第4話 賢者の弟子

「さて、僕の話もいいけど、ユウト、君のことだよ」

「俺のこと?」

 レオンの言葉に疑問で返す。何を聞かれているのか、いまいちわからない。

「君は今後どうするか。何をしたい?」

 つまりはこれからの身の振り方を聞かれているらしい。レオンの言葉に、優翔は少し考える。

 召喚や王族がいることから、知らないことはたくさんあるだろう。というか、一般常識でさえ危うい可能性がある。まさかお金の単位が円ってことはないだろうし、そもそも元の世界ではただの学生だった自分が知識豊富だとは思えない。

「まず、この世界について知りたい」

 せめて一般常識を身につけなければ、何をするにも不便すぎる。そう考えての結論だった。

「それなら、学ぶために王城の一室を用意しよう。教師代わりに後見人と、それから図書館にも話をしておくよ」

 僕ができるのはこれぐらいだけど、と言ってドアの方を見る。その視線をたどって、優翔は案内人の女の子を思い出した。

 すっかり頭の中から消えていた。こんな短時間の会話だったというのに。

「エルヴィラ、君に頼むよ」

「かしこまりました、レオン様」

 案内人の女の子はレオンに呼ばれ、スカートをつまんでお辞儀した。そうか、彼女の名前はエルヴィラと言うのか。

「彼女は賢者の弟子のひとりだから、教育係としては優秀だよ。まだ成人前だから、後見人として騎士団の人間も一人呼ぼう。じゃあエルヴィラ、部屋を一つ用意しておいてくれ」

 レオンの言葉にエルヴィラはもう一度頭を下げて部屋を出た。エルヴィラの姿を見送ると、レオンはふう、と一つ息を吐く。

「彼女、いると緊張するんだ」

 優翔に片目をつぶり、内緒だよ、と話す。

「緊張?」

「だってあの子、綺麗じゃないか。それに表情を変えない」

 そして賢者の弟子として能力もある。だから、とても緊張するんだと。そう言うレオンに、優翔はピンときた。

「なんだ、レオンはあんな仏頂面が好きなんだ」

「な、は?」

 優翔の言葉に慌てた様子のレオン。うん、実にわかりやすい。

 王族はもっとポーカーフェイスじゃないのか、とも思うが、王族でない王族なのだから、こんなものなのか。

 慌てているレオンに悪戯心が涌き出る。同時にエルヴィラの顔を思い出し、確かに綺麗だと納得する。

 銀色の髪は腰の辺りまで長く、丁寧に手入れされていたようにも思える。だぼっとした服に隠れていたが、わずかに見える手首や首もとから、華奢な方だとも思う。

 万人が言う『美少女』とはこんなやつなんだろう、と思う。が、優翔は好みじゃないな、と小さく呟いた。

「ニコニコしてる方がよっぽどいいと思うけどなぁ」

 確かに綺麗だし、レオンが気になるというのもわかる。が、全く表情が変わらない彼女はまるで人形を相手にしているようで、気味の悪ささえ感じる。逆説的に、人形のように綺麗である、とも言えるのだろうけど。

 男同士、そんな話をしていると数年前に戻ったような気分になる。まだ普通の学生だった頃、クラスの女子の話をしてはゲラゲラ笑っていたっけ。

 感傷に浸りそうになるも、エルヴィラを待っている間は暇なんだ。レオンをからかう種も手に入れたことだし、と優翔はレオンに追い打ちをかけようとした。

「レオン様、お呼びでしょうか」

 その男が来たのはそんなときだった。

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