第4話 初めてのドライブデート
「今、公園についたので、ご都合の良いときお願いします」
と、あの人から連絡が来たので、今回は色々考えずに急ぎ足で言われた公園に向かった。
駐車場で、先ほどの車を見つけて、にわかに僕は緊張し始めた。どうやって声をかけようか。僕の胸の高まりが伝わってしまうのではないかと思いながら、公園の中に入っていった。
かなり広い公園で、広場に近づくにつれて思っていたより多くの親子連れがいて、数分しか顔を会わせてないあの人を僕は見つけられるか急に不安になった。
またしても、僕の心配は杞憂に終わった。
「
遊具の上から、子どもと鬼ごっこをしていたあの人が気づいて、こちらを向いて笑顔で手を振っている。
突然名前を呼ばれて驚いたが、レシートの裏に名前を書いて渡したのは僕だった。SNSの名前はニックネームにしてあったから、名前で呼ばれるのは嬉しい誤算だった。僕はあの人の名前をまだ知らない。
「あ、どうもー!」
と月並みな返事をし、あの人のもとへ照れを隠しながら駆け寄った。
「颯馬さん、さっきは本当にありがとうございました。これ、お返しします。」
と、小さな折り紙の封筒を渡された。短時間の間に家にあったもので作ったんだなと、細かい作業が好きな僕は受け取ってすぐにその細やかな気遣いに温かい気分になった。
「お兄さん、あそぼ!」
「ダメだよ、お兄さん忙しいから、ママとおにごっこの続きしよう。」
と、言うあの人の言葉が終わるのを待たずに、僕は
「じゃあお兄さんも入れて!お兄さんが鬼ね、さあ逃げて!」
と、鬼ごっこを始めると、あの人は恐縮するどころか、楽しそうに逃げ始めた。初めて会ったとは思えないくらい三人での鬼ごっこは盛り上がり楽しくて、一瞬自分が父親になった気分がした。
きっとこれだ。僕がお母さんであるあの人に何か特別な感情を抱いた理由がわかった気がした。家庭教師をしている他のお母さんと違う何かだ。
子どもの目線にたって話をしていたあのファストフードでの出来事、そして今、目の前にいる彼女はスマホを見てるわけでも、ベンチで座っているわけでもない。子どもと一緒に笑いながら一緒に走りまわって、貴重な時間を本気でエンジョイしているように見える。そんな様子が彼女をおかあさんではなく、一人の魅力的な女性にしているのだ。
そんなことを考えながらも、足の早さでは負けない自信のある僕は二人の事をつかまえた。三人とも爽やかな汗をかいていた。
「喉がかわいたから、お兄さん、お茶買いにいこう!」
「おお、いいよ。」
「これで、お願いします」と渡された200円を受け取り手を繋いで自動販売機に向かいながら、
「お兄さんお名前なんていうの?僕は、
「僕は颯馬だよ。何歳?」
「6歳だよ。ママは42歳。お兄さんは?」
「お兄さんは28歳だよ。駿は6歳だから1年生か。」と答えながらも、あの人が自分よりも14歳も年上だということに驚いた。年の差に驚いたのではなく、それをまったく感じさせないはつらつとしたあの感じ、むしろ姉のような親近感さえ覚える距離感、話してて安心できる心地よい空間が二人の間にあったことに驚いた。そんなことを考えながら駿と会話しているのを、あの人は、少し離れたところからにこやかに見守っているのを感じた
自動販売機でお茶を買い終わると、僕の車に気づいた駿が
「格好いい車だね、早そう!乗ってもいい?」
と聞いてきた。愛車を誉められた僕はついつい嬉しくなり
「いいよ、乗ってごらん」
と駿を助手席に乗せて、空いている駐車場を一周することにした。
僕は親戚の子どもを乗せる感覚だった。しかし、浅はかなことをしたと気づいたのは、車を走らせて程なくしてあの人が大慌てで、後ろから走ってきているのがバックミラーに映ったからだ。すぐに車を止めて事情を説明した。あの人は、怒っているわけではなく本気でショックを受けている。
「知らないお兄さんがお金を貸してくれて助けてくれて、公園で一緒に遊んでくれて、少しだけど話しもできてこの青年なんていい子なんだろう。もう少し話せたらいいなと思っていたところで、うちの子を車に乗せて走り出したから、誘拐されたと思ってかなり焦ったし、初めて会った人に警戒しなかった自分を責めたよ。」
と、本音をぶつけてきたあの人の言葉を聞きながら、僕は自分を責めた。また会いたいと思った相手を傷つけてしまった。無意識に。そんな淀んだ空気を感じ取ったのか
「3人だったらいいんじゃん!ママは、前にのって駿は後ろに乗るからドライブしようよ」
と、あの人の子どもが、絶妙なタイミングで助け船をだしてきた。まだ、あの人は半信半疑だ。
「お母さんさえよろしければどうですか?」
「ママも乗ろうよ!」
子どもにつられてあの人は
「OK!じゃ少しだけね!お邪魔します。」
と助手席に乗り込んだ。
「やったね」と言う駿くん。
思わず僕も
「やったね。」と返事をしていた。
もう、さっきの不安な表情はどこにもなく安心した僕は思わず
「初ドライブデートですね。」と言って焦った。
また余計なことを言ってしまったと。
「そうだねー、子ども付きだけどこれは、確実に初デートだね。」
と答えた彼女のにこやかな笑顔に、僕の心配はぶっ飛んだ。
このままもう少しドライブしたいなと思ったその時、スマホの着信がドライブの終わりを告げた。
学業と同時に学生の頃から携わってる事業の仲間からの至急の呼び出しだった。
名残惜しむ間もなく、その場を離れざるを得なくなった僕は、最後に
「また、連絡します」と告げていた。
彼女は驚きつつも、僕の気持ちを組んでいたようだ。
「ドライブ楽しかった。ありがとう!また会おうね!」
と、あの人は車を降りてから、しっかり僕の目を見てそう言った。それは、社交辞令ではないように感じた。僕の勘違いじゃないと良いのだが。
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