第四章 賽の河原



登場人物・配役表


桐生一馬:

伊達真:

遥:

錦山彰:

サイの花屋:

真島吾郎

(組員)

(課長)

署長

須藤

歌彫





ー賽の河原ー




桐生「東城会の100億。それに由美と美月って姉妹の情報だ。

報酬はいくらかかるんだ?」


サイの花屋「情報集めるのも金がかかるんだよ。どこにでも俺の手下はいる。」


サイの花屋「キャバ嬢のバンツの色から裏の取引。表沙汰になってない殺しまで。

全て俺のところに話が入ってくる。

そして俺はその星の数程の情報を繋ぎ合わせて客の欲しい正確な情報を提供するんだ。

だから俺の情報は高い。分かるよな?」



サイの花屋「10年前、堂島の龍って言やあ相当なもんだった。

俺はヤクザってのが死ぬほど嫌いでな。

だが情報屋ってのはとどのつまり、のぞき趣味でよ。

あんたが天下の東城会敵に回して何しでかすか。実のところ興味津々なんだ。

だがタダで情報やったんじゃ他に示しがつかねえ。

俺はフェアじゃねえことは嫌いなんだ。

仕事をしてもらおう。

堂島の龍にしか出来ねえ仕事をな。」


桐生は地下闘技場に連れてこられた。


桐生「地下闘技場か。」


サイの花屋「金の使い道が思いつかねえ金持ち。血ぃ見るのが好きな変態どもがお得意様よ。

選手は殺しても殺されても問題ねえ。

ここは賽の河原だ。三途の川もすぐ近くってな。」


桐生「俺にかできねえ仕事ってのは?」


サイの花屋「3人勝ち抜けば賞金が出る。

賞金を手に入れられれば、そいつを情報料として貰おうじゃねえか。」


かつて堂島の龍と言われた桐生の出場で、会場は熱気に包まれた。

熱狂と狂気の中、桐生は殺人犯や格闘技の元王者などを次々と倒し、賞金を得た。


桐生「次はお前が仕事する番だぜ。」


花屋の部屋に移動する二人。


サイの花屋「安心しろ。約束は守る。

東城会の100億と由美と美月って女の話だったな。

東城会三代目は金が盗まれたことを隠していた。

だがそれを錦山って直系組長が緊急幹部会で暴露したんだ。

三代目を殺したのは、俺は錦山だと踏んでる。

ヤツの動きは四代目の椅子を狙っているようにしか見えねえ。」


桐生「・・・かもしれねえな。」


サイの花屋「だが今の東城会は群雄割拠だ。

三代目は死に、跡目もまだ決まってねえ。

となれば、100億取り戻した男が四代目だろう。

錦山のたった一言の引き金で共食いの泥沼。

任侠が聞いて呆れるぜ。

100億を奪ったのは由美って女だ。

こいつは匿名のタレ込みがあったらしい。

東城会で裏取ってるうち、妹の美月が事件の直前からアレス閉めて行方くらましてるのが分かった。

いよいよ本ボシってわけだが、二人とも見つかりゃしねえ。それで・・」


桐生「美月の娘、遥か。」


サイの花屋「東城会は美月の娘を捜している。」


桐生「遥は今、俺と一緒にいるんだ。」


サイの花屋「遥・・そうだったのか・・

おととい顔隠した妙な女が来てな。

そいつが捜してくれって言った子の名前が確か遥だった。

女の顔は見たが、俺にはそれが由美って女か美月って女かも分からねえ。

得体の分からん奴とは仕事も出来ねえからな。丁重にお帰りいただいた。」


その時、突如花屋の電話が鳴った。


サイの花屋「なんだ?・・・そうか、分かった。」


サイの花屋「お前に客だ。見に行くぞ。

足元注意しろ。」


花屋が座っているデスクのフロアごと地下に降りていく。

するとそこには無数の監視カメラの映像が巨大なモニターに映し出されていた。


サイの花屋「驚いていいぜ。

ここが賽の河原の本当の姿だ。」


何面にも並んだモニターには神室町のありとあらゆる場所が映し出されていて、その全てにサイの花屋の息のかかっているであろうホームレス風の男達が映っていた。


サイの花屋「5年前、警視庁は50台のカメラを取り付けた。

テロ防止なんかが名目だが、所詮たいして役には立ってねえ。

だがよ、俺は実際にこの目で見てるんだ。

1万台のカメラを設置してな。」


モニターに伊達の姿が映し出された。

右肩から血を流している。


桐生「伊達さん・・?

