第10話


 高千穂から出雲大社への移動も超長旅だった。バス・特急・新幹線・特急・私鉄の乗り換えの連続で十四時間近くかかった。名古屋からの移動もすさまじかったが今回も気が遠くなる時間だ。足立さんは大移動に慣れているのか電車の中では雑誌を読んでいるか寝ているかのどちらかで、ほとんど会話らしい会話はなく、ほぼ無言状態で最終到着駅「出雲大社前」に到着したのは夜十時前だった。村田先生が駅近くのホテルを予約してくれていたのでそこまで案内してもらい足立さんと別れた。もともと足立さんは出雲の人なので自宅に帰るらしい。

部屋に入り、食事をどうしようか考えていたらフロントから内線電話が入った。帰ったはずの足立さんが食事に誘ってくれ、ホテル近くの居酒屋へ行くことになった。

「お誘いして迷惑じゃなかったかしら?」

「いえ、ちょうど僕もお腹すいていたところです。乗り換え途中でおにぎりしか食べていなかったから、晩ご飯をどうしようか考えていました」

「不動君は何でこの任務をやっているの?」

「ヒマだからですかね」

「嘘、そんな理由じゃないよね」

「冗談ですよ。僕の彼女が失踪したのです。たまたま愛知で知り合った村田先生に彼女の安否について聞きに来たら修蓮法師の話になりまして、僕が三種の神器を集めることになったんです」

「そのミッションって命がけだけど不動君は怖くないの?」

確かに命がけだ。そんなこと考えもしなかった。

「村田先生の霊視によると、彼女もこのミッションに関係しているみたいなんです。彼女も頑張っているなら僕もやろうって決めました。村田先生は、何か僕も選ばれた人間と言われていましたけど、イマイチその実感がないんですけどね」

「不動君のミッションやこの事件の背景について話しておかないといけないことがあるの。修蓮がなぜこんなクーデターみたいなことをやろうとしているか知ってる?」

「神社を排除して仏教中心の国にするって聞いてますけど……」

「問題は修蓮の家系にあるの」

 夜十一時をまわったのに店の中は賑やかだった。観光客だけでなく地元の人たちもいてかなり騒がしい。しかし足立さんがこの出来事の核になる部分を話し始めると、僕らのテーブルだけ瞬間移動して静けさの中にいるような気がした。

 かつて仏教徒の男と朝廷の女官が恋に落ちた。僧が恋に落ちることは修行の身としてあってはいけないことであり、神道中心で考えられていた朝廷の女官が仏教徒と結びつくことも御法度とされていた。二人はまわりの目を盗んで密会していたが、この関係がばれてしまい二人は朝廷の役人に殺されてしまった。しかし、二人の間には子供がいて、その末裔が修蓮法師である。神道に対して恨みの感情を現代まで受け継いでしまっている。修蓮法師は、神道の教えを否定し仏教中心の国を作ることでその恨みに終止符を打つつもりでいる。

 村田先生の先祖は、代々政治の方向を占う霊能士であった。現在は高千穂でスピリチャルカウンセラーをやっているが、数年前までは全神社の宮司の総責任者であった。修蓮法師は自分自身の素性を隠して村田先生に近付き、神社の情勢を探っていた。そこで三種の神器の存在を知り、それらを使って神社を廃絶することが先祖供養だと考えている。

 村田先生も、まさか自分の弟子に裏切られてしまうと思ってもいなかった。その中で豊川稲荷と小原に行くこと、そしてそこで修蓮法師の行動を阻止するであろうカップルに会うとお告げがあった。それが僕と静香であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る