龍が如く-劇-

前髪天使

第一章 親殺しの宿命






登場人物・配役表


桐生一馬:

錦山彰:

真島吾郎:

由美:

麗奈:

シンジ:

風間新太郎:

伊達真・街金の社長:

柏木・先輩刑事:

語り:





1995年10月1日 午後5時47分。


東城会直系堂島組舎弟頭補佐を務めている桐生一馬は堂島組の事務所にいた。

桐生は右手に拳銃を持っており、床には堂島組組長、堂島宗兵が胸から血を流して倒れている。

床に落ちている赤い宝石がついた指輪を拾い上げる桐生。

指輪には「YUMI」という名前が刻まれていた。

由美は桐生と共にヒマワリという養護施設で育った親友で妹的存在。

そこに2名の警官が入ってきて桐生は逮捕され、連行された。


その前日、9月30日深夜。



桐生の舎弟で東城会直系堂島組若衆の田中シンジとともに取立てに向かう桐生。


シンジ「すいません、桐生の兄貴。こんな取立てに出張ってもらうなんて・・」


桐生「気にするなって言ったろ、シンジ。

どこの奴等なんだ、その取立ての相手は。」


シンジ「すぐ近くの街金です。

もともとは他の組から金借りてたんです。

ところが金利すらまともに払わねえ。

で、手に負えなくなっちまってウチに債権回収の依頼が。」


桐生「そうなのか。で、幾ら回収するんだ?」


シンジ「2億です。

取り半って約束になってますから、ウチには1億入って来ます。」



桐生「そりゃ気合入るな。よし、行くか。」


桐生は車を降りて取立てに向かった。

街金「ピースファイナンス」の中に入る。


桐生「夜遅くに悪いな。堂島組の桐生だ。

用件は昨日ウチの若いのが伝えたはずだ。」


街金の社長「いやあ、まさか桐生さんが直々に・・

明日…っ、明日まで待ってください!」


桐生「夜逃げの準備しながら言われても説得力がねえなあ。

それに出来ねえ約束はするもんじゃねえ。」


街金の社長「殺すんですか?

堂島組っていや、回収や殺しばかりやってるところじゃないですか。

金払わねえ奴は見せしめにされる。

皆そう言いますよ!

もう・・勘弁して下さい!」


奥の部屋から現金を回収して出てくるシンジ。


シンジ「兄貴!回収しました。」


桐生「約束の額だ。悪く思うな。」



シンジ「兄貴、ありがとうございました。

でも、これでついに桐生組の立ち上げですね!

風間の親っさんも言ってました。

兄貴になら安心して組任せられるって。」


桐生「まだ決まったわけじゃない。あんまりはしゃぐなよ。」



シンジ「あ、はい・・・。

・・そう言えばこの後、セレナで錦の叔父貴と会うんですよね?

今日は裏口からしか入れないみたいですよ。

俺、しばらくサツの連中が来ないようにここで見張っておきます。

半分の1億円は後で依頼先に俺が届けておきます。安心してください。」


桐生「ああ。頼んだぞ。」


桐生は錦山と会うために高級クラブ「セレナ」に向かった。

錦山彰は東城会直系堂島組の若衆で桐生、由美と共に養護施設ヒマワリで育った親友だ。


セレナに向かう途中、東城会直系嶋野組内真島組組長の真島吾朗と出会った。



真島「堂島の龍、桐生一馬チャンやないか!」


桐生「お久しぶりです、真島の兄さん。」


真島「よせよせ・・お前、組み立ち上げるって話やないかい。

そや、ソコの店やったなあ。

お前の馴染がいるっちゅうのは。

エライええ女らしいのお。皆言うとるでえ。

一度あんな女コマしてみたいってなあ。」


桐生「…」


真島「そんな事より桐生チャン!

