第34話 絶体絶命?


 だんだん周囲に車が増えてきた。速度が落ちる。

 「高崎の先で通行止めです。このままだと止まってしまいます」

 運転している部下の男が言う。電光掲示板は見えていた。


 こいつが足止め工作なのか、実際に起きた事故なのかは突き止めようがない。直江津に迂回するか、高崎インターか藤岡インターで降りて、下道で迂回するかだ。外はもう真っ暗だ。


 いくら美しかろうが、死体を積んで走っているのはあまりいい気分ではない。この季節だから、あっという間に腐敗が進むはずだ。臭い出す前に、さっさと処理しておさらばしたいものだ。

 また、万一検問なんかに引っかかっても、死体を下ろしたあとならば、どうとでも言い逃れができる。


 一瞬悩んだが、藤岡インターで降りることを指示する。地図を読むと、高崎と違ってゴルフ場のある山が近い。

 この時間ならば、もう客はいないはずだ。ビデオに適当に収録して撤収するのに、実質十分もかかるまい。そこまでの往復にかける時間を五十分以内とすれば、一時間のロスで済む。一時間のロスならば、問題ないだろう。

 また、その一時間の間に高崎の通行止めが解除されていれば、さらにありがたい。


 あらためて地図でルートを確認する。

 藤岡インターを降りて、そのまま南下する。最初の十字路の角にコンビニエンスストアがあったので車を入れさせる。そこで、車二台と一班から三班の計六人をS村に向かわせた。


 あのガキどもの姉妹だ。解放するためだけに誘拐をするという茶番だが、自分の命が守れるかはこれに掛かっている。殺すなと、念押しをする。

 その後、更に南下を続けると家電量販店があったので、部下の一人にSDカードを購入させた。現在カメラに入っているSDカードは、たとえ消去したとしても、復元されて下手なファイルが残っていると足がつく。新しいものが欲しい。


 また、ほぼ間違いなく、SDカードを買った部下の姿は家電量販店の防犯カメラに残るだろう。こいつは、日本に対する餌だ。こいつが、トランクに入っている娘を殺したことにすればよいのだ。


 山が近づいてきた。どこまでも道なりに進んで、右折も左折もしない。大きなカーブを超え、橋を超えると野球場と陸上競技場があった。向かいは市の清掃センターだ。この辺りでいいかもしれない。清掃センターが近いってのが、ブラックジョーク的に気が利いている。


 陸上競技場脇の駐車場に、車を乗り入れる。野球場、陸上競技場とも、今日は利用者がいないらしい。広々とした駐車場がそのまま街灯に照らされ、奥の方に道が延びている。これはいい、これならば人目につかない。ほぼ夜間なのに明るいし、あつらえたようだ。


 すべての車を駐車場に乗り入れさせた後、出入り口を乗用車とライトバンで塞がせる。通り自体は案外通行量が多いが、他の乗用車の影に娘を寝かせれば完全に死角だ。

 カメラを用意させ、隣接道路に自転車などが通らないかの監視役として二人、人員を割く。

 その上で、トランクを開けさせた。

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