第6話
夢から覚めたのか意識を戻す。
何かにもたれかかっており何かに乗っているのか揺れを感じる…これは馬車だろうか。
目を見開くと馬車の窓から夕日が山に隠れていくのが分かる。
ーー夕暮れか…あれ、どれくらい眠っていたのだろうか
そう視線を動かしていくとお嬢様が目の前に座って頬に手をついて観察するようにこちらを見ていた。
寝起きというものもあり少しボーとしてたがすぐに我に返り姿勢を正す。
「ふふ、ようやく起きたのね」
「申し訳ありません。眠ってしまいました」
「いいのよ、どうせあの後の予定は無かったですもの。貴方が眠っている間は皆と会話しながらお茶を楽しまさせて頂いたわ」
とりあえずお嬢様の機嫌は平常だ。どれくらい眠っていたか確認すべく時計を見る。時計の針は十八時半をすぎていた。お嬢様とボール遊びを始めたのが確か十六時二十分くらいそして眠り始めたのが半当たりとすると二時間以上寝ていたことになる。従者が主人そっちのけで疲れたからと言って二時間もほっといたのは色んな意味でやばい。今は許してるかも知れないがそのうちこれを種になにかされるかもしれない…そうなると今のうちにこの種を消費して置かなくては。
「ですが、従者たるものがお嬢様を放置して眠るのはどうかと…何か変わりと言ってはなんですが、お嬢様私めに何かお望みのことはありますか?」
正直何をお願いされるか怖いのだが後になにかされるよりマシだろうそう恐る恐る訪ねるとお嬢様は珍しくきょとーんとした顔をして固まる。正直初めて見るそのお嬢様に何かモヤッとした感じと何か既視感を感じた気がした…なんだろうかこれは…。
そうティトがその何かを考えているとお嬢様が我に返り口元を抑え笑い始める。
「意外だわ、自分から非をわざわざ上げてそして罰を望むなんて…あなたがそっちの方向に目覚めていたなんて知らなかったわ」
「い、いえ、そういう訳では…」
言葉を濁してはいるがこれはマゾという意味で言っているのだろう。ここでちゃんと否定しておかなくてはこれからのお嬢様のわがままが酷くなりそうだ。
「ふふふ、冗談よ。どうせ後から外で変なことをお願いする時これを種に脅されたくないのでしょう。私ってそんな小さな女に見られていたのかしら」
小さくはなくても面白そうなことなら楽しそうに脅すような人でしょう貴方様は…。
「でも、少し従者にしては考えてることが生意気だわ…だから屋敷内それか私と二人きりの時に二回…いや三回ね。何でも言うことを聞きなさい」
「さ、三回ですか。二回ではなく…」
「あら、反論あるのかしら」
「え〜と…」
物申そうとするティトに笑顔ながらもそれは怖い笑顔であり彼女の圧はなかなかに大きくティトを黙らせようとする。だが、いつもこうして引いていけばお嬢様にずっと逆らえなくなる。ここは勇気をだしてでも反論せねば。
「その、私のわがままで外でなく屋敷またはお嬢様と二人きりで聞くことを了承して頂いた身ですから。二回なら分かるのですが…その三回はちょっと…」
「あらあら、貴方これのこと忘れてないかしら」
アルネアが胸元から四角い紙を出す。ティトがアルネアの着替えを覗いてしまったあの写真だ。
先の夢のせいで完全に忘れていた。私はアルネア様との賭けに負けたのだった。
となるとあの写真はどうするのだろうか。やっぱり両親に告げ口をするのだろうか…。そうどきどきしてると。
「大丈夫よ。お父様、お母様には告げ口なんてしないわ。だからその代わりの三回目の願いよ」
「わ、分かりました。三回だけ何でもお嬢様の仰せのままに」
「では、早速家に帰ってからお願い聞いてもらいましょうかしら」
「もうですか!?」
「ええ早速一つ目使うことにするわ」
「一体何を…」
「それは帰ってからのお楽しみよ」
全く楽しみに出来ませんが…。
そう何をお願いされるか前準備はできる分マシと考えても良いのかと私と今何かをお嬢様が思いついているなら帰るまでの時間を使ってその一つの願いをどんどん濃いものに作り替えるのではないかという不安が募り心配で少し胃が痛くなりそうである。
