第三章 出会い


登場人物・配役表


桐生一馬:

麗奈:

少女(遥):

錦山彰

松重

日吉公信

田中シンジ

看護婦

サイの花屋

伊達真

柏木

嶋野




ークラブ「セレナ」ー



麗奈「いらっしゃ・・」


桐生「久しぶりだな、麗奈。」


麗奈「っ!!桐生ちゃん!」


桐生は麗奈に一連の騒動を話して聞かせた。


麗奈「そうだったの・・風間さんが。

でも桐生ちゃん、突然来るんだもん。驚いちゃった。」


桐生「麗奈、親っさんは俺に言った。由美を頼むってな。

あいつの事、何か知らないか?」


麗奈「あの時病院から疾走したって聞いてからは何も。

でもね、桐生ちゃん。

5年前、ここに美月って女の人が訪ねてきたの。

彼女、澤村由美の妹ですって言ってたわ。」


桐生「由美に妹が?」


麗奈「うん、でも妹がいたことは由美ちゃんも知らなかったはずよ。

由美ちゃんだけ生まれてすぐ生き別れになったんですって。

美月ちゃん、ちょくちょくここに顔出してくれてね。

そのうち由美ちゃんがいたこの店で働きたいって。

4年位いたんだけど、去年急に自分のお店を持つことになったの。」


桐生「店?どこだ?」


麗奈「お店の名前は、アレス。

オープンしたら場所を知らせてくれるってことになってたんだけど、まだ連絡無いのよ。

こっちから聞こうにも連絡先変わっちゃってるみたいで。

彼女、由美ちゃんによく似てた。

会えば直ぐに分かると思う。

あと、左胸に刺青入れてたわ。花模様の。」


桐生「由美の妹らしくない。

わかった。・・・邪魔したな。」


麗奈「またいつでも来てね。

私に出来ることなら何でも協力するから。


・・錦山君のこと、聞かないんだ。

それとも・・もう誰かから?」


桐生「ああ。自分の目で確かめるさ。人が何て言おうがな。」


麗奈「ねえ、桐生ちゃん。

ミレニアムタワーって知ってる?5年前に建てられた。

そのタワーの裏に小さなバーがあるの。

マスターは飲食店の元締めみたいな人よ。

新しい店が出来たらマスターに必ず連絡が行くわ。アレスの場所も、きっとね。

そのバーはバッカスっていう名前よ。」



桐生が再びバッカスを訪れると、バーテンダーと3人の客が殺されていた。

カウンターの影に銃を握りしめて座っている少女を発見する桐生。


少女「あ・・あ・・あ!」


少女から銃を取り上げる桐生。


桐生「何があった?」


少女「私が来たら・・みんな・・もう・・

お母さん捜して・・私、いろんなとこで聞いて・・」


桐生「とにかくここを出るぞ。」


桐生は少女を連れてバッカスを後にする。


桐生「お前、母親はどこにいるんだ?」


少女「分からない・・・今日ずっと捜してたんだけど。

孤児院・・黙って出てきたんだ。

私は遥、お前じゃない。おじさんは?」


桐生「ああ。桐生、桐生一馬だ。

孤児院にいるって言ったな。

本当に母親はこの街にいるのか?」


遥「多分・・手紙にはそう書いてあったから。

でもまだお母さんに一度も会ったことない。

私が頼れるのはお母さんと由美お姉ちゃんだけ。

由美お姉ちゃんはお母さんのお姉ちゃん。

いつも手紙持ってきてくれた。」


はぁ、疲れたあ・・」



桐生は眠ってしまった遥を抱いてセレナに向かった。


桐生「麗奈、この子を頼む。」


麗奈「熱があるみたいね。奥の部屋にいっててくれる?今薬持ってくるから。」


桐生は遥を部屋の奥へ連れて行き、麗奈が持ってきた薬を飲ませた。


麗奈「さてと、薬も飲ませたしあとは寝ていれば大丈夫よ。

きっと一時的なショックと疲労が原因ね。」


桐生は麗奈に事情を説明した。


麗奈「そう・・ショックだったろうね。そんな怖い思いして。」


遥が目を覚ます。


遥「おじさん・・ここは?」


麗奈「私のお店。よろしくね、遥ちゃん。」


桐生「俺の友達で麗奈だ。

遥、さっき由美お姉ちゃんって言ってたな。

孤児院に手紙を届けに来てくれたって。」


遥「うん。すごく優しいんだよ。由美お姉ちゃん。

毎月ヒマワリに来てくれてお母さんからの手紙とかお土産とか・・」


桐生「お前、ヒマワリにいたのか?