何があったんだ?」


サイの花屋「伊達か・・なんとも落ちぶれちまったもんだ。

奴の行動をたどってみるか。」


伊達が映った映像が巻き戻され、10分前の映像になった。

伊達と遥が道を歩いていると、黒いワンボックスカー2人の前に横付けされた。

降りてきた男に伊達は銃で右肩を撃たれ、遥は車で連れ去られてしまった。

桐生と花屋は伊達の元に向かった。

花屋を見た伊達が驚く。


伊達「あんたが・・サイの花屋・・」


サイの花屋「久しぶりですね、伊達さん。

桐生、例の子をさらった車はバッティングセンターに停まった。

安心しろ。この情報料はツケにしといてやる。」


そう言い残すと花屋は地下街に戻っていった。


伊達「あいつは元警官だ。

警察の情報を横流ししてたのを俺が告発したんだ。

その後は知らねえが、こんなとこで会うとはな。

桐生、遥さらったのは真島組の奴等だ。」



桐生「よりによって真島の兄さんか・・」


桐生は一人でバッティングセンターへと向かった。

そこに組員数名と共に真島が現れる。


真島「久しぶりやのう、桐生チャン!

ワシャ嬉しゅうてたまらんのや。

堂島の龍と直接やり合える。

本物の命張ったケンカができる。

なあ、桐生チャンなら分かるやろ?なぁ?」


桐生「遥を返せ!」


真島「別にええで。

そこのドア入ったところにおるわ。

言うたやろ?桐生チャン。

ワシャお前と勝負できりゃぁそれでええんじゃ。

なあ、もうこれ以上じらすなや桐生チャン。

行くでぇ!!」


短刀を持って襲いかかってくる真島。

それを躱し、すかさず反撃する桐生。

激しい戦闘の末、真島は膝をつく。


真島「やっぱりゴツイで、お前は・・

それでこそ、桐生チャン、や・・・

まだまだ・・行くでぇ!」


桐生「勝負はついた、遥を返せ。」


真島「アホゥ・・・・!」


真島は桐生の裏を睨みつける。

組員の1人が短刀を片手に桐生に迫る。


組員「死ねや!桐生ーーーー!」


その瞬間真島が桐生と組員の間に割って入り、短刀は真島の腹に刺さっていた。

事態を理解できずに慌てる組員。


組員「お、親父・・・なんで・・・」


真島「き、桐生チャンはなぁ・・・

俺の獲物やぁ・・この・・・ド阿呆!!」


真島が組員を殴り飛ばす。


真島「コイツを殺れるのは・・ワシだけなんじゃあ!!」


そう叫ぶと真島は力なく倒れた。

組員が騒ぎ立てる中、遥が奥の部屋から恐る恐る出てくる。



遥「おじさん・・怖かった、怖かったよ。」


桐生「遅くなったな。」



遥を連れてセレナへ帰ると、傷の治療を終えた伊達が出迎えてくれた。


伊達「すまなかったな、遥。

お前のことを守ってやれなかった。

怖かったろう?」


遥「うん。縛られて真っ暗な部屋に・・

でも外が急にうるさくなって、そしたら知らないオジサンが来て逃げなって・・」


桐生「知らないおじさん・・?」


遥「お礼を言ったら、ペンダントは持ってるか?って。」


そう言うとペンダントを取り出し、見せる遥。


遥「これ・・由美お姉ちゃんが。

私、由美お姉ちゃんに聞いたの。なんでお母さんに会えないのって。

そしたらこのペンダントをくれたの。お母さんが持ってたって。

私にって預かってきたんだって。

大事なお守りだからこれ持ってることを知らない人に話しちゃダメだって。」


伊達「そのペンダントを知らないオジサンは欲しがったのか?」


遥「ううん、大事に持ってなさいって。

これには100億の価値があるんだよって。」


伊達「見せてみろ。」

…鍵付きか。無理矢理こじ開けるってのは・・駄目だよな。」


遥「ダメだよ!」


桐生「遥、そのオジサンの顔は覚えてるか?」


遥「真っ暗だったから全然。

でもその人、桐生のおじさんにペンダントのこと伝えてくれって。」


桐生「俺の名前を?

・・・何者か分からんが一つだけ確かなのは、俺達はいつの間にか事件の中心に置かれていたって事だ。」



セレナを出た伊達は一度警視庁神室警察署に戻った。

署に入るなり課長に呼び止められる伊達。


伊達「課長・・何か?」


課長「ああ。ちょっと話がね。」


署長室に連れてこられた伊達。


伊達「何のお話でしょうか?」


署長「10年前、君は独断である事件の捜査を進めその後のキャリアを滞らせた。

二度目がないことは分かっているね?

