第22話
十五
「やっと終わるね」
「そうだね」
あれから僕らは伊勢神宮へ八咫鏡を、北海道神宮へ八尺瓊勾玉の片方を返しに行った。村田先生がそれぞれの神社に連絡を入れてくれて、行く先々でこの上ないおもてなしを受けた。伊勢神宮では火災にあった神殿が完全に修復され、本来なら天皇陛下しか入れないという神殿の奥に通されて、僕の手で八咫鏡を奉納した。その後は夜の境内で宴会となり、酒が飲めない僕は神殿の小部屋に隠れていたが、あまりにも楽しそうな声がしていたので、柱の陰から少し顔をのぞかせたところを見つかってしまい、神主たちに引っ張り出され酒を飲まされてしまった。それを見ていた静香は「現代の天の岩戸だ!」と大笑いしていた。当然その後の記憶はない。
北海道神宮では、静香が八尺瓊勾玉を奉納した。盗難防止のことを考え、神殿の下に特別な地下室を作り高さ二メートルほどの金庫を設置して八尺瓊勾玉を安置した。話によると、大型の爆弾にも耐えれる金庫だそうだ。宮司さんは「金庫」と言い張っていたが僕に言わせると「核シェルター」だ。奉納の儀式のとき、静香はアイヌ民族の衣装で神事に参加した。これには、開拓によって奪われたアイヌ文化に対する本州人の謝罪の意味と尊敬の意が込められているらしい。奉納後は例によって宴会だった。ただ伊勢神宮とは違い境内で宴会ではなくサッポロビール園だった。僕はひたすらジンギスカンを食べていたが、調子に乗ってビールを一気飲みをしてしまった。当然その後の記憶はない。気付いたら静香の部屋で寝ていた。
そして僕らは最後の一つ、「八尺瓊勾玉」の奉納のために出雲大社へ向かっていた。
「不動君! 静香さん!」
出雲大社駅改札口に足立さんがお迎えに来てくれていた。
「二人ともお疲れ様。あと一つね。もうちょっとだから頑張ってね」
足立さんは明るく声をかけてくれた。その後ろで村田先生が深々と頭を下げている。
「村田先生、ただいま戻りました。あと一つ奉納して今回のミッション終了です」
「二人ともありがとう」
村田先生は満面の笑みだった。そういえば、この穏やかな表情は豊川稲荷で見たとき以来かもしれない。
足立さんは僕らを車に乗せて出雲大社へ向かってくれた。静香は足立さんの出雲の街のガイドを聞いていたが、僕はどうしても村田先生に言いたいことがあった。
「村田先生、僕は先生の言葉でずっと気になっていたことがあったのです。いつか先生に聞こうと思っていたのですが、今回の戦いの中でその答えが見つかりました」
「それはどんなことですか?」
「豊川稲荷で先生は『豊川稲荷が本来あるべき姿だ』、そして『お参りする時の作法よりも気持ちが大事』と仰られました。僕はそれがどういう意味か全くわかりませんでした」
車は街の中を縫って走り、静香は出雲の街の景色を楽しんでいた。
「豊川稲荷はお寺なのに神様を守る仏様を祀っているので神仏分離政策を免れたと静香から聞きました。でも元々は神様も仏様も一心同体で、分ける意味がない。作法云々ではなく感謝の気持ちを持ってお参りすることが大切であって、神社やお寺はただの建物なんだって思いました」
「そう、その通り。不動君成長したじゃないか」
車は出雲大社の前に到着し、僕と静香は車を降りた。
「私たちは駐車場で待ってるね。いってらっしゃい」
足立さんと村田先生に送られ、僕らは神殿を目指して歩きだした。
「この神社って何にご利益があるのかな」
「え? 知らないよ。不動君調べてないの?」
でもすぐに静香はハッと気付いた。
「調べる意味なんかないか。だって気持ちだもんね」
静香は笑っていた。すると参道の木々が揺れて話しかけてきた。
ここの神社は縁結びの神様がおいでになりますよ
さあ早くご挨拶してきなさい
僕と静香は目を合わせ、桜のころにはまだ早い参道を歩いた。
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