第15話
「もう一ヶ月だ!」
ルアドは苛立っていた。この町で事件が起きて以来、何の事件も発生せずに一ヶ月が過ぎていた。いくら調べても、犯人と思われる情報はなく、隣の村の爵位保持者は生きている。周辺の町も調べたが、国民たちの言う“救世主様”が起こしたと思われる殺人事件は起こっていない。本物の起こしてきた事件のおかげで、より強くなった爵位保持者たちのガードによって、次々と湧いて出る模倣犯たちは既に捕らえられていた。奴らを牢屋に突っ込む手続きなどはあれど、特に大きな事件もなく一ヶ月。本物の犯人を見つけられないと、上から叱られ続けていた。しかし一向に何の手がかりもないのだ。苛立ちを露わにして歩き回るルアドを、ジョンはぼんやりと眺めていた。ジョンもまた、ルアドと変わらぬ気持ちでいたからだ。せっかく面白い事件だと思ったのに、こうも何も起こらなくては意味がない。冷め始めたコーヒーを飲みながら、ジョンはため息を吐いた。テーブルに空になったカップを戻したとき、ジョンはきらりと目を輝かせた。遠くから走ってくる足音が聞こえたのだ。
「隊長……!」
駆け込んできた隊員は、いつにも増して目つきの鋭くなったルアドに縮み上がった。
「何だ!」
不機嫌そうに歩き続けながら、ルアドは興味なさげに声をかけた。
「例の“救世主様”……」
ルアドが立ち止まって瞬時に睨みつける。国の犬である自分たちが、あの連続殺人鬼を救世主様などと呼んではいけない。隊員はルアドの視線の意味を察知し、咳ばらいをして言い直した。
「例の“影”が、再び動き出しました!」
ルアドとジョンは顔を見合わせた。お互いの目が嬉々としているのが分かる。
「すぐに出発の準備を!」
ジョンが隊員に叫んだ。
ビーデルは見慣れた古い小屋に頭を下げた。ここに住まわせてもらい、鍛錬を続けて一ヶ月と少し。元々運動神経の良かったビーデルは呑み込みが早く、ガルドラも驚くスピードで成長を遂げた。そして昨晩、習ったことをしっかりと生かして、ガードの固かった爵位保持者を始末したのだ。
「ありがとうございました、師匠
ありがとうございました、ロインさん」
ビーデルは村の出口まで送りに来てくれた二人に礼を言った。ガルドラは交友関係が広く、隣町に住む知り合いにビーデルを泊めるようにと手紙を出してくれていた。これから先もこういうふうに助けてもらえたらと、少し甘い考えを持ってしまいそうになる。
「ビーデル、これからはもっと苦しい戦いになるだろう
心してかかりなさい」
ガルドラが優しく言った。
「俺からはこれを
少しですが換えの服など、使えそうなものを用意させてもらいました」
ロインが大きく膨らんだ鞄を渡してくれる。ビーデルは再び二人に感謝の言葉を言って、手を振りながら次の町へと旅立った。
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