吸血鬼はよみがえる

 ジャスティン王子との決闘に負けて殺されてしまった私は、棺に入れられて学園の地下室に保管されていた。


 そこへルーデシアが現れる。


 ルーデシアは手に釘抜きを持っていた。


 なにをするつもりだろう、と肉体から分離した意識の私が思っていると、彼女は釘抜きで棺の蓋を封印した釘を抜き始めた。


 普通の人間だし、女の子だし、大して体力もないだろうに、その細い腕で一本一本釘を抜いていく。


 一時間くらいはかかっただろうか。


 全部の釘を抜き終えたルーデシアは、棺の蓋を持ち上げると、顕になった私の姿を見下ろす。


 ぽた、と私の頬になにかが落ちてきた。


 これは……涙か。


 ルーデシアが泣いている。

 私を見て、大粒の涙をボロボロ零している。


 すぐにルーデシアは私に飛びつくように抱きついてきた。

 私の身体に残っている土汚れや血がつくのも構わずに。


「ごめんなさい……! ごめんなさい……!」


 そして何度も何度も謝る。

 もう、あなたが悪いわけじゃないのに。


 だってルーデシアは決闘を止めようとしてくれた。

 ジャスティン王子の取り巻きや、観客がそれをさせなかったのだ。


 ルーデシアはいつも私の味方だった。


 私が一人ぼっちでいるときに声をかけてくれた。

 私が苦しんでいるとき、血を飲んでいいと言ってくれた。

 私が彼女を襲ってしまった後も、変わらず接してくれていた。


 ルーデシア、あなたはとても素敵な女の子。

 こんな私と違って幸せになることができる。

 ジャスティン王子と一緒に……。


 ……………………。


 …………待てよ。


 ふと私は、自分が死ぬ直前の光景を思い出した。


 今のように、私に取りすがるルーデシアを引き剥がそうとしたジャスティン王子の様子だ。


 王子は、最初は自分でルーデシアの腕を掴み私から引き剥がそうとしていたけど、二回目には取り巻きたちにやらせていた。


 どうしてだろう、とそのときは理由がわからなかったけど、今ようやくわかった。

 最初は、ルーデシアの服はまだ血に濡れていなかった。

 あの後もルーデシアは私に抱きつき続けたので、すぐに服が血塗れになった。

 だから王子は自分で触れたがらなかった。

 

 あの王子、自分の服が血で汚れるのが嫌だったんだ。


 へえー……。

 ほおー……。

 ふーん……。


 なるほどね……。


 ……………………。


 …………だめだめだめ!


 あー無理!

 もう無理!


 冗談じゃないわ!

 なんだあの王子!


 いきなり私を殺そうとしてくるし。

 めっちゃ差別主義者だし。

 挙げ句の果てに、好きな女の子が血で汚れたから触りたくないって!


 ないないない。

 ないわー。


 ルーデシアは普通の人間だから、ジャスティン王子とはお似合いだろうって思ってたけど、そんなことない。

 きっとあいつは、ルーデシアを不幸にする。


 いや、まあ万が一、億が一彼女がジャスティン王子と結婚して幸せになれるとしても、だ。


 ――私がいや!


 ルーデシアがあの男とくっつくのが許せない。

 そんな光景、想像したくもない。


 勝手かな?


 なにしろ私は悪役令嬢。

 二人は乙女ゲームのヒロインと王子役。

 割って入りたくても入れない。

 入ろうとすれば殺される。

 そういうシナリオだ。


 ――それがどうした!


 もともと私は二人の邪魔なんかするつもりはなかったのだ。

 二人に関係ないところでこっそり生きようと思っていた。

 なのに女の子の血しか吸えないなんて変な体質だったせいで、関わることになってしまったのだ。


 だったらもうシナリオなんて知ったことか。

 私はルーデシアと知り合ってしまった。

 ルーデシアの血を吸ってしまった。

 ルーデシアが可愛いと思ってしまった。

 ルーデシアを――渡したくないと思ってしまったんだ。


 だから……。


 いいかげん起きなさい、私の身体!

 いつまで死んでるのよ本当にもう!


「きゃ!?」


 あれ……?


 本当に動いた……?

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