久々に会うたんや、俺と喧嘩しようや!」


桐生「いえ。兄さんと喧嘩する理由がありませんので。」


真島「チッ、相変わらずつれないのう。ま、ええわ。

‪お前も子分持ったら厳しくシツケせなあかんで。おまえら、行くでえ。」


桐生「はい、覚えておきます。

でも・・俺は俺のやり方でやらせてもらいます。」


真島「ほう・・どんなやり方でやるっちゅうんや?」


桐生「俺は、ちゃんと筋が通ったやり方を貫きます。」


言い返すような桐生の言葉に真島の顔付きが変わった。その瞬間、真島が桐生を殴りつける。


真島「これで俺と喧嘩する理由はできたなあ。

おら!根性あんのやったら殴り返してこんか!」


一方的に殴られる桐生。


桐生「これで・・気は済みましたか?」


短刀を桐生の顔の前に突き立てる真島。


真島「ああん?その強がり・・どこまで続くかのう。」


睨み合いが続くが、全く動じない桐生。


真島「・・・アホくさ。

筋通すなんぞ言うて無理しとるだけやないか。やせ我慢っちゅうやつや。

世の中筋の通らんことばっかりや。

そんな意地張っとったら身体がもたんで。」


桐生「どう取ってもらっても構いません。

ですが、俺は自分の考えを変えるつもりはありません。」


真島「何があってもか?」


桐生「ええ。」


真島「………わかったわ。

ほなお前のその覚悟、見届けさせてもらうで!

四六時中ずーっとな!

でももし筋が通っとったら、俺との喧嘩、買うてくれるか?」


桐生「その時になってみないと・・」


真島「よっしゃ!

ほな、どないしてお前をマジにしたるか早速作戦会議せな。

ほなまたな、桐生チャン!楽しみにしとってや!

あー、ワクワクするでえ!!」



神室町天下一通り、小道を入った裏路地にセレナは店を構えていた。

裏口からセレナに入る桐生。


桐生「相変わらず静かだなあ。」


カウンターには錦山が座っている。

桐生は錦山の隣に座った。

カウンターに立つ女性が口を開く。


麗奈「あなた達がいちゃ恐くて飲めないでしょ、普通のお客さん。だから今日は貸切。」


麗奈は由美が勤務して桐生や錦山が入り浸るセレナのママで、3人の良き理解者。

心優しい性格で、それぞれをまるで身内のように見守っている。


桐生「麗奈、由美は?」


麗奈「今買い出しに行ってるの。

どうせまた腹減ったとか言い出すんでしょ?」


錦山「違いねえ。で、どうなんだ?桐生組の立ち上げは。」


桐生「まだ決まったわけじゃない。

組長が決めることだ。」


錦山「組長も嫌とは言えねえよ。

風間の親父がもうその気なんだ。

堂島組はあの人で持ってるようなもんだからな。

昔の自慢と面子の話しかできやしねえ。

またお前に先越されちまったか・・」


桐生「なあ、錦。お前、妹はどうなんだ?」


錦山「来月、もう一度手術だ。

多分次で最後になる。

体がもたないそうだ。これで駄目ならもう・・」


桐生「そうか・・」

その時由美が買い出しから帰ってきた。


由美「あ、来てたのね!」


錦山「由美!」


由美「ちょっと、もう酔ってるの?私も入れなさい!」


桐生「どうぞご遠慮なく。」


由美の右手薬指には赤い宝石がついた指輪がはめられている。

この指輪は桐生が由美にプレゼントしたものだ。


遡る事、数ヶ月前。クラブ「セレナ」



錦山「例のシノギ、うまくいきそうか?」


桐生「ああ、裏カジノか。

イカサマやってカタギから金をむしるのはどうも性に合わねえつーか・・」


錦山「何言ってんだ。自分の組もてるかどうかの正念場だぞ?

ここでドーンと稼げば問題なしだ。

堂島組内桐生組。天下の東城会の三次団体だ。迷ってんじゃねえよ。」


桐生「俺は一応舎弟頭補佐だぞ?