そして母親の姉は由美・・

お前のお母さん、名前は何て言うんだ?」


遥「みづき。知ってるの?お母さんのこと。

ねえ、お母さんどこ?どこなの?」


桐生「いや、俺も捜してるところだ。由美のことも。

遥、由美の居場所は?」


遥「ううん、分からない。

ねえ、おじさん。私も一緒にいい?」


桐生「さっきのところでお前の母親の店を聞こうとしてたんだ。

今は手掛かりが何もない。」


遥「私知ってるよ。アレスでしょ?

私だけじゃどうしてもお母さんに会えないから。

ねえおじさん、いいでしょ?」


桐生「他にどうしようもねえな。」


桐生は遥と一緒にミレニアムタワーの60階にあるというアレスへ向かった。


桐生「遥、お前何で孤児院に?」


遥「わかんないよ、そんなの。

どうしても迎えに来ることが出来ないって・・」

手紙で何回も訳を聞いたんだけどそれしか・・

ただ最後に由美お姉ちゃんが来た時、お母さんからってこれくれたの。」


遥は桐生にペンダントを見せてくれた。


遥「でもその時思った。

私、本当にもうお母さんと会えなくなるかもしれないって。」


アレスの中に入ると遥の母親みづきの姿はなく、近江連合の組員がやって来た。


林「あんた桐生さんでっか?元堂島組の。

お初にお目にかかります。

ワシ、五代目・近江連合本部の林言いまんねん。噂はよう聞いてまっせ。」


桐生「近江連合って事は錦山に頼まれたのか? 俺を狙ってるんだろ。」


その時、桐生の電話が鳴った。


林「電話鳴ってまっせ。

どうぞ気にせんと取っておくんなはれや。」


電話に出る桐生。


伊達「伊達だ。桐生、100億のホシが分かったぞ!

由美だ。お前が追ってる由美がホシだ。

現場に指輪が落ちてたらしい。

10年前、お前から預かったあの指輪だ。

とにかく東城会は彼女とその共犯の女を追ってるそうだ。

明日セレナで話したい。大丈夫か?」


桐生「ああ。」


電話を切る桐生。



桐生「そうか。お前らも由美と美月を。」


林「いや、ワシらが追っとんのはそこのお嬢さんですわ。

なんでかは言えまへん。

ワシも近江連合のもんですさかい。

桐生さん、大人しゅうその子渡したってえな。

ワレほどの男をこんな所で殺しとぉないんすわ。」


桐生「あんた、ずいぶん気が早えな。

俺はこんなとこで殺されるほどヤワじゃねえよ。」


林「さすがは桐生さんでんなあ。

ほな、しゃあないなあ。

おい、殺れや!ブチ殺したれや!」





―再び1996年―



錦山は妹が入院する病院の廊下で医師と話をしていた。


錦山「心臓移植?」


日吉「ええ。延命のための手術はもう限界です。妹さんを助けるにはもうそれしか。」


錦山「いくらかかるんです?

いや、いくらかかってもいい。

それで優子が助かんなら。」

やってくれ、日吉先生!」


医師の名前は日吉公信。

東都大学医学部附属病院の第一外科に所属している。


日吉「お金の件はわかりました。

ただそのためには適合するドナーが現れるのを待たなければなりません。

それに運良く見つかったとしても順番待ちがあります。

移植を受けられるまで一体何年待つことになるか。」


錦山「何年もって・・それじゃ妹には間に合わねえ。

何か手はねえのか、日吉先生!

