第3話 サトリ復活?
俺、話を戻す。
「ということは、武藤佐が直接協力すると、坪内佐にとっちゃバディ復活なんだね。
確かに、ちょっと可哀想かも……」
「でしょう?
だから、私が出るよ。
それはいいんだけど、その舞台だてはどうするのよ?」
「先例にならって、『研修名目で呼び出して』は、できないって。まだ院生とはいえ学生だからね。
面接するにしても相当にハードにしないと、こちらを丸め込みに掛かるだろうし」
「まぁ、そうだろうね……。
あとは、なにを見ればいいのかな?」
「すべて、だろ。
坪内佐が投げた状況に対する反応と、それが嘘かどうか」
「センサーに徹しろってこと?」
「うん? そう言われると謎だね。
センサーだけの話であれば、システムで解析できるし、嘘ついているのも見破れる。
違うね。坪内佐の考えは、きっとそうじゃない。
対象を追い込むことも、視野に入っているよ」
「追い込むって、まさか?」
「そのまさかだ。
美岬、中学生に戻れっていうことかも」
「うわー、できるかなー?」
その言葉は、たぶん正直な感想だ
美岬、中学生時代に、その能力で相手を追い込んでしまったことがある。
とはいえ、美岬が悪かったわけではない。
中学生だった美岬に対して劣情を行動に移し、援交を持ちかけ、返り討ちにあったパターンだ。
それも、相手の生理的反応をすべて口に出してフィードバックしただけという、本人には悪意なく、でも相手にとっては一番ダメージになるやり方で、だ。
今の美岬は、その行為が相手に及ぼす影響をよく解っている。
「サトリの化け物」が現実にいたら、人は容易に壊れるのだ。
でも、そんなことをしないまま、すでにもう10年以上が経っている。
「おそらくだけど、そこまでしないと本音が掴めないってことだと思うよ。
もうさ、相手が具体的になっていないと事態の予想ができないから、仮に坪内佐と仮定してしまおう。
坪内佐の本性を暴くのにはどうしたらいい? ってこと。
たぶん、仮定の坪内佐VS坪内佐本人は、ドローだ。
だから、美岬に協力依頼をした。
そして、俺たちは、ドローにさせず、壊す一歩手前まで追い込むことができる。
となると、やっぱり研修の形はありえないかも……」
「そうだね。
尋問とか査問会みたいな、そもそもの相手を追い込む形を作る必要があるかも知れないね」
そう言って、美岬はさらになにかを思いついたらしい。
「……そか、もう一つあるわ。
坪内佐を二十歳若くしたのを想像して。
たぶん、そんな態度は片鱗も出していなくても、きっと、まわり中がみんな馬鹿に見えているのよ。
坪内佐は、そのことの愚かさ加減に気がついているけど、その彼はまだ気がついていない。
むしろ、積極的に潰せってことかもね。
潰される寸前の反応からいろいろと適性も判断できるし、坪内佐と同等の人ならば、そこまで潰されても数日で立て直して来るわ。
そして、二度と同じ轍は踏まない。
自分が負ける前提を持って、以降の行動するようになる」
そこまで言って、美岬は不意に口を閉ざした。
間をおいて、ぽつんと呟く。
「……なんか、私、嫌な役目だね」
「そうか。
だから、引退した人を呼び上げるのかな」
「痛みは与えられても、その相手とはもう会わなくて済むから?」
「そうだね。
なんか、やれやれだよ。
ただ、ここまで来ると仮定に仮定を積み上げているから、実際は判らないけどね」
「まぁね。
坪内佐、なんだかんだいって、悪意で動く人じゃないし、なにか別の意図もあるかもね。
とりあえず、ここまでで良いんじゃない?
あとは、坪内佐に協力するよって返事をして、その後の具体的な動きから想定を絞り込めば」
「そうだね。
その方が確実だし、今すべてを危うい推測で決めておかなくても、大丈夫な問題だからね」
そう話のキリをつける。
話が終わると、空腹を自覚する。さっきから、俺の嗅覚は、美岬が準備している今晩のメニューを知らせてきている。
「で、今日はなんで、美岬が水餃子作っているの?
この手の料理は、
あと、もう一品ある? キャベツとニンニクの匂いがする」
「どうしても確認したかったのよ。
普通の焼き餃子の具で水餃子作るとどうなるか、きちんと理解しておきたかった。
その逆もね。
こんな実験だと、美鈴を呼ぶの、悪いし」
「そだね」
ニンニクはそういうことか。
通常ならば、焼き餃子には入るけど、水餃子には入らないからね。
具の野菜も水餃子なら大根主体だけど、焼き餃子ならば白菜とかキャベツだ。
匂いからメニューが判らないはずだよ。
美岬が、「美鈴を呼ぶの、悪い」というのは理由がある。美鈴は、焼き餃子を相当に敵視しているからだ。
最初は、伝統的なレシピから外れたものを許せないんだとばかり思っていた。自分のルーツに対する誇りなのかなとも思ったよ。
でも、美鈴ってば、天津丼はこよなく愛しているんだよ。今ひとつ、基準が判らん。
担々麺も汁ありのほうが好きだし、日本で確立した中国料理を嫌うわけじゃないんだよなぁ。
「真の分は、きちんと水餃子の具で作るからね」
「待って。
俺にも確認させて。
想像はつくけど、それが裏切られることも多いから、俺もその中身を入れ違えたの、食べてみたい」
「ニンニク入るよ?」
「大丈夫。
明日は護衛任務ないから。嗅覚に影響したとしても、問題ない」
「ん。
じゃ、ちょっと待っていてね」
「包むのは手伝うよ」
「ありがと」
なんかもう、坪内佐への了承の旨のメールを出すの、明日でいいや。
今日は餃子だ。
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