第4話

 社員達の見送りを後に水産区域の役所のような所に着く。

 施設に入るなりレディーススーツの受付の人に案内される。私は案内される前にサルバンから集めた書類を役員の者に渡す。少し遅れながらもついていきまた大きな扉の前に案内され受付の人が扉をノックする。


「アルネア様がお見えになっております」


「どうぞ」


 部屋の中の返事を聞き受付の人と私が両扉に付きドアを開く。部屋の奥の机に左に二つの山積みになっている書類の後ろにエジットが座って書類整理の作業を行っている。


「失礼するわ。エジット」


「いらっしゃいませお嬢様。失礼ながら作業をしながらの対応をお許し下さい」


「構わないわ。今回は貴方の暇をもらおうと思っているのだから」


「ありがとうございます。早急に終わらせます」


 そういうなり今作業を終えた書類を左に置き右にある残り五枚程度の書類を手に取る。


 お嬢様は来客用の席に着き私は机に用意された来客用ティーセットを使いお茶を用意するのだが来客用のお茶は香りを良く感じ取ればわかるのだがあまり良い茶葉が使われていない。もちろん事前に来客予定の貴族が来るならば今あるものより少し良い茶葉を用意するのだがお嬢様はそれらの茶葉をあまり好んでいない。その為持ってきたバスケットの中にある茶葉を用いて入れる。室内には私たちのほかに二人のスーツ姿の男女が少し離れた場所に座っており、また違った書類の山をフェイルに閉じたりと整理している。


 この領内のシステムのようなものなのだが各区域にこの役所のような物があり。住民また各業者の書類をここでまとめておりヴェリシェ様の確認が必要な物をそこから別紙などにまとめあげそれがヴェリシェ様の方に流れる。つまりほぼ毎日ヴェリシェ様の机から消えない書類の山はここと同じような残りの三つの役所からも来ているのである。ちなみにその書類の山から何割かアルネア様が処理しているものがあるのだがそれは経理系のものでヴェリシェ様が経理が苦手なのでアルネア様が請け負っている。そしてセシス様の仕事はその書類の手伝いと再確認を行うとかなり徹底している。


 書類を整理し終えたようで紙を左にある山の上に乗せ席を立ちあがりお嬢様の斜め前に立つ。


「お待たせしました。お嬢様  して、何用でしょうか」


「今、庭は開いてるのかしら」


「ええ、今日は庭を使う予定はありません」


「ならそこで、いつも通りティルフォを頼むよ」


「承知しました」


 いつも通り私の意見なしに二人で話が進んでしまう。


 役所の裏にある庭に出る。時計の針は十五時半をさす。お嬢様は庭に設備されたガゼボに座りお茶と共にバスケットの中に入っていた。料理人達が用意していたお菓子を口にして三時のおやつをたのしんでいる。そして私はというとエジットさんによる木剣を用いた剣術及び近接戦闘訓練である。この時間はエジットさんがいる時はこの稽古を行ってもらい、いないときは筋トレまたは木剣の素振りを行っている。従者たるもの主人を命に代えても守らなくてはならないと教えられる。エジットさんは過去に騎士及び軍の兵士として活躍していたらしいがそれも二十年位前のことで引退してからはクリティア家に仕えている。


 訓練を教え始められたときにエジットさんからこの世界の四つの特殊な力を教わった。一つ魔法。体内の魔力と外の魔素を用い力を行使する。ほとんどの魔術師は放出系の魔法として行使する。二つ奇跡。聖職者が神より与えられる力である。それは魔法と同じようなものなのだが自身で力を開拓することはできず神からの啓示により新しい力を得たりする。魔法との違いはあまりないが神より奇跡の使用回数が定められており大体三から五回である。三つ闘気。魔力を全身に通し続け肉体から闘気を発し武器とする。魔法に似たようなもので強化、身体強化というものがあるが闘気とはその身体強化の先の力とされている。身体強化は主に全身なら全身に平等にかかり右拳ならへ一点に右拳に集中させたりと、武器なら武器へとかけ直す必要がありさらに一度かけてから効果時間が決まっている。だが闘気は効果時間などなく自身の魔力が尽きるまで己の意思で開閉自由である。闘気の利点は更に二つあり一つ極めれば自在に操ることができ闘気の消費を抑えることができる。二つ肉体や武器に付与するような魔法を行使できる。最後に四つスキルだ。使える者が少なくまだまだ謎の多いいこの力だが仮設として神または世界より与えられたものとされている。