珍しく上機嫌に鼻歌を歌うお嬢様と胃を抑え視線を窓の外へ向けるティト達は馬車に揺られ街道を進んでいき。五分もせず御屋敷にたどり着く。馬車が止まりティトは扉を開け先におりアルネアの手を取り降りる手伝いをする。
「カルア、ありかどうね。こんな時間に馬車出してもらって」
「いえいえ、今日は少し馬たちの相手が出来なかったのでちょうど良かったです」
「そう、なら良かったわ。じゃあねユピ、ユニ」
お嬢様がそう言って二頭の馬の頭を撫でる。すると二頭の馬がお嬢様を挟むように頭をすりすりと優しく擦り付ける。馬たちも優しい表情だ。ちゃんと馬の名前まで覚えてるところ流石お嬢様である。
「では、お気をつけて。おかえりください」
「ああ、気をつけるよ。それよりもティト君、アルネア様をしっかり支えるんだぞ」
「お嬢様を支えられる人間になれるようが…頑張ります」
「おう、それじゃあね」
「では、お嬢様私達もこれで失礼します」
「ええ、気をつけて帰りなさいよ」
「はい、お嬢様」
カルア達の姿が見えなくなるまで見送る。時計の針は十八時四十五分食事の時間まであと一時間と少し。まだ少し暇がある。見送りを終えアルネア様に付いていく。門を潜り屋敷の方に向かうがお嬢様が入るのは御屋敷の中ではなく裏の農園の方に行く。
御屋敷の真裏に位置する少し大きな倉庫のような建物の前に立つ。石と鉄で出来たその倉庫にはしっかりと錠があり。鍵が必要である。お嬢様は常に肌身離さずその鍵を持っており。鍵を開け私が少し重い扉を開く。建物の中は真っ暗で何も見えない。
お嬢様は入るなり壁に手をかける。すると電気のスイッチを入れたように部屋が明るくなっていく。
「では、いつも通り少し待ってなさい」
「はい、分かりました」
お嬢様はここに来るといつも奥の別の鍵のかかった扉の奥へ進んでいく。その扉は特殊な鉱石でできてるようで周囲の石や木とは全く違う素材だ。扉の奥は少しだけ覗け見えたがそれは地下への階段であり奥に何があるかは知らない。
お嬢様を待ってる間は部屋にあるものを見て眺める。
部屋の中に広がるのいくつもの棚とその上に乗っている様々なもの。それは宝石であったりサメなどの動物のような形に削れた流木。真新しいもの又錆て朽ちかけているいくつもの刀や槍、盾といった武器や防具といったものが部屋中に飾られている。
そこには今までお嬢様が拾ってきたものが飾られている。ヴェリシェ様に聞くにはお嬢様がこうやって拾い始めたのは四歳からだそうだ。ほんとゴミのようなものまで拾ってくる。ここに飾られていないものもありそれは卵だったり動物だったりする。先程のユピとユニも元々は野生の迷い子だったのだ。二匹とも色んなところに怪我をしており森の中で動けなくなってたところをお嬢様が通りかかり拾ったそうだ。
一度お嬢様に馬や卵、綺麗な武器などは分かりますが何故こんなにもゴミのようなものまで拾うのかと尋ねると、「傍から見ればただのゴミでしょうね。だからこそ紛れていいのよ」と言った。その時も今になってもお嬢様の言ったことはよく分からない。あれだろうかどう見てもぐちゃぐちゃな絵なのに芸術家達は異様に賞賛するあれのような物だろうか。どう見ても周りにある絵の方が上手く皆に伝わるような絵が沢山あるだろうに何故わざわざあれらの絵が高く評価されるのか本当によく分からない。
そう暇つぶし程度の考え事をしているとアルネアも用事が終わったようで地下から戻ってくる。
「お嬢様、いつもその部屋で何をしているのですか」
「秘密よ」
やはり教えてはくれないか。この部屋のことはほかの使用人もお嬢様の両親も知らないらしい。完全にお嬢様だけの秘密の部屋となっている。一昔ヴェリシェ様がこの部屋に入ろうとしたがこの扉についている鍵は特殊なものでそこらへんに落ちている葉っぱなどでも鍵穴が合う特殊な鍵穴なのだがその扉に登録したような物でしか鍵は開かないらしい。そして覗こう鍵を開けようと苦戦したところお嬢様に見つかり三日ぐらい話を聞いてくれなくてヴェリシェ様は泣いていたそうだ。