今でも十分立派なもんだろうが。」


錦山「相変わらずだな、お前は。

舎弟頭補佐だなんて名ばかり。邪険にされることもねえが、かといって出世の本筋でもねえ、微妙な立ち位置だ。

そんなお前が風間の親っさんの後押しでようやく掴んだチャンスなんだ。

死に物狂いでものにしなかったら意味ねえぞ。

このままいったら一生飼い殺しだ。

極道であるからにはやっぱり自分の組を持ってこそだろ。違うか?」


桐生「そうだな・・」


麗奈「ねえねえ、さっきお客さんと偶然誕生日の話題になったんだけど、今度由美ちゃんの誕生日でしょ?

二人はちゃんと準備してあるの?プレゼント。」


桐生「ああ、そういえばもうそんな時期か。」


錦山「馬鹿、お前忘れてたのかよ。」


麗奈「そういう錦山君はもう何か用意してるの?」


錦山「もちろん。

由美に似合いそうなピンクダイヤのネックレス。」


麗奈「まあ、なんだか高そうね。」


錦山「まあな。何ヶ月も前から予約していてやっと手に入ったんだ。

実は今日渡そうと思ってちゃんと準備してあるよ。」


麗奈「あら、そうだったの?

それじゃパーティーしましょうよ。」


錦山「お、それならいいケーキ屋知ってるから俺買ってくるよ。」


麗奈「桐生ちゃんはどうするの?」

まだ間に合うから今すぐ用意したら?

んー、指輪なんてどう?

フランスの有名なブランドの指輪があるの。

新作が出たばっかりなんだけど、女の子にすっごく人気なのよ。

この前、由美ちゃんと一緒に雑誌見てたら彼女も欲しいって言ってたわ。

ねえ、それにしてみたら?」



桐生は「YUMI」と刻印してもらった指輪を買ってセレナに戻ってきた。

錦山もケーキを買って戻ってくる。



ケーキに立てられてロウソクの火を吹き消す由美。


麗奈「由美ちゃん、お誕生日おめでとう!」


錦山「おめでとう、由美!」


由美「みんな、ありがとう!」


錦山「ほら、由美。プレゼントだ。」


錦山は由美にピンクダイヤのネックレスを渡した。


由美「うわ、すごーい!

えー、いいの?これ。本当にもらっちゃって。」


桐生「実はその・・俺からもプレゼントがあるんだが・・」


桐生は赤い宝石がついた指輪を渡した。


由美「この指輪・・一馬が私に?

あ、私の名前が彫ってある!」


由美は右手の薬指に指輪をはめた。


由美「ありがとう。大事にするね。」



―再び、9月30日深夜から数時間後の10月1日午後4時―



桐生は一度、天下一通りの「風堂会館」に事務所がある風間組に向かった。

事務所に入ると東城会直系堂島組若頭で堂島組内風間組組長、風間 新太郎がいた。


風間「おう、来たか。ご苦労さん。」


桐生はピースファイナンスから取立てた2億円のうちの半分の1億円が入ったアタッシュケースを風間に渡した。


桐生「今月分のシノギです。お納めください。」


風間の隣には東城会直系堂島組内風間組若頭、柏木 修がいた。


柏木「おう。」


風間「また無茶したんじゃないだろうな。」


桐生「いえ。」


風間「一馬・・お前が無茶すりゃ下の連中は歯止めが効かなくなる。

元々暴れたいって奴等の集まりなんだからな。」


柏木「桐生なら大丈夫ですよ。分別のある男です。

それになあ、親父だって昔は東城会イチの殺し屋っつって・・」


風間「柏木!」


柏木「すんません・・」


風間「柏木、すまんが外してくれ。」




風間「しかし文字通りの子供だったお前らに組を任せる日が来るとはな。」


桐生「親っさんがいなけりゃ今の俺はありません。感謝しています。」


風間「おい、そう硬くなるな。

ヒマワリには顔だしてるのか?」


桐生「いえ。最近は錦も由美も行ってないみたいです。」


風間「たまには行ってやれ。

あそこの孤児院はお前達の故郷みたいなもんだ。」


その時、桐生の電話が鳴った。


桐生「俺だ。」


シンジ「シンジです!麗奈さんから兄貴に伝えてくれって!

