いきなり!1つ屋根の下!

第11話

 私はがばっと、自分のベッドから飛び起きた。



 …夢だよね。当然!!!



 ……ホンっとに壮大だったけど、


 ……なんて、アホな夢!!!




 燈子さん、何故かいつもの、バスローブ…。


 大賢者、どうしていつもの、黒扇子…。



 私は川柳の様なリズムを頭の中で刻みながら、洋服に着替えてリビングへと降りた。



「おはよう」


 台所からカウンター越しに声がかかる。


「おはようございます。高野さん」


 朝食を済ませた高野さんが一人で、自分が使った食器の後片付けをしていた。


 テーブルの上には、当番の胡桃が作ってくれたベーコンエッグとピザトースト、野菜スープが一人分、ラップをした状態で置かれている。今朝は私が一番最後の様だ。


「有沢さん、今日は店のシフト入っていないんだ?俺より起きるの遅いなんて珍しい」


 高野さんを見ると、昨日の夜見た夢を思い出してしまった。


「昨日はなかなか眠つけなくて、寝坊しました…」


 高野さんのローブ姿、すごく似合っていたな。…バカバカし過ぎて恥ずかしいから、とても夢の内容を打ち明ける気にならないけど。


「今日は私、バイトお休みなんです。高野さんはこれから出勤ですか?」


 高野さんは洗い物が終わり、まくっていた白いシャツの袖を下ろした。

「うん。店のディスプレイがまだ中途半端だから、中番だけどちょっと早めに出る。勤務中だとあんまり時間取れないからね」


 仕事熱心!本当に高野さんは、お店の事を大切に考えているんだ。


「私、明日は学校が終わってから出勤なので、ディスプレイ手伝いますね!」


「うん、ありがと」

 高野さんは黒いウールコートを羽織った。


「あ、そうだ。新しい住人に会ったら、早速情報をメールで教えてくれない?オジサン、超・人見知りだから、心の準備しておかないと…」


 私は頷き、思わず吹き出して笑ってしまった。


 いつも気さくに声をかけてくれる高野さんは、人見知りと対極の性格に思えていたから。


「高野さんがそんな冗談言ったら、クールに怒られますよ?」

 彼こそ筋金入りの人見知りだから。


 高野さんは苦笑し、

「ひどいな、本当なのに…。じゃ、行ってきます。また夜にね!」

と言いながら、『未来志向』へ行ってしまった。



 朝食と後片付けを済ませ、洗面所で洗顔と歯磨きをしながら今日の予定を考えた。

 

 胡桃は今日、演劇部のミーティングと練習があり、朝早くから外出している。


 天気もいいし、一人で買い物にでも行こうかな。


 私はちょっとうきうきしながら身支度を済ませ、まだ早い時間帯だったので、のんびりリビングでテレビを見ていた。


 すると、バタバタと足音が聞こえてきた。


「忘れてた!!」

 突然『燈子さん用のドア』が開き、外出の支度を整えた燈子さんが現れた。


「あ、燈子さん、おはようございます」


 私は、夢に出て来たバスローブ大賢者姿の彼女を思い出してしまった。勝手に妙な格好させてしまった事を、何だか申し訳なく感じてしまう。



 燈子さんは、キョロキョロあたりを見回した。



「…おはよ。…アンタ一人?」


「あ、はい。みんなもう出かけちゃって…」


「……」


 いつもは落ち着いている燈子さんが、今はとても焦っている様子だ。


「どうかしたんですか?」


 私が聞くと彼女はソワソワし、ウロウロと歩き回った。


「…今日予定が入っていたことをすっかり忘れてて…困ってる」


 ……??


「…じゃあ、もうアンタでいいわ」

 彼女はビシッと私を指差した。


「…はい?!」


 何だか、とても引っかかる言い方をされた様な…。


「悪いんだけど私、これからすぐに出かけなくちゃならないの」


「…そうなんですか?」


「でも朝10時になったら、新しい入居者がここに来るから」


「…え」


「悪いんだけど、アンタが家の中や近辺を案内してあげて!」


「…えええっ?!!」


 私はソファーから立ち上がり、口をぽかんと開けながら、間抜けな声を出してしまった。


 いきなり私一人で、初対面の人に家の中や外を案内をしろと?!!


 人見知りってほどじゃ無い私にだって色々と、心の準備が…!!!


「何か用事でもあった?」


「いえ、特には…でも、とうこさ…」

「じゃヨロシク。7時には帰宅するわ」


「…あ、あの…」


 彼女はあっという間に、バタバタと外出してしまった。



「…燈子さ~ん…」

 


 もう、はっきり言ってこれは夢の中で燈子さんを、バスローブ大賢者にしてしまった報いだ…。



 時計を見ると、9時を回っていた。



 どうしよう!1時間もしない内に、新しい入居者が来ちゃう…!




 私は緊張のあまり、先ほどの燈子さんと同じ様に、ソワソワウロウロとリビングの中を歩き回ってしまった。


 するとリビングの隅に、燈子さん御用達アンティーク家具屋の白と黒のサークルボックスと、長方形の大きな箱が置かれているのを発見した。


 箱のラベルを見ると、『クリスマスツリー』と書かれている。


 そういえば1週間前くらいから、時間がある時に飾り付けをしてくれと、燈子さんに頼まれていたのを、すっかり忘れていた。


 ウロウロしていても仕方が無いし、飾りつけでもしていようかな。


 私は箱を開けて、大きなツリーを取り出した。2.5メートルくらいはあるそれを一人で何とか組み立て終え、大きすぎるくらいのツリーを見上げた。


 このリビングの広さには、ちょうどいい大きさなのかも知れない。


 去年の冬、この堂々としたクリスマスツリーを見た瞬間、すごくワクワクした事を懐かしく思い出す。格調高い色合いのシルバー、ブルーグリーン、白っぽいゴールドを基調とした、物語の中に出て来る様なツリーなのだ。


 バランスに気を付けながら、私は少しずつツリーの飾り付けを始めた。白の箱には金や銀の飾りが、黒の箱にはクリアライトやコンセントなどが入っている。


 飾り付けに夢中になっていると、突然玄関の呼び鈴が鳴り響いた。


 時計を見ると、まだ9時50分である。

 宅配業者の人かな。


 私はインターホンを除き、叫び声を上げそうになった。




 司君が、インターホンの画面に映っている。





……!!!!!







 …どうして?!




 もう一度、インターホンを覗く。





 …やっぱり司君が映ってる!!







 私は慌てて、インターホンのスイッチを押した。







「…はい!」






「10時に約束していた、白井です」







 …10時に、約束…?






 …ということは。







 …司君が、新しい入居者…って事?!!







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