第5話
「隊長、隊長・・・!」
三日後の早朝。ルアドの元に駆け込んできた若い兵に、ジョン・オルディスが振り返る。仮設で建てられた捜査本部のベッドで、ルアドが不機嫌そうな顔をこちらに向けた。まだ入って間のない兵が縮み上がるのを、楽しげに眺めるジョンに、ルアドが小さく舌打ちをする。この副隊長はサディストのような性格があり、怯える人間を見るのを面白がるところがあるのだ。
「どうしたんだい?」
ほんの数秒前まで面白がっていたジョンは、もう副隊長の顔に戻っている。ジョンもルアドと同じで仕事人間なのだ。
「は、はい
本日、隣町のトバスで、町長夫人が何者かによって惨殺された遺体が発見されました
殺しの惨忍さ、男爵殺害から三日しか経過していない点、現場が隣町という三点で、犯人は男爵殺害犯と同一人物ではないかと……」
町長夫人ではそれほど身分が高いわけではない。が、若い兵の推理にはルアドも同感だった。ルアドの変わらぬ表情に怯える兵に、ジョンは笑いかけた。
「隊長は現場を見たいそうだ
すぐに馬の用意をしろ」
敬礼をして出ていった兵の背を見送ると、ルアドはジョンに声をかけた。
「いつも思うが、俺は表情が読めんとよく言われるのに、何故お前には俺の思うことが分かる?」
「モガータ、私を誰だと思っているんだい
仮にもお前の下で二年働いている副隊長だぞ
お前は確かに表情が読みにくいが、慣れればそうでもないぞ」
少し馬鹿にしたように笑うと、ルアドに上着を放る。コーヒーをカップに注ぎながら、ジョンは思い出したようにニヤリと笑った。
「そうだな、お前が興味を持つと左の眉が少し上がる」
「そうなのか?」
カップを受け取りながら驚いた声をあげるルアドに、ジョンはクスクスと楽しそうに笑う。
「まぁ、大体は不機嫌そうに眉間にしわを寄せているから、顔自体は怖いけどな」
眉をひそめたルアドを見て、ジョンはケラケラと笑いながら、テントを出ていった。コーヒーを一気に飲み干し、ルアドは上着を着た。そして回収された宝石類を振り返り、小さくため息を吐いた。犯人がどういう意思があって犯行を重ねているのかは知らない。だが調査兵隊隊長として、見過ごすことが出来ないのも事実だ。相手が女だろうと、足の悪い老人だろうと、捕まえて処刑しなければいけない。
「……悪いやつではないんだろうがな」
すぐに宝石類から目を離すと、テントの外に出た。
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