本当に手はねえのかよ!

なんとかしてくれよ!何でもするからさ!」



日吉「本当に何でもする覚悟ですか?

では、臓器ブローカーの存在をご存知ですか?

私からそういう仕事をしている人間に連絡を取ることは出来ます。

ただその場合、手術費用とは別にまとまったお金が必要です。

3000万円ほど。用意できますか?」



錦山は事務所に帰り、ソファに座っていた松重に土下座して頼んだ。


錦山「松重、俺に金を稼がせてくれ。

3000万、どうしても必要なんだ。

やり方はお前に任せる。

だから頼む、力を貸してくれ!松重!」



松重「やり方は俺に任せる。

あんたそう言ったな?

初めっからそうやって頭下げりゃ良かったんだ、なあ?

ほんじゃ・・これからは仲良くやりましょうや、組 長 さ ん。」


錦山の頭を足で踏みつけながら松重は笑みを浮かべていた。

錦山の目には、悔し涙が浮かんでいた。



数日後、夜の神室町ー。



錦山「はぁはぁ・・・っ

おい待てコラァ!!」


松重「あぁ?

おやおや、誰かと思えば組長じゃねぇか」


錦山「テメエ、柏木さんが世話してる組がケツ持ってる店に、ミカジメ取りに行ったっての本当か?!」


松重「おう、バッチリ稼いできてやったぜ。文句ねえだろ?」


錦山「ふざけんな!なんでそんなことした?!」


松重「おいおい、そんなことも説明しねえと分からねえのかよ。

雨後の筍みてえに次から次へとビルが建ってた時代はとっくに終わってんだ。

これからは限られたシマを力で奪ってったモンが勝つんだよ。

柏木のカシラが文句言ってきたら組長、うまいこと言っといてくださいよ。」


錦山「テメェ・・・っ!」


松重「3000万・・どうしても用意してぇって言ったのはお前だろうが!

俺のやり方が気に食わねぇって言うならお前のやり方で今すぐにでも直系に上がってみろや!

何もできねえくせに偉そうな口きくんじゃねえぞ!」



錦山は柏木のところに一人で謝りに行く。



柏木「馬鹿野郎!」


錦山を殴る柏木。


錦山「ぐあっ・・・っ!」


柏木「テメェ、恩を仇で返す気か?

テメェの子分すらロクに躾けられねえのか!

あぁ?!」


土下座をして謝り続ける錦山。


錦山「すみません、すみません、すみません・・」


柏木「ったく、風間の親父の耳に入る前で良かったぜ。

こんな情けねえ話で親父を失望させたくねえからな。

今回だけは不問にしといてやる。次はねえからな。」


錦山「・・・っ!ありがとうございます…

ありがとうございますっ!」


柏木「桐生ならこんなことには・・」


錦山「・・っ!」


柏木「ま、とにかくしっかりやってくれ。」



肩を落として歩いている錦山のところに嶋野がやってきた。


嶋野「その様子じゃ柏木に泣くまで怒られたって感じやな。

聞いたで?

おどれの子分に手ぇ焼いとるようやのぉ、錦山。

せっかく風間の親っさんに色々と便宜を図ってもらったってのに。

やっぱりワシがおもてた通りや。

風間っちゅう男もえげつないことやりよるのう。

本気でお前を大事に育てる気ぃある親やったら、そんな連中選ぶはずないやろ。」


錦山「…」


嶋野「ま、嫌な思い散々させてお前が音ぇ上げるのを待っとるんやろうな。

これだけは覚えとけ。

風間はな、桐生に組を持たせたいだけや。

桐生のやったことは絶対許されへん。

せやけどな、皮肉なもんやが桐生の評判はすこぶるエエで。

まあ大物殺ったっちゅうのはそれなりの貫禄がつくもんや。

娑婆に出たときはもうお前には手の届かんところにおるやろうな。

親殺しの外道でも貫禄さえつきゃ、それなりに上になれるんがワシらの世界や。

ひょっとすると目障りなくらいデカい組こしらえるかも知れん。」


錦山「でも、柏木さんは桐生が出てきたら俺の組で面倒見てやれって・・」


嶋野「ドアホ!目ぇ覚ませ!

