第3話

 屋敷の門を抜けると三つの分かれ道がありそれを右の道、南の方の道を向いて歩いていく。先の分かれ道を真っ直ぐ歩いていくと東のクリティア領の入り口であり商業区域がる。左にの道を進めば北の農業区域、そして南の道を暫く歩いて行くと又二つの分かれ道があり左に向いて歩く。右の道を通れば南西に工場区域そしてこの道を進んでいけば南東の水産区域となる。このように四つの区域が分けられてあり屋敷を出て平原、森に挟まれた街道を大体四、五十分程歩けばその区域の入り口に入り人がたくさん行き交う。


 クリティア領は国内で最も人口が少ない。この世界の総人口が約二千とさえているがその中に貧民街の者は含まれていない為もっと多いいとされている。中心国であるアウステスアに半分の一千万人が暮らしており後の周辺の各五つの国、ヘルヴァス王国の総人口は約四百万である。そこから約三十万が各領に住んでいる。最近できたクリティア領は少しずつでは増えてきており現在約十万程度である。領地を構えた時は一万にも満たなかったそうだ。


 水産区域は巨大な湖に沿ってそこそこ大きな町にもなっている。その巨大な湖は南の方にぬけていく水路がありそれを進んでいくと海に繋がっている。この湖には約五千ほどの種類の生物がおりその中の食用に適した貝や魚などを湖内又は湖から離れた建物内で養殖し建物内で増やすものを食又は輸出に湖内で増やすものは数匹を残しそれ以外を再び湖又は海に放している。


「前回はどこに行っていたかな」


 ティトは用意していた手帳を胸ポケットから取り出し調べる。


「以前はメルアさんの鰻養殖場に行きましたね」


「ふーん。じゃあ、今日はサーモンの方のサルバンさんのとこに行こうか」


「サルバンさんのところですか…?分かりました」


「何?ちょっといやそうね」


「い、いえそういう訳では…」


「ふふふ」


 お嬢様はニターと口元に手を当て不気味に笑みを浮かべる。サルバンさんはとてもいい人なのだが少し…うん、苦手だ。


 アルネアはキョロキョロと見回しながらもすれ違う人の挨拶に手を上げ答える。クリティア家の皆様はとても民に好かれている。理由はいくつもあるがその二つが毎日各区域にあいさつ回りをしていること。そしてこの領地で働く者の名前と顔を完全に覚えていることだ。私も従者である為、覚えないといけないのだが、数万人を覚えるのに何年かかるだろうか…。


 この区域の建物はほとんどが養殖を行うものの為似たようなレンガを組見上げた倉庫状のものしかなく建物に掛けられた看板をみて判断するしかない。そしてサルバンとこの世界の文字で書かれたサーモンの看板の建物につき玄関横にあるベルを押す。十秒もしないうちにドアが開き女性が出てくる。


「はい、はーい。どちら…あ、アルネア様いらっしゃたのですね。どうぞ中へ」


「お邪魔するわ」


 女性に招かれ建物の中を進んでいく。

 女性は出てきた瞬間は少しだらけた対応だったがお嬢様を見るなりシャキッとする。

 黒いTシャツにダボダボの作業ズボン腰にその上着であろうものを腰に巻いてい片手に歯でガジガジに嚙まれたストローのついたペットボトルを持っている。洗濯後ちゃんと干してないのか凄い皺のついただらしない服装である。薄水色の服装同様にだらしないぼさぼさ髪穴が開いているような真っ黒な瞳で歯がサメのようなギザギザ歯が特徴的な身長は165~170くらい人だ。


「スアロ休憩中だったのかもしれないけれど。来客対応くらいは仕事なのだからシャキッと対応なさい」


「す、すみません」


「まあ、私に対してはシャキッとしなくていいわいつものあなたの方が面白いもの」


「えへへ、そうですかぁ~」


「でも、副管理者がこれでは少し心配ですね…」


「えへへ~それほどでも~」


「褒めてはないのよ」


 そんな二人の他愛のない会話を終え金属でできた横開きの重そうな扉の前に立ちスアロがボタンのナンバーロックを入力する。鍵が開いた音が聞こえスアロは重い扉の取っ手を持ち開く。開いていくのと同時に水の落ちるおと流れる音が聞こえ始める。扉が完全に開き目の前に現れたのは無数に伸びるホースとずらーと並んで広がる約150平方メートルの無数の四角いプールとその中を泳ぐ大量の魚影。


