第二章 空白の十年



登場人物・配役表

桐生一馬:

錦山彰:

一輝:

ユウト

田中シンジ

組員

伊達真

嶋野太

風間新太郎

世良勝


松重



桐生一馬が収監されて10年後。

時は2005年12月5日

桐生の仮出所が決まった日、東城会緊急幹部会が開かれた。



重苦しい雰囲気の中、東城会直系嶋野組組長、嶋野太が口を開いた。


嶋野「で、三代目。今日は一体何の緊急幹部会で?」


東城会三代目会長、世良勝が答える。


世良「奴から緊急の議題があるそうだ。」


風間「てめえの裁量で幹部会とはどういう了見だ!錦山!」


錦山は東城会直系錦山組の組長になっていた。


錦山「直系組長の皆さんがいるこの場で三代目に伺います。

東都銀行の貸金庫にあった組の金、100億。盗まれたってのは本当ですか?」


世良「その情報、どこからだ。」


錦山「関西・・五代目・近江連合の寺田です。」


世良「・・・この件はしっかり裏を取って話すつもりだった。」


嶋野「ふざけんな!!

東城会二万五千、死に物狂いでかき集めた金や。

100億言うたらどんだけの血い流れてるか分かっとんのか、コラ!」


怒る嶋野には目もくれずに世良は立ち上がる。


世良「この件は東城会本部預かりにさせてもらう。今日はご苦労だった。」



その日の夜、桐生は刑務所の中で風間からの手紙を読んでいた。


風間『10年、お前のいない10年で東城会はすっかり変わった。

お前を迎えに行く事もできん。

錦山の事、由美の事、お前と会って話したい事が山程ある。

伝えなければならない事も。

神室町にスターダストという店がある。

その店のオーナーをしている一輝という男に会ってくれ。話は通しておく。』


次の日、桐生は仮出所した。

新宿神室町天下一通りにあるスターダストに向かう。

店の前でユウヤという店のホストが話しかけてきた。


ユウヤ「オイ!お前、何してんだ!

なあアンタ、どこの組のヤツだ?

さては嶋野組だろ?

俺らは誰の世話にもならねえんだよ!」


桐生「何の話だ?

俺はオーナーの一輝を捜してるだけだ。

どの組の人間でも無い。」



一輝「堂島の桐生さんですか?」


桐生「ああ。」


一輝「失礼しました。

風間さんから伺ってます、どうぞ中へ。」



桐生「お前、風間の親っさんとはどんな関係なんだ?」


一輝「風間さんにはこの店開いた時から世話になってます。

みかじめも取らず、商売のイロハも分からない俺に色々教えてくれたんです。

今この店があるのもあの人のおかげです。

そんな風間さんが先日店にいらっしゃったんです。

大事な人を迎えたいからこの店を使わせて欲しいって、何か組の方には秘密ということで。

先程連絡したんですが、例の会長の件で身動きが取れないと。」


桐生「会長の件?何かあったのか?」


一輝「東城会三代目、世良会長が・・殺されたんです。

昨日の深夜のことです。

犯人はまだ分からないんですが、ニュースでもさっき・・

堂島組長が亡くなって10年、今じゃ同じ東城会の組同士が水面下で街の利権を食い合いしてるんです。

堂島組を引き継いだ直後の風間組は一時期大きな力を持ちました。

他の組も手出しが出来ないでいたんですが、数年前、内部から裏切って風間組を割った人がいたんです。それは・・・」


その時、東城会直系嶋野組の組員がみかじめ料を払えと店の中で騒ぎ始めた。

反抗したユウヤは殴られ、一輝は静止する為に金を差し出そうとしたが、桐生が割って入る。


桐生「一輝、ユウヤ、こんな奴等に金を渡す必要はねえよ。」


組員の一人が桐生に銃を構える。


組員「思い出した。アンタ、堂島の組長殺してムショ行った・・

こりゃあ嶋野の親父に最高の土産が出来たわ!」


シンジ「何やってんだ?こんなところで。

嶋野組の縄張りじゃねえだろ。消えろ、次は無えぞ。」


組員「た、田中の伯父貴!

