第6話
六
名古屋に帰ってきてからも静香の自宅と携帯に電話してみたがつながらなかった。北海道神宮に電話してみたが、出張からまだ帰らないし帰ってくる予定もわからない。
僕はこのショックから立ち直れず、引きこもりの生活になってしまっていた。
そしてもう夏が過ぎようとしていた。店長に事情を話してしばらくアルバイトを休ませてもらっている。僕は無駄遣いをしないタイプなので、学生時代からコツコツ貯めたお金で食いつないでいる。毎日毎日、ずっと静香からの連絡を待ち続けたが一向に連絡はなかった。
どこにも出かけることもできず一日中家の中、食事は喉を通らず、テレビも音楽もかけず、部屋は荒れ放題だ。やはり静香がいないと何もできないことを実感し、ダメな自分に戻ってしまっていた。当然就職活動なんてできていない。はじめのうちは
「こらこら、そんなことでどうするの?」
と静香の空耳がしたが、最近では何も聞こえない。さすがにこれではいけないと思い、テレビだけつけるようにした。
テレビでは三重県の有名な神社が火事で焼失したというニュースが流れていた。
前回火事のニュースを見たのは静香の部屋だった……。
小原でも火事に遭遇した……。
そう思うと無意識に立ち上がっていた。そして無造作にカバンに服を詰め込み、静香に渡すつもりでいたネックレスを自分の首につけて家を出た。部屋に飾ってある写真、四季桜をバックに二人で写った姿に見送られながら……。
僕が向かった先はアルバイト先でも札幌でもない、高千穂だ。四季桜を見た時に会った老人のところへ足を向けていた。静香の失踪と山火事が関連付いたものではないが、「火事」という共通ワードとして高千穂の老人が浮かんだのである。
中部国際空港から一人で宮崎空港へ向かう。今回の空の旅はのろけるために行くのではない。霊能士である高千穂の老人にアドバイスをしてもらい、何とか静香の消息を知りたいという思いから動き出したのだ。さすがに今回は搭乗前に靴を脱がなかった。
宮崎空港に到着したときは雨が降っていた。実は勇んで家を出たまでは良かったが、高千穂へどうやって行けばよいか知らなかった。空港で荷物を受け取ってからそれに気づいた。しどろもどろしていると
「不動君、お待ちしていました。遠路をはるばるありがとうございます」
と声をかけられた。振り向くと一人の老人が立っていた。豊川稲荷と小原で会ったあの老人、村田山水さんだった。
「村田さん、僕がくることがわかってらしたのですか?」
小原以来、約一年ぶりの再会だったが挨拶するどころではなく先に驚きがきた。自己紹介した覚えがないが僕の名前も知っていた。
「あなたが来られることは虫の知らせでしょうかね。天の声が聞こえましてね」
豊川稲荷で会った時のような穏やかな表情だ。嘘をついている顔ではない。
「なるほど、霊能士の人はそういう情報をキャッチすることができるのですね。驚きです」
強張っていた筋肉が一気に緩んだ。
「村田さんに……、いや、村田先生にちょっとご相談がありまして名古屋から飛んできたのです」
「ここでは何ですから私の家にご案内します。今日はあなたをお迎えに来たのですから。それに、あなたにお願いがありまして、詳細は私の家でお話しましょう」
霊能士はなぜ幽霊が見えたり先のことがわかったりするのかを科学的解明しようとしたテレビ番組を見たことがある。人間は微弱な電気を脳が発信して動くことができるらしいが、霊能士の多くは特別な電気を発することができるので、凡人では動かない能力を発動できるそうだ。そして見えないものを見たり先のことがわかることができるらしい。
僕は村田先生にアドバイスをもらうためにここに来たのだが、逆に何か頼まれるようだ。どちらが客かわからないが、僕は就職浪人中だから時間はたっぷりある。村田先生の家で少しお世話になろう。どうせ宿泊施設の予約もしていないし。
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