幕間 千羽と京と明日の空

『さて、私達は高校に奇襲を掛けてきたサグメ軍を見事退けました。完全に不意を突かれながらも死人が出なかったのは良かったと言うべきでしょうか。『そも奇襲掛けられてる時点で問題』と上の糾弾に回るべきなのか、とも思いますが』

『……まぁ上が問題なのは事実だし糾弾しても良いとは思うけどぉ。それはともかく、有希。問題はあの妖刀、〈虚空〉についてなんだけどぉ。彼女、あの半妖が預かったんでしょぉ?』

『というより彼女……便宜上、そらさんと呼ぶけれど。黒羽君とは古い付き合いみたいだし、何ら問題は無いと思うわよ』

『問題は無い、と来たか。それならいいんだが、一先ずは警戒しつつ様子見で行こう。牛若君、日辻君、羽生君。いいね?』

『勿論です、根住ねずみ会長』

『りょーかいだよぉ。ね、有希?』

『……私は好きにさせて貰うから』


「……と、まぁこういう話をしてたんだが。千羽の姫サンはどう思う?」

 赤髪の青年の報告に純白の獣耳と尾を携えた着物の少女がうーんと考え込む。そして暫く黙り込んだかと思うと、はっと思い出したように口を開いた。

「そういえば、同じような事を千羽軍の幹部も言ってたんですよね。虚空は我々が預かるべきだー、みたいな話もありましたし、上の責任問題だー、とか」

 白毛の獣の声に赤髪はチッと舌打ちする。彼は敵軍を裏切って千羽側……というより鴉の半妖の味方となった身。故に軍の預かりでは無く響個人としての預かり――を名目として無罪放免としているのだが、その処遇に不満を露にする千羽の正規軍も一定数存在する。当然、関係は劣悪な状態だ。

「まぁ凪の奴みたく軍に入れ込まねぇ子供にデカい顔されたく無ェんだろうな。しかし、上の問題っつーのは」

「千羽の主……私の父親ですけれど、一部からは目障りだそうで。お偉方が立場欲しさに興じる下らない責任論争というものです。何とかしたいんですよ、目の上のたんこぶは」

 獣は深い溜息を零す。そして佑介に聞こえないように、小さな声で呟いた。

「……私の暗殺の噂も流れてるくらいには、ね」


 京の山奥に聳える絢爛豪華な御殿。その一室である大広間に妖三人、そっと膝を突く。

 一人、黄土の髪の獣耳の童女。

 一人、容姿端麗な赤髪の美青年。

 一人、巨躯を誇る六の腕の大男。

 その一人一人が一騎当千、万夫不当とされる最上位の妖。そんな彼等の見据える先の部屋の幕、その裏には彼等三人が束になろうとも敵わぬ程の妖力の塊が在った。

山吹やまぶき百々もも鬼島おにじま信家のぶいえ獅童しどう八卦丸はっけまる。我が三傑よ』

『はっ、天探女アメノサグメ様』

 幕からうっすらと影が動く。堕ちた鬼神、天探女の名で呼ばれた影は、ふふっと嗤いながら口を開いた。


『盆暮に千羽を落とす。総員、それまで備えよ。邪術師の如き勝手は赦さぬ』

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