 お嬢様を守るためであれば闘気を目指すべきだが現在、闘気を使える者自体この世界に五十人いるかいないかとエジットが言っていた。もちろんおれには魔力の才があまりなく一度の強化が切れるとへとへとになてしまう。だから今の課題は魔力量の向上コントロールそして、魔力関係なしに守る為の身体能力、強さを手に入れることだ。


 木剣を構えて三十秒が経つ。が互いに一切の動きはない。というよりも互いに受けに回っているというのだろう。このままでは意味がないとエジットは小さく首を横に振る。


「かかってこなければ訓練にならないが」


 ——わかってはいるがこれまでの戦いで実力差が大きすぎ攻めどころがさっぱり分からない。どう切り込むのが正しいか…。


「はぁ…来ないのであればこちらから行こうか」


 エジットの目が細く鋭くなりプレッシャーを感じる。ゆっくりと歩いてきて三歩めの右足が地面に着くと同時に更にプレッシャーが高まる。


 ——来る!


 エジットはそこで前飛ぶように距離を一気に縮める。左手を前に右手に持った木剣を体の真横に位置して構えている。


 迎え撃つように切りかかるか?いや、力量差が大きいなら——。


 ティトは両手に木剣を持ち前にして防御にでる。防御であれば後出しでしっかりと対応できる。エジットの木剣の軌道に合わせ防御する。が手に衝撃が走り木剣を落としてしまう。


「あまい、力量差を把握してるところまではいいが防御はまともに受けず相手の力を受け流せ」


「は、はい」


「そして恐れず君からどんどんかかってきなさい。今は訓練であり練習だ。失敗を知ることで自身に足りないものが気づける」


 ティトはひたすらに打ち込んでいく。時に木剣を弾き飛ばされ、寸止めされ、捌き切られ、ぼこぼこにされる。エジットさん稽古は二つあるひたすら休む暇なくなく攻め続けるかかり稽古の様なもの。インターバルトレーニングで一分間の打ち込み一分の座禅、二分の打込み一分間の座禅とどんどん打ち込み時間が増え最大五分のことを二セットいくものを行っている。その二つのどちらかを終え五分休憩し地獄が始まる。


「では、身体強化を」


「はい」


 ティトは木剣を前に構え深い深呼吸を行い自身に身体強化を行う。ただ行うだけではない闘気のように常に体を魔力が流れているとイメージを行う。これを行うだけでも使えるようになるかもしれない。そう信じて。ここから行われるのは本気の打ち込み合いだ。エジットは強化は使わないが本気の技量を持って木剣を振るってくる。


 ティトは自身の呼吸でタイミングを計り切りかかる。強化前より1.2倍以上は早く動き威力は更に高まっている。がその一撃をエジットは軽く剣で受け流す。だが一撃で終わらさずにそこから連撃に移る。それすらも受けながしエジットは隙を見計らい軽い打突を入れる。強化をしているとは言え痛い物は痛い。少し怯みながらも続けて切り込み続ける。がその全てを受け流し適度にティトの体にダメージを与えていく。


「もうそろそろ終わりですな」


 ティトの力を振り絞った一振りを見越してエジットは言う。そのひと振りは残りの魔力を使い切らんとばかりに踏み込みが強く速く動いて剣の降る速度も速くなる。エジットはグラグラと揺れるように木剣を軽く握り待ち受ける。そんな状態では簡単に木剣を弾き飛ばせる。気を抜いた方がいいのかとは思うだろうが気をぬける相手ではないのは自身が一番わかてっる。何の迷いないひと振りが木剣を弾きエジットの体を取りエジットの横を通り過ぎる。


 ——一発与えた!


