【イベント6】エンディング

「……」

 誰かの声がする。


「……よし子」

 誰かが呼んでる。あ、誰かが身体を揺さぶってる。


「よし子。こんな所で寝たら風邪をひくギョリュ」

 その変な語尾で、アタシはハッと意識を取り戻した。


 ガバリと顔を上げると、そこはアタシの家のリビング──というか、畳張りの居間。

 5人もヒモが増えたから、前の家から引っ越して借り直した築60年のボロい一軒家。


 目の前には、『荒波の断罪コンビクション』のゲームスタート画面が表示されたテレビが。そして私は、その前に設置された座椅子にもたれ掛かっていた。


「帰って──来れた!!!」

 アタシはその事実に気付いて狂喜乱舞。

 肩を揺すって起こしてくれていた元・白茄子エグプに、喜びそのままに抱きついた。

 元・白茄子エグプは、疑問顔のままアタシに抱き付かれていた。


「どうしたんだ、よし子」

 騒ぎを聞きつけ、フリフリエプロンをかけた金髪王子がお勝手から顔を出す。

 そして、抱きついたアタシと抱き付かれた元・白茄子エグプを見て──

「よし子! 今日は金曜日で俺の番だ!!」

 そう激昂する。

「違ぇし! そういう意味じゃねぇし!!」

 アタシは慌てて元・白茄子エグプの身体を突き放した。

「っていうか! まだその担当分け有効だったんかい! 言ったじゃん! 誰ともしねぇって!!」

「よし子が、いつでもその気になってもいいように準備は常にしている。大丈夫。俺はいつでも万端だ」

「偉そうに何を言ってる! 洗い物終わったんか?!」

「ああ終わったぞ! 今日はよし子の湯飲みを割っただけで済んだぞ!」

「割るなよ!! アタシのは洗わなくていいって言ったじゃん!!」

「洗いたかったんだ……よし子のその唇が触れたかと思うと、俺はその湯飲みを──」

「キモい!!!」


 近くにあったテレビのリモコンを投げつけるが、金髪王子はすかさずソレを受け止める。

 そして不敵な笑みをアタシに向けた。


 こんな、いつも通りのやり取りをして、アタシは心底ホッとする。

 帰ってこれたんだ。

 この家に。

 確かに、ヒモ5人を養うのは大変だ。

 大変だけれど、退屈はしない。


「ただいま〜」

 玄関の方から、そんな声がかかる。

 あの声は褐色商人息子。居酒屋バイトから帰ってきたようだ。

 バタバタという足音が聞こえて、居間の方へと褐色商人息子がヒョイっと顔を出す。

「よし子、お客さんだよ〜。俺、風呂入るわ」

 言葉だけ残して、褐色商人息子はスタスタと風呂場の方へと行ってしまった。


 そして、彼の後ろから現れた人間は──


「リズ。やっと見つけたよ」

「散々な目にあったヌミョね」

 シルバーの髪の毛の男と、見知らぬ金髪男。

 金髪男の方は、見覚えこそないものの、その語尾には──覚えがある。


 え……マジか。

 またなのか。


「もしかして、よし子。また乙女ゲームの世界に転移してたギョリュか?」

 呆れた顔をしたのは元・白茄子エグプ

 そういえば、現れた金髪男はこの元・白茄子エグプと瓜二つだ。髪が金色で褐色の肌をしてる事を除けば。

 何これ。2Pカラーか何か?


 シルバーの髪の男──王弟殿下が、アタシの前まで来ると、ひざまずいてアタシの手を取る。

 振り払ったら光の速さで再度手を取られ、逃げられない程の強さで握られた。

「あの時、俺も魔法陣の中に飛び込んだんだ。リズ──いや、よし子を追って。

 お前のいない世界など考えられない」

「いや、そりゃ錯覚だ」

「お前を幼い頃から見ていて、いつか俺がお前のそばにずっと居れたらと思っていたよ」

「それはそれで大問題じゃね? 性的な意味じゃないよね?」

「性的な意味だ」

「ヤバすぎんだろ!!」

 なんとかアタシはシルバー王弟から手を引き剥がそうとする。が、ビクともしねぇ!!

金茄子ゴエプ! お前、金茄子ゴエプだろ?! コイツなんとかしろ!!」

 アタシは、シルバー王弟の後ろに立つ元・金茄子ゴエプにがなり立てた。

 しかし、ヤツは呆れた顔をするばかり。

「だから無理だヌミョ。ナビキャラはそんな便利キャラじゃないヌミョ。しかも、もう何の力もないヌミョ。ただの人間だヌミョ」

「役立たず!!!」

「そうヌミョね……」

 元・金茄子ゴエプは、こめかみをポリポリと掻きながら、言いにくそうにちょっとだけ言い淀むと

「役立たずついでに。養ってくれると嬉しいヌミョ。王弟殿下共々」


 ……え。

 養わなければいけないヒモが増えたって事?


 なんで?

 なんでアタシばっかりこんな目に?


 もう──


「乙女ゲームは等身大で楽しむもんじゃねぇなっ!!!」


 アタシは全身全霊で、そう叫ぶ事しか出来なかった。



 了

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乙女ゲームの中に転移してしまったんだけど、普通に嫌なのですぐ帰りたい。その2。 牧野 麻也 @kayazou

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