で顔を覆った。何やら呟いているが、あまり聞こえない。

 呆れたような顔でサンドラは体を椅子から離し、大きく溜息をついた。

「納得した。これはあの子の人選ミスだね。あの子はほどほどってのを知らないからねえ」

 サンドラはもう一度大きな溜息をつくと、パン、と両手で自分の頬を叩いた。それで気合を入れたのか、よし、と改めて優翔に向かう。

「魔族について話してやろう。そうすりゃ、この国で戦う能力が必要な理由もわかるだろう」

 長くなるから、とサンドラは部屋の外に出て、近くにいた兵士に何やら話していた。

「さて、と。まず、ユウト。あんた、魔族を見たことはあるかい?」

「ないです」

 優翔の答えにサンドラはにんまりと笑う。そうだろうな、と含みのある笑みに何やら不穏な空気を感じる。

「魔族ってのは、まあ種族の一つでね。人間との違いは、膨大な魔力ととある能力を持っていること、それから繁殖能力が低いこと。この三つが大きいかな」

 それは全て外見では判断できないこと。ということは。

「魔族って言っても、人間と変わらないんだよ。獣人達の方が外見が違う分、別種族だと納得できる」

 サンドラの言葉は優翔の思考を裏打ちした。

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