アマビエについて

@kurayukime

アマビエについて     ジョージ・クック

 *【これはアメリカのオカルト雑誌『Caladrius Today』に寄稿されたジョージ・クック教授の記事を許可のもと、全文翻訳したものである。】



 実のところ、私はこういったオカルト雑誌から寄稿を依頼されたときに普通は断っている。これまでもアメリゴ・ヴェスプッチの持ち帰った、いわゆる『地下の神の像』(と、クトゥルー神話的なあれやこれや)だとか、南極大陸が描かれているという『ピリ・レイスの地図』だとか、『アロエス』は恐竜ではないかとか、様々な話が持ち込まれたが、全て断っている。

 オカルト雑誌が嫌いだからではない。逆なのだ。わざわざしゃしゃり出てきて夢を壊す学者の役回りをしたくなかっただけなのだ。

 ではなんで今回は受けたのか?

 もちろん、例の『アマビエ(Amabie)』の顛末を語ることならできると思ったからである。

 私の専門は16世紀から18世紀の航海の歴史である(断ってきた依頼内容から見てもわかるだろう)。そこで私の出番というわけだ。


 事の発端は17世紀の冒険家で博物学者、ダニエーレ・カローニの『紀行誌』である。

 オランダ東インド会社の船員としてインドネシアに渡った彼は、冒険家らしく“未開の国”日本に興味を持ち、渡ろうと思ったのだが、ちょうどその頃、日本政府(江戸幕府)が鎖国政策を完成させたため、断念。それで意気が挫かれたものか、東南アジアでの冒険をすべて諦めて生まれ故郷であるジェノヴァへ帰ることになる。

 スペインからジェノヴァへ戻る途中、彼は『とある場所』で『実に奇妙な生き物』と出会う。


 『……遅い夕食を終えた私は何をするでもなく海を眺めていた。すると、海中から何か形のはっきりしないものが立ち上がり、浜へあがってきた。紡錘を割った形に三日月と魚を太い縄でまきつけたような身体をしていた。私は怖くなってまわりを見回したが、だれもいなかった。その生き物は浜へ上がると、私に向かってきた。顔にはヒトデのようなものがついていた。それは私に、こののち疫病が流行るから、その時は私の姿を描き、戸口に貼るように、と言って海へ帰っていった。私がこの恐ろしい体験を話して回ると、何人かのスペイン人は、それを『アマビエ』だと言った。』


 これがすべての発端である。

 おそらく1642年のことで、この『とある場所』というのは、バレンシアのどこかであろう。カローニはスケッチの才能がなかったと見え、日誌に書かれたアマビエの絵は中々悲惨で、どうみても不定形の化物である。

 どういうツテで知ったものか、彼はこの絵とアマビエについての体験をイギリスのエドワード・トプセルに送っている。だが、書簡に返信はなかったようだ。

 そもそも本当に書簡を送ったのかは不明で、後年に彼が自叙伝の中で言っているに過ぎないし、それもイギリスでのペストの大流行と関連付けて「やはりあれは予言だったのだ」と言いたがっているだけだとも言える。

 このことから、このアマビエというやつは自分の冒険を“盛る”ためのただのホラ話だと考える者は少なくない(SNSやウェブ記事でいくつも載ってる「解説」は大抵これだ)。疫病の流行だって大小あわせれば度々起こっていたのだし、予言というほどのこともない。彼の尊敬するコンラート・ゲスナーだってペストで亡くなっているのだ。

 しかし日誌を見るとたしかに1642年に、あのチープな絵とともに書かれているのである。

 彼が後出しで言い始めたのでないことは間違いない。


 カローニの『紀行誌』は数ある紀行本の一冊でたいして見るべきものはないからすぐに埋もれてしまった。マニアか学者に聞けば「知ってはいる」と答えるだろうが「でも、もっといい本があるよ」と言われてしまうような本である。

