第5話 生真面目な騎士

 ごつい鎧は暗い部屋のせいか黒色に見える。実際は暗めの灰色、ぐらいだろうか。光沢のない鎧を身に着けた男は、その鎧がとてもよく似合う。

 まあ有体に言って、デカい。決して低くはない天井に頭がつきそうな程度には。

「ああ、待っていたよコンラート。ユウト、紹介するよ」

 先程までの会話のせいか、若干まだレオンの顔が赤い。そこには触れずに、コンラートと呼ばれた鎧の男は優翔の方を向き直った。

「彼はコンラート。騎士団の一員で、一応僕の剣術師範でもあるんだ。彼を、君の後見人にしたいと思っている」

「コンドラート・ニカノロヴァです。コンラートと呼んでください」

 レオンの紹介で、鎧の男は右手を差し出す。手もごつい。武人の手って、こんな手のことを言うのだろうか。

「松橋優翔です。ユウト、と呼んでくださいコンラートさん」

 差し出された手を握ると、コンラートは奇妙な顔をした。何だろう、と見つめていると、コンラートはレオンの方に視線を向けた。そこから目をつぶり、もう一度優翔に視線を向けた。

「ええと、ユウト、様。あなたは――」

 言いにくそうに何度か口をつぐもうとして、それでも、と決死の決意をしたような表情で問いかける。

「大変失礼ですが、何か戦闘の経験はおありでしょうか」

 もしあれば大変失礼なのですが、と何度も確認をするコンラートに、なんだそんなこと、と思う。

 普通の男子高校生だった優翔に、そんな経験はあるはずもない。

「ないよ。俺のいた所では武器持って歩いてたら犯罪だ」

 もちろん、拳でだって戦う人種もいる。が、刃物に向かっていくような狂人クレイジーはいない。ましてや、コンラートが腰に下げているような見事な剣など、実物を見たのも初めてだ。

 そのことを伝えると、コンラートはまた奇妙な顔をした。

「ということは、実戦経験は皆無、ということでしょうか」

「そんな経験とは無縁だったね」

 そう答えると、コンラートは握手した手を放してその手で顔を覆った。

「コンラート、ユウトには今までの常識が通じないよ。我が国の常識はエルヴィラが教えるから、君には後見人としてそれ以外のことを教えてあげて欲しいんだ」

 これはユウトの望みだよ、とレオンが口添えしてくれる。その言葉にコンラートがレオンを見るが、その目が恨めしそうなのは気のせいか。

「かしこまりました。このコンラート、誠心誠意ユウト様を立派な武人へと成長させて頂きます」

「ちょ、ちょっと待ってよ」

 武人ってなんだ。まだ魔王討伐するなんて言ってないんだけど。

 優翔が慌てると、コンラートは逆に驚いてこちらを見てきた。

「ですが、戦う術がないとなると、この国で生活するのはなかなか難しいかと存じ上げます」

「え、どういうこと?」

 ですから、とコンラートが説明しようとするのをレオンが遮る。

「そこのところはエルヴィラがよく教えてくれると思うよ。ほら、もう来たみたいだ」

 入口に視線を向けると、ちょうどやってきたエルヴィラと数名の女性達。いずれもそんなに年配者はいないようだ。優翔と同じ年か、もっと下に見える女性もいる。彼女たちを連れてやってきたエルヴィラはさながら貴族の令嬢のようだった。

「ユウト様。コンラート様も、レオン様も。お部屋のご用意ができましたので移動をお願いいたします」

 彼女の言葉にレオンはわかった、と一言だけ返した。その言葉には二人で話した時の動揺は見えなかった。さすがは王族か。

「とりあえず移動しよう。話はその後にでも」

 レオンが先頭に立って歩き出すのを追いかける。コンラートは複雑そうな表情をしながらその後ろに続くのが見えた。

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