「でも、そうね…しいて言うなら備えあれば憂いなしということよ」
「は、はあ」
備えということは保存庫の様な物だろうか。だが備えるとは何にだろうか。季節の備えとかであれば使用人たちが知らないわけがない。そしてまだ皆が知らないということはここ約五年以上それらは使われていないこととなる。一体何がと余計に気になってしまう。
倉庫を出て屋敷に戻り晩餐までの待ち時間は書斎で過ごす。お嬢様は本を読み、私はその近くで訓練である。訓練というのは魔力に関してのことで魔力操作と魔力の増加の二つを目的としたものだ。水晶の魔法具に手をかざし自身の微量の魔力を流し込み水晶の中に入っている魔力に働きかけるというものだ。これの訓練はかなり難しい。何が難しいかというと操作するために流す自身の魔力より水晶の中にある魔力の方が多いいことだ。一般的な魔術師が魔法を使うのに魔力と魔素の割合は九対一、そして魔術をそこそこ極めた者でも七対三の割合で魔法を行使する。だがこの水晶は全くの真逆で自身の魔力が一で水晶が九なのだ。そしてこの魔道具なのだが道具の魔力なら自在に使えるのではとも思わうだろがそうではない。この水晶には常に魔素を溜め込む術式と常に術者の操作に反する動きそして魔力が入るとその魔素達が魔力から逃げるように縦横無尽に動き回る術式が組み込まれている。つまり自身の魔力を中に入っている魔素を捕まえ絡ませていき反抗しようとする魔素を従わせるよう操作し魔法を行使するという訓練だ。
魔力の増加だが、魔力とは長い時間持続的に使うことで体が魔力を必要と考え少しづつ魔力の器を大きくすると考えられており実際身体強化を使い始めた時十秒も持たなかったのが、今では五分まで使える魔力量になった。本来こんなにも魔力が少ないのはないそうだ。というのも魔法を一度使い終わった後に動けなくなるというのが本来有り得ない事だ。体が無意識に魔力を限界まで使わないようにリミッターの様な物が普通は備わっているのだから。ならなぜ魔力が少なく魔力を使い切ると動けなくなるかというと、理由としては貧民街で魔法とは無縁で魔力をこれまで使っていなかったから体が魔力が不要なものとして廃れていきリミッター自体も要らないと常に外れているということだ。なら途中で身体強化をとけばいいじゃないかと思うのだが、なぜか自身の意思で身体強化を解けないのだ。だからいつも身体強化で魔力を使い切って数分動けなくなる。そうならないように自分で解くために魔力操作の訓練ということだ。
そして魔力を流し続け三十分何の進展もなくただただ魔力を消費していくだけ。少ない魔力で追いかけっこし少し捕まえても直ぐに振りほどかれ逃げられるという無限ループ。それはただの作業なので面白みなどなくむしろ逃げられてばかりで虚しくも感じる。
「はぁ、全く上達しないわね」
本を読み終わったのか本を閉じってこっちに歩み寄ってきた。
「お嬢様本当にできるものなんですか…これ」
「貸してみなさい」
そう手を出すので水晶を手渡す。お嬢様は水晶に異常がないか全体を見渡し何もなかったようで魔力を流し込む。
「…≪
流し込み数秒もせず魔法を唱えると水晶の中心から光っていきその光は徐々に強く明るくなっていく。
「何の問題もないわ」
そう言って水晶を放りティトは慌てて水晶を受け止める。魔道具はかなり高価な物で一個で馬を四頭は買えるほどの価値がある。そんな物を簡単に放られると流石に慌てられずにはいられない。
「今はここまでしろとは言わないわ。とりあえず水晶の中で自身の魔力を動かす事だけ考えなさい」
「わかりました」
とりあえずアルネアの言う通り自信の魔力を水晶の中で動き回らせることにする。変に考えるよりお嬢様の言う通りにするのが今はよさそうだ。そしてまたしばらく訓練が続く。
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