 だから長らくアマビエなんて誰も知らなかった。


 さて、もしかしたら私と同じ想像をしているオタクな読者もいるかもしれないから、さきにしておきたい話がある。

 予言をする怪物というと、私達に最も馴染みの深いのはピュトンだろう。アポロンが殺し、地の裂け目に投げ落とした怪物だ。東洋では予言獣はずっと馴染みが深く、中国では奇形の牛や馬が瑞獣、凶獣として現れる。最も面白いのは(カローニが行けなかった)日本にいるクダンだろう。

 この獣は人面牛身で、生まれるとすぐ予言をして死ぬ。なんと100年前の第二次世界大戦中に現れ、敗戦を予言して死んだという。

 そして日本にはソミンやゴズ、ショウキというのがあるのをご存知だろうか? これは疫病除けの御札で、これを戸口に貼っておくと疫病にかからないという民間信仰である。

 怪物オタクや私は、カローニがジャワで日本人から聞いたそういった話をごたまぜにして想像したのがアマビエではないか? と思ってしまう……だが、これは外れだ。


 ご存知の通り、先年の疫病の流行で『アマビエ』が一躍有名になり、マーヴェル・コミックスに現れたりドゥックスが歌ったりしたわけだが、いつだれが流行らせたかを私は知っている。

 2040年2月4日、とある学生がSNS上に投稿した画像が起点である。

 なにを隠そう、私の学生である。

 私は講義の中で「幻獣」の話をした。かつて実在すると考えられていた動物が実際には存在しなかった、というもので、これは決して「無知ゆえ」ではない、という話だ。その中で私は「ゴリラ」「ツノウサギ」「ユニコーン」「シーモンク」「クジラ」「恐竜」そして「アマビエ」を出した。正直言って、「アマビエ」は講義を盛り上げるためのオチとして出したわけだが、カローニの画力のおかげで予想通り笑いはとれた。

 余談だが、上に挙げた獣たちはそれぞれ「実在していたもの」「ありそうな話」「証拠の問題」「比喩的な怪物」「観察の限界」「現代に生まれる幻獣」というテーマで話した。アマビエに関しては「幻獣にならなかったもの」というテーマで少し話しただけだ。たいして話すこともなかったわけだし……。おそらく、今年からは(不本意ながら)ハウアイアイ島の生物で学生の気を引くことになるんだろう。


 さて、この学生が、まるで自分が調べたかのように私が配ったデジタル資料を抜粋してSNSに上げたところ、カローニの卓越したセンスの絵が大いに受けた。その日で千回リツイートされ、インフルエンサーに見つかって次の日には100万回リツイートされた。

 疫病のせいで大学は閉鎖になることが決まっていたので、私は少し商売っ気を見せ、ある時期集めていたカローニの資料を引っ張り出してきた。

 その間にも、あの不定形の化物を自分なりに解釈した絵が出回り始め、プロやアマチュアのイラストレーターが様々なアマビエを描き『戸口に貼っておくように!』というタグを付けて流行しだした。実際に戸口に張った写真を、あのセレブやこのハリウッドスターがやりはじめた。コスプレをするものや知った風な解説をするものがあらわれた。

 疫病はますます拡大し、病院は満杯になり、政治家は混乱し、医者同士で殴り合い、我々はマスクを奪い合って、失業者の増加を無視していたにも関わらず、アマビエのブームは止むことはなかった。

 アマビエはかつての名画の中にもあらわれ、政府でさえその「イコン」を使いはじめた。

 私が資料の山から目を上げたときには、そこら中にアマビエが広がっていて、ローマ教皇が「せめて聖ルカ像に置き換えよう」と控えめな忠告を発したくらいだ。


 これに乗っかったのが『インターナショナルキリスト教原理主義協会』(今では存在しない架空の団体だとわかっている。幻団もいいところだ。)というアカウントで、アマビエは偶像崇拝をすすめる悪魔だと批難しはじめた。たしかにコリン・ド・プランシーの本に載っていてもおかしくはなかったが、悪ノリの好きな誰かが実際にM・L・ブルトン風の絵を投稿して挑発した。

