第8話 言葉にしなくても伝わる思い

翌日、東京での仕事が長引き蓼科に戻る途中のサービスエリアで、コーヒーを買っているところで、美茶からのメッセージに気づいた。


「この前は、楽しかったよ、ありがとう。やっとみんなが寝て自分の時間になったから、思わずメールしてる」

もう夜の11時だ。子どもの世話をしながら、公園に行ったり全力で過ごしてる彼女を思い浮かべると、自然に手が動いていた。

「お疲れ様。僕は今、仕事終わって戻るところ。」

彼女は僕が運転中なのを気づいてないようだ。すぐに返信を送ってきた。


さすがに100キロで走っている車の中でSNSを送るのは無謀だ。でも、移動の多い僕はメッセージを音声で読み上げ、そして音声を文字にして送信するアプリを入れてあるから、移動中でもタイムリーな会話ができるにしてある。とはいえ、このアプリを使うのは初めてだった。


僕は車に乗り込んでイヤホンをつけた。まるで美茶と会話をしているような気になった。きっと、彼女もそうだろう。彼女は疲れているしすぐに寝てしまうだろう。


僕は聞いてみたいことがあった。

「美茶さんは、結婚してから男性からアプローチされたことありますか?」

「結婚式の二次会でずっととなりにいるなと思った人が帰り際にデートしようって強引に腕を掴まれたこととか、子どものサッカーチームの試合のあとに今度おちゃしませんかって言われたことはあるけど、笑って流してる。なんでそんなこと聞くの?」


「そういう経験が豊富なら、むしろ僕がしっかり考えて行動しないとなって思ったけど、美茶さん、流されてないから大丈夫そう。」

「そうだね、しっかりしなくちゃね。私にとっても、初めてのことだから、自分の気持ちに正直になったらいけないなとかすごく葛藤してるから、颯馬がしっかりしてくれるに越したことないわ。」

「そう言われると僕も自信が無いかも。」


「言葉にしなくても、相手に伝わってしまう気持ちは、どうしても隠せないと私は思ってる。」


その言葉を聞いて僕は、

「美茶さん。。。もうすぐ着くけど会えないよね?」

と、送りながら思わず電話を発信させていた。画面が通話中に切り替わった。


「え、颯馬どこにいるの?今、微かに車の音がした気がして思わず走って窓開けてみたよ。でも、私の勘違いだったみたい。さすがに、今は会えないよ。でも会えない?って聞かれて嬉しくて、車で家の前にいるなら、出て行こうと思っちゃった。」


心がズキンとした。車で3分の距離。彼と彼女の関係なら好きなときに簡単に会える。でも、僕と美茶はそういう関係じゃない。いくら家が近くたって、お互いに会いたいと思っていたって、会いたいときにいつも会えるわけではない僕たち。余計に会いたくなるじゃないかと思いながら、


「さすがに無理だよねごめん。寝なくて平気だった?あっという間に二時間たってるよ。」

「話してるの楽しくて時間のこと一回も気にしなかった。もうこんな時間か!明日も六時おきだから寝るね」

そう答えた美茶の気持ちが嬉しかった。そして、これじゃあ彼女よりも嬉しいこと言ってくれると10年付き合ってる彼女とのまんねりを認めざるを得なかった、

美茶も結婚して10年以上と言っていたから、まさに、お互い恋愛したての気分を味わいたいだけなのかもしれない。

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