「あら~アルネア様いらっしゃ~い」


 その声を聞いた瞬間ゾクッと寒気が走り体がビクッと反応してしまう。そしてそれをみて更に楽しそうな顔をするお嬢様。声のした方を向くとその声の主が手を振って歩いてくる。180くらいのの背の高さでスアロと同じように腰に上着を巻いてはいるがズボンはだぼだぼではなくスーツの様なすらっとしたものをはいており黒いTシャツの作業着ではなくタイツのような体に張り付いた物を着ており体のようすが露になっている。異様に鍛えられ腕や足は細身に見えくびれができているようにも見える。髪は黒髪でオイルを使っているのかオールバックにまとめている。唇は少し分厚い人。サルバンさん、男性だ。


 私はこの人が苦手だ。異様に背中、特に下半身の方に圧のかかった視線を感じるからだ。


「あら~、ティトちゃんも来てくれたのねぇん。あめちゃんあげるわ」


「ど、どうも」


 困り顔の俺を見てお嬢様は横目に笑う。絶対楽しんでる。


「では、少しお話しましょうかサルバンさん」


「ええ、そうね。じゃあスアロ、ティトちゃんのお世話よろしくねぇん」


「はい、はーい」


「ティルフォしっかりするのよ」


「わかりました」


「じゃあ、また後でね。ティトちゃん」


 サルバンさんはウィンクをしてお嬢様と少し離れた場所にいく。そしてお嬢様は用意された土台に乗り梱包やラベル張りといった作業を行いながらサルバンさんと会話をする。その間私は用意された作業着に着替えスアロさんの指示や教えを受けながら網で魚を別の水槽に移したりと仕事を教えられる。


 クリティア家が皆に慕われている理由のもう一つ。それがこのように一つ一つの仕事場に訪問し仕事を直接見て、仕事を手伝い、知り、そして互いに意見を述べ合い業務または快適さの向上を常に考えていることである。お嬢様が言うに「苦労を知らない者が上についても向上などしない停滞または低落していくわ。例え向上できるとしても周辺事業の方がより向上できる格差は広がっていくでしょう。その場に行き直に触れてまたその場で働く者たちの声でしっかりと理解し知ることができる。半端な現場状況の知ったかぶりなど要らない。上に立つものは常に知っておかなくてはならない。自分の下に着く者たちの仕事を苦労を.上に立つ者の為に仕事があるのではない。皆が平等に平和に暮らすための仕事。国のために人がいるのではなく人のために国がある。それと同じよ」子供らしからぬその発言には少し驚いたが、お嬢様らしく思えるし仕える身としてもとても素晴らしく思う。


 その考え方のおかげか結果は出ているのだ。クリティア領は周辺領いや国、他国と比べかなり文化が進んでいる。この世界は時代で言えば中世から近世くらいの時代の文化で機械などがあまり発展していないのだがクリティア領にある建物以外の物はかなり科学が発展している。彼らの服装やこの倉庫の設備を見渡してもわかる通りかなり科学技術が発展しているのがわかる。技術の発展の飛躍の差には正直驚きを隠せなかったしヴェリシェ様実は私と同じように転生者なのかとも思い疑ってしまったがこれを主人に尋ねるのは無礼だろう。もし仮に転生者だったらいいがそうでなかった場合ヴェリシェ様の技量等を疑う事となる。従者としてそれをしてはならない。


 暫く作業をしていると再び寒気を感じ振り向くとサルバンさんとお嬢様が近くに立っていた。するとサルバンさんが手を叩き音を鳴らす。


「はーい、皆お昼休憩よーう」


 サルバンのその合図と共に皆が作業を終え移動する。プールでの作業はこれで終わりの為私はシャワーを借りる。後から来た身なので従業員を先に最後に待つ。自身が浴びているときにはすでに一人となっていた。汚れと匂いを流して落としていると、扉が開く音が聞こえ誰かが入ってくる。