 この茶番が全国のキリスト教団体に見つかり、穏健な人々は「それよりも自分たちの信じている神に祈りを捧げるべきでは」という程度だったが、かなり過激な人々もあらわれた。戸口に貼ってあるアマビエのイラストを剥がして聖画像を貼る写真をSNSに投稿するものがチラホラあらわれ、大炎上となった。

 お返しとばかりに教会の扉にアマビエのイラストを貼るものがあらわれ、火に油を注いだ。

 SF作家のマリア・コールが「新しい悪魔か新しいルターかどっちかにしてほしい」と茶化したことがきっかけでSNSの冗談好きの連中が「新ルーテル派」を名乗りだした。

 有名なキリスト教絵画の神やキリストをアマビエに置き換えたイラストを投稿したり、祭壇にアマビエを祀り祈ってる姿を投稿したり、他愛もないと言えば他愛もないが、疫病下でギスギスした世界ではそうも言っていられない。熱心なクリスチャンは彼らを「新悪魔派」だといいだした。

 悪いことに、私達は長いこと人種差別という病を患っていて、これは人々が疲弊した時に悪化する。

 「新悪魔派」はもとを正せば、中南米の多神教的な宗教観が問題であり……云々。白人の力が弱くなってきていることが問題であり……云々。共産主義的な無宗教思想はいまだに現代の病であり……。アジア人の台頭が……。

 人種差別と融合した結果、話はまるでこんがらがってしまって、今まで無関心だった私の知人も「最近のあの奇妙なブームは、やっぱりラテン系が増えたことに関係あるのかな?」などと言い出す始末だ。

 政府に、アマビエの画像を使うことを禁止する訴えが起こる一方、アマビエ教会を作るものがあらわれ、ある企業はCMに使い、ある企業はそれを公式アカウントで批難する。


 疫病が発生してから半年も経ち、死者は10万人を迎えようというのに、私達はそんなことで盛り上がっていたのだ。

 

 この騒動が一旦収束したのは、2040年の真冬のことである。

 ダラスでアマビエの格好をして教会に入ろうとした黒人の少年3人が殺された。私はウェブ記事を見て、目を疑った。彼の格好はカローニの描いた絵と似ているのだが、似ていない。なにか別物だった。もっと不気味で、不安定なものだった。

 事件は暴動へと発展しそうだったが、政府がすばやく問題の解決を図る意思を表明し、国の代表として謝罪をするということになって、多くの教会や伝道師がそれに続いて頭を下げた。

 アマビエはポップカルチャーのミームに過ぎない、と容認する姿勢を見せたのだ。

 これはちょっと意外な光景だったが、大体は好意的に受け止められた。

 「新悪魔派」か「新ルーテル派」か知らないが、彼らはスパゲッティ・モンスターや悪魔教会の二番煎じ扱いされるようになり、大抵の人もアマビエを単なる「疫病の守護聖獣キャラ」として流行を続けた。

 私はと言えば、あの写真がどうしても頭から離れず、それでこの一年近い騒動を調べて回った。で、以上のような話を知ったわけだ。


 私はその後に続く疫病下でのハリケーンや森林火災、地震について、どう書こうか迷っている。

 と、言うのも……いや、だからこそ……私は、この親愛なるオカルト雑誌に寄稿しようと思ったわけなのだが……つまり、ここから先の話はオカルトを否定する話なのだ。


 年末のことである。

 私は結構うまいことオンライン授業をこなせているので自信満々だった。一人でパソコンに向かって話すのも無理だし、大勢の学生の顔を画面上で見るのも無理なので、私は同僚の講師にむかって一時間ほど講義をし、それを録画したものを学生たちに資料とともに配布した。残りの三十分をライブ配信で質疑応答にあて、質疑は音声だと混乱すると思いチャットに限定した。

 我が良き友はちゃんと相槌を打ってくれるし、的確な質問も投げてくれるので実に話しやすい。私はノリノリで喋り倒し、はしゃいだ中年の話を学生が聞くというだらしないスタイルがなぜか上手くハマった。