…単刀直入に言おう。

今君が調べている事から直ぐに手を引くんだ。」


伊達「どの件でしょう?」


署長「交渉の余地は無いんだよ、伊達君。

今すぐ手を引きなさい。話は以上だ。」


伊達「…失礼します。」


伊達は課長と一緒に署長室を出た。

すると奥から二人の背広を着た男性が出てきた。


須藤「今のが伊達刑事かね?」


署長「どうだ、須藤君。」


須藤「誘拐犯なんですね?伊達さんと一緒に居るのは。」


署長「そうだ。依頼主は明かせないが捜索願が出ている。

上から直接頼まれた異例の任務だが一課で引き受けてもらえないか?」


須藤「……分かりました。」



その日の夜、伊達は一枚の写真を持ってセレナにやって来た。


伊達「今朝東京湾に上がった女の水死体だ。」


写真を見た桐生が女性の胸にある刺青に気付く。


桐生「この刺青・・

アレスに飾られていた美月の写真の胸にも同じものが・・」


伊達「死因は頭部挫傷及び出血多量によるショック死。

死体はコンクリートの重石をつけられて沈んでいた。

かなりの拷問を受けている。

何とも言えんが、この刺青・・

美月の入れてた模様と一緒なんじゃないのか?」


写真の刺青部分を見ていた桐生が文字を見つける。


桐生「これは・・

この辺り、よく見てくれ。

小さく歌って文字が見えないか?」


伊達「あ、あぁ・・・」


桐生「こいつは二代目・歌彫の仕事だ。」

この彫師は必ずどこかに自分の銘を入れるんだ。」


伊達「じゃあ、この死体の刺青もその彫り師が?」


桐生「あぁ・・俺の背中も彫ってくれた。

千両通りとピンク通りの間の龍神会館にいるはずだ。

…写真の女が美月なら、遥には酷だ。

あいつには伏せておく。」


そして桐生は、一人で龍神会館に向かった。



桐生「お久しぶりです。

先日出所して参りました。」



歌彫「おう、桐生か。

で、世良の葬式であの大暴れか。

どうした?墨でも入れなおしに来たのか?」


桐生「いえ・・」


桐生は女の水死体の写真を歌彫に見せた。


歌彫「この文様は・・月下美人だな。

一年に一晩しか咲かねぇって花だ。

この刺青、俺が彫ったって言いてぇのか?」


歌彫「確かにこれは俺の文様だが、最近は真似する奴も多い。

俺は彫った刺青は全部覚えてるんだ。

こいつは俺じゃあねえよ。」


電話が鳴り歌彫が出る。


歌彫「もしもし・・おう、お前か。

ああ・・いるぜ。」



歌彫「錦山からだ。」


電話に出る桐生。


桐生「桐生だ。」


錦山「久しぶりだ。兄弟。

情報ってのは権力の大きい所に集まるんだ。

お前の居場所もすぐに分かる。

今の俺は欲しいと思った情報はたいがい手に入る。

美月の死体はもう見たか?

お前と一対一で話がしたい。

明日、夜の10時。セレナで会おう。」


電話は一方的に切れた。


歌彫「桐生、背中の龍に色入れ直してやる。

弱っちい龍じゃ今の錦山には勝てねえぜ。」


歌彫に刺青の色を入れ直してもらう。


歌彫「もう十何年も前か。

お前は龍を、そして錦山は鯉を背中に入れた。

刺青ってのは背負ってるそいつ自身が光らせるもんでな。

今、錦山の背中はすげえ色に輝いてるはずだ。

これでやっとあいつはお前と対等に張り合える。

黄河を泳ぐ鯉は山脈を経てやがて龍門に入る。

龍門を昇りきった鯉は龍に生まれ変わるんだ。」


歌彫「奴は龍門を昇りきろうとしている。

最後に龍になる為にはお前という相手が必要なのかも知れねえなぁ。」



龍神会館を出た桐生は一度セレナに戻った。



伊達「錦山がここに?

遥は東城会に狙われてる。連れ出さねえとまずいぞ。」


桐生「賽の河原が一番安全だろう。」


遥「行かないよ、私。

おじさん、さっきお母さんのこと調べに行ってたんでしょ?

なのになんで連れて行ってくれないの?

私、お母さんに会いたいの。

ここに遊びに来たんじゃないの!」


桐生「遥・・・。」


遥「このペンダントでしょ?

このペンダントがみんな欲しいんでしょ。

私なんてどうだっていいんでしょ?

おじさんだってきっと100億円欲しいから私と・・」


桐生「遥っ!」


遥の左頬にビンタをする桐生。


桐生「・・すまん。

遥・・今は俺を信じてくれ。

それしか言えない・・」


遥「私だって信じたい・・でも・・私にはお母さんしかいないの!

おじさんが勝手にするって言うなら、私もそうする。さよなら!」


遥は桐生の前にペンダントを置いてセレナを飛び出して行ってしまった。





〜第四章 完〜


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