 ーえ、誰…


 少しづつ足音が近づいて来て真後ろに誰かがいる気配がする。まさか…。


「そう身構えなくていいわ、私よ」


「お、お嬢様?一体なにを…。今シャワーを浴びているのですが…というよりここ男性用のシャワー室なのですが」


 後ろに目をやると個室と個室を分ける壁にもたれかかるアルネアの影があった。覗いている様子はないのでシャワーを続ける。


「いいじゃない今はあなたしかいないのだから…気にしないわ」


「私が気にするのですが」


「朝は私の裸を見たのに私には見るなというのかしら?」


「うぐ」


 こうやってお嬢様は必ず私の弱みを使い遊びに来る。だが、今回のことは完全に私のミスだからそのことに対しては何も言えない。


「で、本当に何の様なのですか」


「そうね、もう少しサルバンさんへの対応をちゃんとなさい。傷つくわよあの人ハートは柔らかいのだから」


「で、ですが…何というか凄い視線を感じるので…」


「ええそうね、あの人貴方のお尻を凄い見てるものね」


「は!?」


 やっぱりという驚きとやはりそれを楽しんでいたのだと気づくにプラスし自身の危機感が膨れ上がる。正直あの人の筋肉かなりがっしりしているから捕まったら到底逃げられないだろう。


「まあ、安心なさい。貴方に手を出すようなことはないでしょう」


「そ、その根拠は」


「私の従者というのもあるけど、その前にあの人既婚者だもの」


「え?それは…」


「ちゃんと異性の女性よ。さらに二児の子持ち」


 ーそれなら尚更凝視しないでほしいのだが…。それにしてもあんなに濃い人の相手…その人も濃そうだな。


「貴方、今失礼なこと考えてない?」


「いえ、考えてないですが」


 やはりお嬢様は勘が鋭い。こんな会話でも一切気が抜けない。


「まあなんにせよ。慣れろとは言わないわ。できるだけ我慢しなさい、そのうちやめるでしょうから」


「ぜ、善処します」


「では、私は先に行ってるから、貴方も早く来なさいよ。皆を待たせるのはよくないわ」


「わかりました」


 急いでシャワーを浴び終え大きな食堂に入る。その部屋には数百人という全社員が集まっており広い部屋なのだが密集いるため少し狭く感じる。時計の針は二時を刺しており皆、少し遅い昼食の時間である。昼食ではあるのだが実はまだ休憩という訳ではなく仕事の時間でもあるのだ。皆の前には九つの小さなお皿があり少量のバターソテーにサケのカルパッチョ、ガーリックホイル焼きの三種が少量に小分けされ更に同じ料理だがお皿に違う色のシールが三色貼られて並んでいる。


「赤いシールが三から四年物、青が五年物で緑が六から七年物です」


 そうここの料理長が説明しアルネアが席を立つ。


「皆さん自分の感性でいいのでよろしくお願いいたします」


 そう言ってアルネアの手を合わせるのに皆が合わせて手を合わせる。


「いただきます」


『いただきます』


 そのアルネアの挨拶に続くように社員全員が挨拶する。こういうの面倒がる人とか居そうなのだが誰一人面倒そうにする者はいない。むしろ楽しそうでもある。これから行われるのは食べ比べである。餌や育て方を変え更に育てた年数の違いをだす。味や食感や風味全てを社員全員が食べ比べただおいしいという感想でも紙に書き込みそれをまとめ各年数の大きさや重さ育成のコストを集計し今後それを別のブランドとして養殖するのか、価格をどうするか、販売するかが決まる小さなイベントのような物である。


「今回は柑橘系からリンゴに変えてみました」


「リンゴですか…まあ食べてみましょう」


 二人は三品を一口ずつ食べ首を傾げる。微妙な表情を浮かべながらもしっかり味わうように何度も噛む。


「リンゴはやはりよくわかりませんね」


「失敗だったかしら」


「それとやはり五年以降のものは少し硬くなっていますね」


「そうね、大きさがあまり変わらず成長する分身が強く引き締まるから子供やご老体からしたら食べにくいかしら」


「食べにくさと味さらに育成コストからしてダメそうですね」


「五年以降のものは餌どうこうより育て方やプールの環境の改良がいりそうね。まあ数匹実験してみるのもよさそうだわ」


 と餌やプールの広さその中に何匹を育てるかと様々な育成方針の意見をサルバンがだしアルネアがそれに対するすぐに出せるコストなどを答え更に自身の意見をだしそれにサルバンが意見をかさねていく。そうして少しずつこの魚を育てる場合の方針案が固まっていく。


「赤と青は問題ないですね。あとは皆さんの意見とコストの見積りを集計し次第ですかね」


「ほんとこういう事を考えてくれたアルネア様そしてご両親様達には感謝してます」


「私達も助かってるわ、そしてこれからも皆に期待しているもの」


「ありがたきお言葉です」


 皆が食事を終えアンケートの紙に記入を終え部屋を出ていくのと同時に紙を収集しこの養殖所での私達の仕事は終える。

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