 その友というのはSF作家でもあり、あるサークルの会員である。それはSF作家のみが入れるクトゥルー神話の愛好会だそうだ。その彼がこう言った。

「知ってる? いま世界中で奇妙な夢を見る人たちがいるんだ」

「ああ。ナショナル・ジオグラフィックの記事で見たよ」

「ラブクラフトの書いた小説の中に、そういう描写があるんだけど」

「それも知ってる」

「最近の奇妙な夢の中に結構な割合でアマビエが出てくるんだ」

「君には格好のネタだな。でも私に言わせるとそれは例の騒動が無意識に影響を与えているだけだな」

「そんなことはわかってるけど、僕たちは人間の心のある面を恐怖物語として抽出することが仕事なんでね」

「ふうん」

「で、詳しい君に色々聞きたいと思ってさ」

 そこで私は最近調べたことを語ったのだが、彼は「その話はちょっと戸惑うな」と言って、しばらく考え込んでしまった。

 私はてっきり良いネタを提供できたのだと思っていたので、その反応に少し困惑した。

「使いものにならないかな?」

「はっきり言って、扱いにくい……。あまりにも僕たちにハマりすぎてしまうし……」

「つまり?」

「だって君はアマビエが悪魔か悪い怪物だって言うんだろう?」

「ああ。だから君たちにはピッタリかと……」

「そりゃピッタリだけど、考えてもごらんよ。せっかく騒動が下火になったっていうのに『やっぱりあれは悪魔の図像でした』なんて言ったら一波乱おきるぜ? それに……本当は広めてはいけない図像だなんて」

「ただの伝説じゃないか。しかも忘れ去られた言い伝えだよ? そりゃ、一時は話題になるだろうし、オカルト好きは盛り上がるだろうけど……」

「いいかい、踊りと祈りは似てるんだ。十字を切る踊りも意味が備われば祈りの動きになる。でも、まるで知らない人が見れば同じ動きなんだ。ただのイラストが、ただのイラストではなくなってしまうんだよ。僕たちは亡くなった少年三人のことを知らないわけじゃないだろ?」

「じゃ、言わないほうがいいってのか?」

「疫病騒ぎがおさまってから言うことにしよう」

「ちょっと寂しいな。せめてどうにか小説にできないかい?」

「……考えておく」

 彼は私のために一つの小説をウェブ上で発表した。

 それは中世ペストが流行したときの話だ。ある町で奇妙な怪物の絵が疫病除けとして流行る。だがそれは恐るべき古き神々の姿であり、その絵が流行した町の人々は古き神の夢を見始め、夢の中から現実世界に現れた古き神によって町は灰燼に帰すという話である。

 これはある程度の人々に読まれたようで、私としてはそれで満足しようと思った。

 ところが、である。

 ハリケーンや地震が続いたことで私は考えを改めた。

 あの小説が「予言的だ」と言われているのを見てしまったからだ。

 私はオカルト好きだがオカルトは信じない。

 だが、もしオカルトを信じるオカルト好きが私の持っている資料を見つけて不完全な形で広めたらどうなるだろう? そいつが人々を焚き付けたら?

 そんなやつが出てくる前に私がさきに書いておくべきだろうと思ったのだ。


 カローニがバレンシアにいたころ、彼にはピットーニという召使いがついていた。ピットーニは召使いと言うよりも友人で、おそらく何らかの犯罪に関わったか借金取りから逃げるために名前と姿を変えてカローニに付き従っていたようだ。日誌に度々出てくる人物である。

 彼は彼で素人博物学者で、一二冊本を出版したらしいのだが、現存するものはない。

 このピットーニとはバレンシアで別れたようで、その後に彼が出した手紙がカローニの資料の中にある。詳しい経緯は省くが、晩年カローニが市に寄贈した図書の中にピットーニから送られた本があり、その中に貼られていたのが、それである。


