第3話 再会までの数時間
親子が去ってから、僕はその数分の出来事を思い返していた。困っているあの人に思わず声をかけただけだったはずなのに、沸き上がってきている違う感情を押し殺すことができなかった。ふと、東京にいる彼女の顔が浮かんだ。それがかえって、あの人への特別な気持ちを再認識させた。
何も起きないのはわかっていた。あの人は、お金を貸してくれた僕にただ、感謝しているだけなのもわかっていた。わかっていても、自分の気持ちは変わらなかった。
ほどなくして、SNSのメッセージを開いた。駐車場で友達の追加をしたときに送ってくれたのであろうスタンプが一つ届いてた。
それだけだった。
でも、きっと連絡は来ると、なぜか確信していた。
「子どもの前で知らない人からお金をもらうわけには
いかないので」
という言葉に説得力があり、子どものことを大切にしているように見えたから、そう言いつつしらばっくれてしまうとはどうしても思えなかったのだ。
もともと、僕はメッセージを受け取ってもすぐに読まないことが多く、いつも彼女にあきれられていた。何時間もたってから確認して返事をすることも多く、僕の性格を理解してる彼女は本当に大事なことはSNSではなく電話で連絡してくる。
そんな僕があの人と会ったあとから、無意識にスマホに手が行っていたようで、一緒にいた先輩に、
「
と、心配されて、思わず
「いや、そんなことないですよ。」
と、鞄にしまったほどだ。
コーヒーを飲み終わった僕は、家庭教師をしている
子どもへのカードを出すためにそこで先輩と別れて
愛車に乗り込み郵便局へ向かった。
道すがら、似たような親子を見かけてはっとした自分がおかしかった。
車内で充電中のスマホが軽快な呼び出し音を鳴らした。いつもなら運転中は、見向きもしないのだが、
今日ばかりは気になって仕方がなかった。
郵便局まで信号は青が続き、そのたびに、ラッキーなのかアンラッキーなのかわからない気持ちになった。
やっと郵便局の駐車場につき、パーキングにギアをいれたあと、エンジンを切るより前にスマホを確認した。
あの人からだった。
「さっきは、本当にありがとうございました!!先ほど家に戻りました。まだ近くにいらっしゃるようなら、少ししたら新幹線の見える公園に向かうので、ご都合の良い場所をお知らせいただければ伺います。」
店であった時の気取らない感じのあの人の様子と、僕の方が確実に年下なのにLINEで来た丁寧な口調に大人の女性の余裕を感じた。
すぐに返信するのは、あの人からのメッセージ待ち構えていたようで少し気恥ずかしかったから、少し時間をおいて返信することにした。
「ちょうどまだ近くにいるので、1時間後くらいなら、僕が公園に向かいます。その方が息子さんも退屈しませんよね。」
と、返信を送り返したのは、わずか5分後だった。そして送信後なぜ、1時間後にしたのだろう、公園についたら連絡くださいで良かったのではないかと、気を使ったつもりの返信で、むしろあの人を急かすことになるのではないかと、色々考えてしまい、自分の余裕の無さを感じさせられたのだった。
返事はすぐに来た。
「助かります!では、30分もしたら公園で遊んでますので着いたら連絡ください。お願いします。」
返信をすぐ送ることも、僕が色々心配したこともあの人はなんとも思ってない。僕より大人なのだ。
そんなことを考えながら、郵便局の窓口で順番を待っていた。
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