第39話 空挺降下
遠藤と小田は、軽飛行機から飛び降りた。
耳元の空を切る音が凄まじい。飛行機のエンジン音を察知させないため、かなりの高度からの降下となる。目標地点は、夜間といえ照明があるので極めて判りやすかった。陸上競技場と野球場、隣接した駐車場までがはっきり見える。
スカイダイビングの要領で、位置を制御しながらぐんぐん落ちて行く。
落ちて行く途中で、美岬がトランクから引きずり出されているのが見えた。遠藤は、ヘッドセットを通じて自分の目標を小田に伝える。ダンプカーだ。とりあえず、美岬の安全が確保でき、相手の火器に対して一定の防御も可能だからだ。
タイミングが間に合わなければ、自動小銃を運転席に向け乱射する。だが、遠藤には成算があった。
小田が了承を伝えてくる。
お互い、暗視ゴーグルを付けている。
武装は拳銃に加え、自衛隊の制式銃である折曲銃床式八九式自動小銃を持っている。加えて、敵方には軍用犬がいるということで、銃剣も持った。
小田の降下地点は判らないが、問題ない。おそらくきちんとフォロー可能な場所に降りてくること、そしてその判断に対しては、絶対の信頼がある。
開傘をぎりぎりまで我慢する。
タイミングを間違えれば墜落死だ。究極のチキンゲームである。
開傘後は、地上から十メートルを切るまで待ってから落下傘を切り離して、ダンプカーの荷台に飛び降り暗視ゴーグルを外す。ここの風向きはゆるやかな南、ブリーフィングで聞いていた。
夜間降下で、開傘を極限まで遅らせ、かつピンポイント着地。パラシュートが開いていた時間はわずか数秒に過ぎない。
最高難度の降下だが、難なくこなす。
そもそも、「つはものとねり」への所属と併せて二重に機密となっているが、遠藤と小田は元々自衛隊の
自衛隊出身の精鋭ということであれば、レンジャー出身と言えば大抵の相手は納得してくれるので、それ以上の説明は必要ないのだ。
黒い落下傘自体は風でそのまま流されて、かなり離れたところへ落ちる。街灯は上空を照らしてはいないし、夜間で黒いパラシュートの目視は極めて難しい。
ダンプカーには偽装のための土砂が積まれていることはブリーフィングで聞いていた。そのため、音を殺しての着地の成算はあった。おまけにダンプカーがエンジンをかけた直後だったので、遠藤の行動は全く気がつかれなかった。
運は、もう一つ遠藤に味方していた。上空から確認できていたのだが、運転席が、他の連中の反対側にあたる向きで停車していたのだ。
5点着地で荷台から運転席側に転がり、淀みなく行動を開始する。ダンプカーは掴まるところが至る所にある。動き出したダンプカーの荷台から、運転席のドアのすぐ後ろまで移動し、体勢を整えてからドアを開け一気に乗り込む。体当たりで運転している奴を吹き飛ばして運転席を占領する。
アクセルを思い切り踏み込み、ハンドルを二台の車に向けて切る。視界の隅に、助手席に吹き飛ばされた男が、慌てて拳銃を抜くのが見えた。
認識と同時に、遠藤の左手の鉄槌打ちが、容赦なく男のみぞおちにめり込んでいる。
美岬の体ぎりぎりのところをダンプカーは通り過ぎ、未遂の凶行を隠していた乗用車とライトバンを弾き飛ばす。
数発の銃弾がダンプカーを追うが、拳銃で狙える距離と角度ではない。
その間に、近くの雑木林に目立たぬよう着地していた小田が、遮蔽物に沿って移動し美岬の体を掬い上げた。そのまま走り出す。その背中へ、敵の銃弾が集中しようとしたが、その射線を遮るようにサイレンを鳴らさないパトカーと、それに先導された乗用車が、弾け飛んだ乗用車とライトバンの間から乱入した。
小田は、一旦美岬を肩から下ろし、パトカーから転げ落ちるように降りる坪内佐配下のバディの援護に回った。
軍用犬がどこにいるかの確認はできなかった。
気にはなるが、事態の展開が早すぎてさすがに追いつかない。
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