面倒見られんのはお前の方や。

まあでも、そん時は桐生もやりづらいやろうからのう。

お前の扱いには困るはずや。

人も殺せんガキが無理しても先はあらへん。

堅気にでもなれや。」


事務所に戻った錦山のところに松重がやってきた。


松重「失礼しますよ、組長さん。

ほら、今日の稼ぎだ。」


そう言うと松重は札束が入った紙袋を錦山の前に投げ捨てる。


錦山「ご苦労だった。」


松重「おいおい、もっと感謝してみせろよ。

今日の分だけでアンタの欲しがってた金額はクリアできてんだぜ?」


錦山「そうか・・恩にきる。」


松重「そうそう、初めからそう言えよ。」

ま、今日はでかい取立てが久々に出来たんだ。

組長さん、あんたラッキーだぜ。

ま、借金まみれでギャンブル狂いの医者にも感謝した方がいいな。

でもあの野郎も急に金ができたから返済するとかヌカしやがって。

一体何やらかしたんだろうな。」


錦山「なんだと・・・?」


松重「3000万だ。親の遺産でも入ったのかねえ。」



錦山は松重が持っていた名刺を見る。

その名刺には東都大学医学部附属病院第一外科の日吉公信の名前が書かれていた。



慌てて東都大学医学部附属病院に行くが、日吉の姿はなかった。

ナースステーションで看護婦に話を聞く。


看護婦「日吉先生でしたら、私達ナースも困ってるんです。

さっき急に院長に辞表を渡したとかで。

逃げるように出て行ったきり、連絡もつかなくて。あの、何かあったんですか?」



病院を出た錦山はガックリと項垂れ両膝をついた。


錦山「クソみてえなヤツにも頭下げて・・死ぬ気で金を用意したってのに・・

今までの時間は一体何だったんだ!

もう優子には時間がねえってのに・・」




ー現在ー



桐生が林達を撃退しアレスを出た翌日、セレナで伊達と会った。


伊達「由美の妹ってのがアレスの美月でおそらくは100億の共犯。そして遥はその娘だ。

行方不明だった由美はあの子だけは会っていた。」


セレナの電話が鳴る。


麗奈「ごめんなさい、桐生ちゃん。ちょっとお願い。」


桐生「セレナです。」


シンジ「あ、あの・・兄貴ですか?

シンジです。連絡取りたくて方々を回ってたんです。

実は今、風間の親っさんを連れて逃げてます。」


桐生「なんだと?」


シンジ「あの後病院で手当したんですが、意識はまだ・・

でも兄貴、あの状況から見て親っさんを撃ったのは東城会のもんです。

親っさんの居場所が知れたらまた狙われるかもしれません。

今は信頼できる筋に隠れ家頼んでるとこです。

落ち着いたらまた連絡します。

連絡先は、セレナで?」


桐生「いや、携帯を持っている。」



伊達「桐生、何かあてはあるのか?」


桐生「いまはねえ。」


伊達「仕方ねえ、例の情報屋の所に行くしかねえか。

サイの花屋。この街の事は何でも知ってるって噂の情報屋だ。

だがそいつがいるのは例の西公園の中だ。」


桐生「西公園に?」


伊達「通称、賽の河原(さいのかわら)。

ホームレスが住み着いた公園だ。

奴はその賽の河原の中にいるらしい。

だが気をつけろよ。あそこは警察も不介入の危険地帯だ。」



桐生は一人で賽の河原に向かった。

今は使われていない地下鉄駅の入口を下って行くと公園の地下とは思えない程の華やかな繁華街があった。

風俗店やキャバクラ、地下闘技場。

地下街ながらそこはまさに桃源郷であった。


地下街を抜けた一番奥に情報屋、サイの花屋がいた。


桐生「お前がサイの花屋か?」


サイの花屋「桐生一馬、出所早々派手にやってるみてえだな。

さて、何の情報が欲しい?」





〜第三章 完〜


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る