 アマビエの話をたいそう面白がったピットーニはその後、あちこちで話を聞き回りだした。ほとんどの者は知らなかったが、何人かの古老から聞かされた話がある。


 むかし、イタリアからやってきた男がいた。その男は錬金術師で、イタリア追われ、流れ流れてスペインまでやってきた。その男は籠もりきりで仕事もしていないのにたいそう羽振りがよかった。

 ところが、豪華な食事をしているというのに日に日に痩せ衰えていき、誰が見ても死に取り憑かれているのが明瞭だった。彼が悪魔と契約したのは明らかだった。

 ある日、とうとう彼は悪魔に理性を奪われてしまった。

 夏だと言うのに冬の服を何枚も着込んで「アモ・バ・エ……アモ・バ・エ……」と無意味な言葉をつぶやきながら町中を徘徊し、何日か後には海へ入っていってしまった。死体は上がらなかった。

 それからである。

 新月の夜や疫病が流行ると、すっかり悪魔となりはてた男が海から上がってきて、自分の姿をよく見て、それを世に広めよ。と人に迫るようになったのは。

 お前も悪魔の使いになり、私の姿を広めよ。私の姿があるところには、死、不和、疫病、水害、地震、火事が起こるだろう。私の姿を決して忘れるな。

 そして、また「アモ・バ・エ……アモ・バ・エ……」と唱えながら、海中へと帰っていくのである。

 それでこの悪魔をアモバエと言う。


 賢明なピットーニはこの話を面白がりながら訝しみ、「私はかつて自分の姿を描かせる悪魔の話を聞いたことがある」と言い、「また海から上がってくる死者の話も」と言う。彼なりの分析では、それらの話が混ざったのだろうということだ。もはや確かめようのない話だが、彼の分析は大きくはずれてはいないだろう。


 つまり、私が言いたいのはこういうことだ。

 アマビエというのは確かに悪魔の図像である。しかし、そもそも、その話自体が幾つかの話が集合したものだろうという可能性があるのだ。つまりは、アマビエないしアモバエという悪魔は存在しないのだ。

 カローニが描いたチープで不定形な姿とは似ていない現代のあの不気味でより不定形な図像は、まるきり幻の産物なのだ。

 確かに疫病下でこの図像は広がり、その後に大天災が続いた。

 ハリケーンがあり、地震が続いた。

 災害の複合は2300万人もの死者を出した。

 それは確かに恐ろしいものだ。未曾有の災害だ。だが、原因ははっきりしている。天災のせいだ。

 存在しない悪魔のせいではない。

 なぜ人々の夢の中にあらわれるアマビエはあんなに不気味なのだろう?

 なぜカローニの笑いを誘う絵と違って最近のアマビエはあんなにも不気味なのだろう?

 答えは、私達が恐怖心に取り憑かれているからだ。

 言い換えれば、その姿こそがアマビエの本当の姿なのだ。

 恐怖こそが悪魔の本当の姿なのだ。

 もし存在しない悪魔に原因を帰すなら、恐怖を広めることになるだけであり、不和を広げるなら、それこそが悪魔の罠であると私ははっきり言っておく。

 踊りは踊りのままにしておかねばならないのだ。



※【訳者追記】

 記事は2041年3月7日に書かれたものである。

 現在、アメリカ全土で起こったアマビエに関連する300件あまりの集団殺人事件や暴行にクックは自責の念を感じているが、ブラウン大学も航海史学会も公式に「彼に責任はない」と言っている。私もそう思う。

 彼が懸念した以上に一般の人々が俗悪なオカルティストに成さがり、恐慌をきたしたに過ぎない。

 一例を上げれば「アモ・バ・エ……」という言葉を「amo ba e l」つまり「我が愛しきバエル」(バエルとは悪魔の名だ)に違いないと言い出したものは後先を考えないオカルティストであり、それを拡散した同調者も同じだ。

 クックは今大学も辞し、ニューイングランドのどこかへ隠棲しているそうだ。

 アメリカが灰燼に帰すのを見たくないから……だそうだ。

 

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