幕間 元軍師の憂鬱

〈此度の戦のレポート〉

 開戦―一五時〇〇分

 終戦―一六時四一分

 千羽側の被害―無し(開戦前に負傷した者を除く)

 敵軍側の被害―敵将のみ重傷。ただし全員が転移の術式で撤退した為に詳細不明

 調査事項―敵軍の詳細情報、翡翠の少女の正体


「……全く、調べる事が多いわね」

 手にしたメモを確認して、ローブを被った女性は溜息を溢す。

 彼女は昨日まで敵軍、化狸の将から軍師と呼ばれていた。しかしそれは将が所属する組織の情報を手に入れる為であり、軍師として使える気などは皆無であった。つまるところのスパイ行為である。

 彼等の存在にいち早く気付いた彼女は、最初に密偵として千羽に潜入していた赤鬼の青年、鬼島 佑介に声を掛けた。

『……何だ、テメェ』

『安心して。私は貴方の敵ではありません。――もし、貴方が不本意でこのような事をしているのならば、私に協力してはくれませんか?』

『……んで、見返りは?』

『そうですね。千羽での住居と勝利、ではどうでしょう』

 そうして、鬼島を懐柔する事に成功した。彼を言いくるめて黒羽 凪の下に仕向け、そして結託を組ませる。千羽の令嬢、白部 響と氷室 涼葉までくっついて来たのは予想外だったが、結果として敵将を打ち倒してみせたのだから文句は言うまい。

 ……その後は堂々と狸の将に叛旗を翻し、情報を搾り取るつもりだったのに。

「……流石に保険は掛けてたか。天探女アメノサグメを名乗ってる奴が誰かは知らないけれど」

 ローブの影で歯噛みする。後一歩の所で計画が失敗したのだ、その悔しさはかなり大きい。自分は暗躍なんてする柄じゃないんだ、なんて言い訳で自分を誤魔化したくなる程に。

「……駄目よ、弱気になってちゃ。折角希望が持てたのだもの。前を向いてなきゃ」

 女性は己の頬をびたんと叩き、気を奮い立たせる。その衝撃でローブがずれ、少しだけ瞳を覗かせた。


 ――それは、黄金色に輝く蛇の瞳。神代より受け継ぎし、魔の瞳。

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