 そう錯覚し気づいた時には右手首に激痛が走っており木剣を落としていた。一体何がと思ったがやはり理解できない。エジットを見るもその場から一歩も動いておらず、更には最後の木剣の攻撃は当たってないようだ。


 ——強すぎんだろ…。


 そう心で呟き力なく横に倒れる。これはダメージによるものではなく魔力消費の疲労によるものだ。


「動けない間は常に周囲の魔素を感じ取るようにイメージしなさい」


「わかりました」


「では、お嬢様私はヴェリシェ様の元へ行きますのでこれにて」


「ええ、いつもありがとうねエジット」


 そう短い会話を終えてエジットは役所の方に歩いていく。動けない体を早急に動かせるように休ませる。大体三分ほどじっとしていれば動けるようになる。だからそれまでの間、言われた通りに周囲の魔素をイメージする…。のだが、そもそも魔素が何なのか全く理解できてないからイメージも何も…。そう考えていると真後に歩み寄る気配を感じその方に目を向ける。頭の真横でしゃがんみ膝に手をその上に顎を置き覗き込む…いや、見下すようにしてお嬢様がそこにいた。


「暇よ、ティルフォ」


「お嬢様、私が今どういう状況かわかっていますよね」


「ええ、分かっているわ。魔力切れの疲労感で動けないのでしょう」


「なら、三分くらい待ってて下さいよ」


「いやよ、それにその様子じゃ三分ではなくもっと時間かかるでしょ」


「わがままですね」


「お嬢様っていうのはわがままなものよ」


「…はい、そうですね」


 こうしつこい時は絶対お嬢様が引くことはないのでこちらが折れるしかない。だが動けないものをどうしろというのだろうか…。


「ふふ、まあとりあえず口を開きなさい」


 そう不気味な笑顔を浮かべポーションの小瓶を取り出す。クリティア領では農業区域でポーションの生産も行っている。ポーションと言ってもゲームのように飲めば飲むほど回復したり即座に怪我が治るようなことは起こらない。回復速度が上がるなど言われているがそれは確かではない。だが痛みを和らげるといった鎮痛剤のような効果がある。その液体の色はそこそこの鮮やかな黄緑色なのだが今お嬢様が持っているのは不気味にすこし黒みがかった青汁より濃い緑の液体だ。


「え~と…お嬢様それは?」


「ふふふ、私特製のポーションよ。口を開けなさい」


「…」


 口を閉じ頭を横に振る。口元に瓶の口を押し付けるが隙間にも入らないように強く閉じる。


「まあ、わがままね」


 ポーションを口から離し少し困った顔をしたがすぐに何か思いついたようで持っているポーションの様に不気味な笑みを浮かべる。とても嫌な気がし寒気を感じる。


「そうね、鼻から流し込むのもいいけど…」


 こちらを向いていたお嬢様は俺の上半身をなぞり下半身の方を向く。まさか…冗談ですよね…。


「お尻にお酒を入れると飲むときと同じように酔うみたいだしポーションもアルコール同様に効果が出るのでしょうか…。ここで試してみるのもありね。ふふふ」


 嫌な気配は的中した…。普通ならやらないことだがお嬢様は普通ではない。だからお嬢様は平気で尻の穴にそのポーションを突っ込むだろう。


「の、飲みますから  口からで出お願いします。お嬢様」


「ふふ、いい子ね。ティルフォ。  はい、あ~ん」


 口を開きアルネアは笑みを浮かべながらポーションを口に流し込む。ポーションというのは決しておいしいものではない。薬草をすりつぶし水を混ぜたような物だ青臭く更に薬品のような匂いが混ざっている。そしてこれはお嬢様特性といった。それ以外にも何か混ぜられている。苦味、辛味、渋みがかなりきつく吐き出しそうだがここで吐いてもお嬢様のことだ。まだいくつか用意しているだろう。何度か繰り返すくらいならこの一回で飲み干すのが一番だ。そう我慢し無理矢理飲み干す。

 すると痛みがすぐ引いていき体が楽になり…。動かせる。不思議に思いながら上半身を起き上がらせる。そして体内から魔力の感覚が広がる。魔力が三分の一くらい一瞬で回復したのか。


「お嬢様これは…一体どうやって」


「言ったでしょ私、特製のポーションだって」


 自慢げにするお嬢様なのだが

 これはどう考えても異常な効果だ。痛みの和らぎ、疲労感の引きそして魔力の回復。治癒の水薬ヒールポーション強壮の水薬スタミナポーションを混ぜただけならまだ分かるが。など聞いたことない。


 そうして再び理解する。やはり私のお嬢様は普通ではないと。

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