す、すいませんでした!」


田中シンジを前に、嶋野組の組員達は一目散に逃げて行った


シンジが桐生と久しぶりの再会を果たす。


シンジ「本当にお久しぶりです!」


桐生「ああ、出世したようだな。シンジ。」


シンジ「出世っていうか・・」


一輝「桐生さん、さっきの続きなんですが。風間組を裏切って内部を割った人、錦山さんなんです。」


桐生「錦だと?」


一輝「関西の五代目・近江連合の本部長、寺田をバックに錦山さんはずっと独立の算段してたんです。」


シンジ「兄貴、俺は今錦山組の舎弟頭なんです。

兄貴・・錦の叔父貴はもう昔のあの人じゃ無くなっちまったんです。

だから風間の親っさんは心配して組の様子を見張るために俺を錦山組に送ったんです。」


桐生「シンジ、親っさんは俺に話があると言っていた。直ぐにでも会えないか?」


シンジ「明日は本部で三代目の葬式が・・

親っさんもその場を離れることは出来ません。それに100億の件もあって。

東城会の金庫から100億抜かれていたそうなんです。

緊急幹部会でその話が出た直後に三代目が殺されました。」


桐生「親っさん、明日は葬儀場にいるんだな。」


翌日、桐生は風間に会うために葬儀場に向かった。



時は遡り、1996年。風間組事務所―。



錦山「本当ですか!柏木さん!」


柏木「何驚いてんだ。

お前のここ最近の働きからしたら別におかしな話じゃないだろう。」


錦山「でもまさか俺が自分の組を持てるなんて・・」


柏木「とはいえ、いきなり組持って言っても手駒がいねえだろ。

ウチから腕利きのヤツを何人か出すから、そいつら上手く使ってシノギについて勉強しろ。」


錦山「柏木さん、ありがとうございます。」


柏木「礼なら風間の親父に言え。

これは元々親父が言い出したことなんだからな。親父もそれだけお前には期待してるってことだ。

それに、桐生のこともある。

あんなことになっちまったとはいえ、いつか桐生が娑婆に出てくる日が来る。

体裁上破門ということになっちゃいるが絶縁じゃねえ、復帰の目もあるだろう。

だが、親殺しのあいつを風間組で引き取る訳にはいかん。

だから、お前が桐生の受け皿になってやれ。

戻ってきたあいつの面倒を見れるのはお前しかいない。

お前が錦山組をでかくしてあいつを迎えてやれ。」


錦山「はい!俺、桐生の為にも頑張ります!」



2005年。桐生が仮出所した日の翌日、シンジと一緒に葬儀場にやって来た。


シンジ「いいですか、兄貴。

これが東城会本部の見取り図です。

本部施設の中に風間の親っさんがいます。

建物の裏口は比較的手薄です。

下手に塀を越えたりすればかえって怪しまれますから、正面から弔問客に紛れ込んでいきましょう。

正門から入ったら突き当りまでまっすぐ。

そこを右に入った先が裏口です。

俺はそこで兄貴を待ちます。」



桐生が裏口に向かっている途中、近江連合の組員が近づいてきた。

組員「ちょっと顔貸してもらおうかい。

正面から堂々とはのお。堂島の桐生はん。」


桐生「なぜ近江連合が俺を?」


組員「頼まれたんや。アンタの元・兄弟に。

錦山の組長さんから写真の男を捕まえろってな。」


桐生は襲いかかってくる組員を倒し、裏口にいるシンジと合流した。


桐生「シンジ、実は今ここに来る前に襲われた。近江連合の奴にだ。

どうも錦が指示してるらしい。

お前も用心しろ。分かったな。」


葬儀場2階の奥にある部屋で風間と再会する。

風間「一馬!

10年だ。俺はお前に何もしてやれなかった。」


桐生「全部俺がやったことです。親っさんは何も。」


風間「変わらねえな、お前だけは。」


桐生「親っさん、何があったんですか?

