第33話 上空からの追跡


 生まれて初めてのヘリコプターによる飛行ってのが、こんなに焦燥感に溢れるものとは想像もしていなかった。


 坪内佐から連絡。

 パリへ直接、相手がタイムリミットの短縮を宣言してきたそうだ。

 一方で、坪内佐が交渉している対象国の相手は、実動部隊へ連絡ができないと言ってきているとのこと。予定通りって奴だな。予知能力うんぬんがでまかせだということを、自ら証明しちまいやがった。


 現在、俺と慧思は、関越自動車道上空。

 上里近辺で追いついた。

 ギリギリだ。かなり高い高度から、眼下にダンプカーを含む乗用車の群れを確認している。車の流れの中で見ると、その一群は明らかに違和感がある。ここまで飛びながら見ていて気がついたのだけど、自動車の群れは分散と集合を繰り返しながら進んでいる。

 それなのに、この一群だけは車間距離を保って、他の車群の分散集合に関係なく走っている。

 そして、一番前の乗用車から、こちらの発信に応じて返信がある。一回だけ、パリティショット向けの探信ピンを打ったのだ。美岬はあそこにいる。


 ヘリの轟音は凄まじい。ヘッドセットがなければ、まともに会話が成り立たない。

 もう一機のヘリが、すぐ後を付いてきている。向こうには坪内佐の部下のバディが一組乗っている。

 共にパイロットは、自衛隊上がりの民間パイロットだ。でも、このような追跡任務は手慣れていて、依頼されることも多いらしい。民間人だが守秘義務も負っているんだそうだ。


 向こうの機のバディと話す。

 「あの車の中には、犬がいるんですって?」

 「大型犬らしい。おそらく軍用犬だろうな。美岬さんの誘拐のときと、誘拐後の逃亡阻止に使ったのではないかな」

 高速道路のカメラが、ケージと特徴のあるシルエットを捉えていたらしい。

 想定外の事態らしくて、向こうの機では「ほうれんそう」が忙しいようだ。

 俺の同類か。やれやれ。


 とりあえず、今後の対応でいろいろとよろしくと言って通話を切る。

 次に、慧思と話す。ヘッドセットは、相手を指定して話せる仕様だった。

 「美岬、なんで計画を、俺たちに話さないで飛び出しちまったのかな?」

 「お前、本当に解らないのか? 俺の見るところ、理由は二つある。

 一つ目は、たぶん、お前も解っていることだと思う。

 美岬ちゃんがお前に、これこれこういうわけで、右腕をねん挫させて頂けるでしょうかと頼めるか? で、お前がオッケーしたとして、美岬ちゃんがそんなお前をねん挫させられるか? ってこと。

 美岬ちゃんには、両方無理だろうな。できるわけがない。

 結局、ある意味、体が反射で動く自分自身を、機械として使うしかなかったんだろうな。可哀相に。

 二つ目は、俺の想像だけど……」

 「母親絡みか?」

 「解っているじゃねーか。

 美岬ちゃんにとって、母親は絶対だからな。母親を神格化しておきたいのさ。今回の件、どう言い訳したって、どんな理由だって、リーク元は美岬ちゃんのかーちゃんだということは動かせない事実だからな。その失点を、娘である自分が取り戻さねばと思ったんだろうな。

 番外として、それでもお前に迎えに来て欲しいってのもあるだろうけど、これは意地でも言わねーよ」

 「言ってますがな」

 「さあな、言っていないぜ」

 「ふん」


 ……母親かあ。

 「慧思よー、美岬が、母親を克服するのは大変かなぁ」

 「大変だな。それだけは言える。

 だいたい、そんな話は俺に振るな。俺も答えを出せないでいる真っ最中だから、無理」

 そうだったな。すまない。

 そういったことも含めて、すべて、丸く納めたいもんだよな。

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