今さっき、堂島組長が由美さんさらって行ったんです!」


桐生「由美が?なんで組長に。」


シンジ「詳しくは分かりません。

でも、錦の叔父貴もそれ聞いて組長の所に。

場所は劇場の横のビルの組長の事務所です!」


桐生「分かった。直ぐに行く!」



風間「どうした?」


桐生「堂島組長が、由美を強引に連れ去ったらしいんです。

それで錦が一人で由美を助けに。」


風間「まずいな。

組長は気に入った女はどんな手使っても手に入れる人だ。

そこに錦山が入っていったら何が起こってもおかしくねえ。

ここでお前まで行ったら三人ともただじゃ済まねえぞ。

ここは耐えるんだ。

せめて俺が手を回すまでお前は待て。」



桐生「親っさん。由美と錦は兄弟なんです。俺の。だから今俺が行かねえと!」


桐生は風間の静止を押し切って堂島組の事務所に向かった。


事務所の中に入るが全く人気がない。

組長室に行くと錦山が膝をついた状態で堂島組長に銃を向けていた。

堂島組長は胸から血を流し、仰向けで倒れている。

由美は錦山の隣でうずくまっていた。


桐生「錦・・堂島組長・・」


由美は無事のようだが、かなり混乱している様子だった。


錦山「桐生・・組長が・・由美を無理矢理・・

このだから撃っちまったんだ。

ついカッとなっちまって・・何発も・・何発も・・

殺っちまった・・東城会の大幹部を。」


桐生「錦、由美を連れて逃げろ。」


錦山「何言ってんだ!

お前こそ由美連れて逃げろ!」


桐生「お前がいなくなったら妹はどうなるんだ?

次の手術が最後なんだろ?

そんな時お前がいねえで誰がいてやるんだ。

だからお前はここにいちゃいけねえんだ。

行け、錦。由美を頼む。……行け!」


錦山「っ!・・桐生!」


錦山は由美を抱えてその場を去っていった。


床に落ちている赤い宝石がついた指輪を拾い上げる桐生。

この指輪は桐生が由美に贈ったものだ。

右手に拳銃を持っている所に2名の警官が入ってきて桐生は逮捕された。



取り調べ室で刑事の取り調べを受ける。

取り調べを担当しているのは警視庁捜査一課の伊達真という刑事だった。


伊達「ふざけるな!!」


桐生「俺がやった。金の事で組長ともめて。」


伊達「いい加減にしろ!」


先輩刑事「伊達君、もういい。」


伊達「よかあないですよ!

奴はこれから組持とうって男なんですよ!

こんな殺しやるわけねえ。誰かを庇ってるんです!」


先輩刑事「これはヤクザの抗争だ。誰がやったかは問題じゃない。

迅速な事件の解決。それが今求められる全てだ。」


桐生「刑事さん。

俺の持ち物の中に指輪があります。

そいつを若頭の風間に渡してくれませんか。

申し訳ありませんでしたって伝えて下さい。」


伊達「虫がよすぎねえか、そりゃ。

約束はしねえぞ。」


伊達は取り調べ室を出ていった。


刑務所に入って何日かした頃、桐生にシンジが破門状を持って面会に来た。


桐生「俺は破門でいいのか?シンジ。

自分の親、殺したんだぞ。

絶縁なんじゃねえのか?」


シンジ「東城会三代目、世良会長が破門にすると決めたそうです。

どういうことか自分にも分かりません。

ただ風間の親っさんがこの破門状を兄貴に渡すようにと。

堂島組は風間の親っさんが引き継ぐそうです。」


桐生「…」


シンジ「兄貴、由美さんが行方不明なんです。

事件の次の日から・・・

由美さん、記憶をなくしてたんです。

錦の叔父貴や兄貴のことも・・

で、急に病院から姿を。

…すいません。風間の親っさんには口止めされてたんですけど。

錦の叔父貴や風間の親っさんが捜しているんですが・・」


桐生「・・・シンジ、由美を頼むぞ。

錦にもそう伝えてくれ。」


シンジ「はい、分かりました。」





〜第一章 完〜

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