東城会は?それに錦は?」


風間「あいつはあの10年前の事件からすっかり変わっちまったんだ。

妹にお前、由美をなくしたあいつはこの世界でのし上がる為に手段を選ばなかった。

俺はあいつが鬼になるのを止めてやれなかったんだ。」


桐生「錦・・・」


風間「もう一つお前に伝えなきゃならん事がある。由美のことだ。

由美は・・」


その時、風間は狙撃され、その銃弾は右胸を貫いた。


桐生「親っさん!」


騒動を聞きつけた嶋野組組長、嶋野と組員数人が部屋の中に入ってくる。


嶋野「お前!桐生!

何やお前、堂島の兄ぃの次は風間か?

何考えとんじゃあ!

おとなしゅう往生せいや、桐生。」


風間「一馬・・逃げろ・・。

一馬・・由美を・・100億を・・頼む。・・行け!」


桐生「・・っ!」


桐生は部屋の窓から飛び降り、葬儀会場から脱出した。



―1996年 錦山組定例会―



錦山「松重!てめえ、もう一回言ってみろ!」


松重「こんな定例会、意味ないって言ったんですよ。

お前と話すくらいなら場末のキャバクラでブサイクな女とダベってる方がよっぽど有意義なんだよ。

組長さんよ、ここらで一つはっきりさせときたいんだがな。

俺らは風間の親父に言われたから仕方なくテメェに付いてるだけなんだよ。

風間の親父から俺のシノギがどんだけ太い稼ぎか聞かされてねえわけじゃねえだろ?

そいつが俺の格ってやつだ。

ならそれなりに扱われねえとなあ。

あの桐生ならまだしも、お前見てえな幹部に尻尾振るしか能のねえ青二才に指図されるなんて真っ平御免だ。

こっちは勝手にやらせてもらうぜ。

黙って見てな、シノギのお手本ってヤツ、見せてやるからよ!」


松重を先頭に組員達は部屋を出ていった。

残された錦山は1人憤怒と『桐生』に対する劣等感を抱いていた。



葬儀場を出た桐生のところに警視庁捜査一課の伊達が車で駆けつけて来た。


伊達「乗れ!桐生!」


桐生が車に乗り込むと、伊達は勢いよく車を走らせた。


伊達「出所二日目にしちゃあ派手にやってんな。」


桐生「あんたは・・伊達さん!」


桐生と伊達は神室町天下一通りにあるバッカスという店に入った。


桐生「風間の親っさんが無事かどうかも今は・・」


伊達「だが風間の言ってた、その100億と由美・・。

奴は何をお前に伝えようとしていた?」


桐生「分からない・・。

伊達さん、なんで俺を助けるような真似を・・」


伊達は自分の名刺を桐生に見せた。

名刺には「警視庁組織犯罪対策部 組織犯罪対策第四課 警部補 伊達真」と書いてある。


桐生「四課?あんたマル暴に?」


伊達「10年前の堂島殺し、俺は上の意向無視して突っ走ってよ。

結果、一課下ろされて今はつまらねえヤクザの相手してる。

お前と同じ。今じゃ組織の鼻つまみだ。

女房と娘も愛想尽かして出て行っちまった。

お前に関わったおかげで人生が狂ったんだ。

桐生、俺は今三代目の世良の殺しを追っている、手ぇ貸せ。」


桐生「あんたには助けてもらった借りがある。だが今の俺には・・」


伊達「東城会の100億が消え、三代目会長が殺された。

そしてさっきの騒ぎの中心はお前。

事件は動き出したんだ。

桐生一馬の出所を待っていたようにな。」


伊達は桐生に携帯電話を渡した。


伊達「持ってろ。今じゃガキでも持ってるんだぜ。

俺は100億を探ってみる。

お前はその由美って女か。

その2つのヤマは必ずどこかで繋がってる。

お互いに協力した方がいいんじゃねえか?」


桐生「そうだな。分かった。」


伊達「お前、何か手掛かりはあるのか?」


桐生「いや、とりあえず昔の馴染に会ってみる。

『セレナ』って店だ。」




〜第二章 完〜

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