第22話 誓い
ジュエリーとルミはリーサに呼ばれてギルドに来た。
ジュエリーはフードを手で押さえつける。ガーレンと対決以後、包帯を無くしてしまったのだ。常に身に着けていたものが無くなると落ち着かない。不安げに目をキョロキョロさせる。
「ジュエリーさん大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない」
ジュエリーはたまたま通った老年男性に向かって話す。
「お主だれじゃ?」
「ジュエリーさん私こっちです」
「ああ、すまなかった」
と言いながら足元にいるアルティーに話す。
「ガアー」
「それ、アルティーです」
「動揺してつい……」
「動揺しすぎです。もー行きますよ」
ルミはギルドの扉を開けると視界に入った光景に目を丸くする。
ジュエリーとルミの目の前では真っ昼間から冒険者達が集まり酒を飲み交わして騒いでいる。
中には上半身裸でテーブルの上に立ち踊っている冒険者もいる。魔物の脅威から人々を無事に守り通してみんなお祭り気分のようだ。
「な、なにこれ……」
「馬鹿だな」
状況についていけないルミと冒険者に冷たい視線を送るジュエリー。
「ようルミ!」
立ち尽くしていると名前を呼ばれる。ケイトとセリアとサニいつものメンバーがそこにいた。
「驚いたただろ。俺達が来た時にはもう始まってた。って誰アンタ!」
ケイトは目を見開いて驚く。それはセリアとサニも同じだった。包帯を外した今のジュエリーは違和感しかない。はっきりいって別人だ。
「今さら驚いても遅い。これがジュエリーさんの真の魅力です」
自分のことではないのにルミは腕を組み得意げに話す。
「何でお前がドヤ顔してんだよ」
「ジュエリーさんって美人さんなんですね」
「本当に綺麗」
綺麗という言葉を聞き男性冒険者達全員が振り向く。
一瞬で男達はジュエリーの周りに集まる。
「ありがとう!アンタのおかげで町を守れたよ!」
「結構強いんだな、ビックリしたぜ!」
「俺とパーティー組まないか!」
「あっずるい!じゃあ俺も!」
男達はジュエリーと仲良くなる為に次々とパーティーの誘いをする。
ジュエリーは男達の勢いに困惑する。それを見たルミは直ちに止めに入る。
「はっはっは!若いことはいいことですな!ねえケイトさん!」
いつの間にか現れたセリフの執事ルワードは笑いながらケイトの肩を叩く。
ヘルガードが町に降りた時、町の異様さを察知したルワードはギルドに来てセリアの手伝いをしていた。ヘルガードが何匹か襲い掛かって来たが、ルワードの拳で次々と倒されていった。
それ以降、セリアが心配で屋敷から後を付けてきたのだ。
「何でアンタがいるんだよ」
「ケイトさん、まさか心変わりしたとは言わせませんよ」
「何が!?」
ルワードはケイトがセリアに思いを寄せていると勘違いしている。執事であるルワードにとってセリアの結婚相手は重要なのだ。
「ルワード!来なくていいって言ったのに!」
「すみません!でもお嬢様が心配で!」
「私はもう子供じゃないの!」
「おじょうさま〜」
老人が少女に泣きつく姿を真顔で見るケイトとサニ。
昨日の一大事からは想像できない馬鹿騒ぎようだ。
「はいはい、少しいいですか。ジュエリーさんに用がありますので」
呆れた様子で手を叩きながらジュエリーを取り囲む男達の輪に入ってきたのはリーサだ。
「リーサさん!」
「お久しぶりです、ルミさん。昨日の件でお伺いしたいことがあるのでよろしいですか?」
リーサに連れられてジュエリーはギルドの個室に連れられていく。
個室に入るとクッション付きの長椅子に座らされる。
「お聞きしたいのは――」
「ガーレンのことだな」
「はい。何があったか教えて頂けますか」
ジュエリーは頷き起こった全ての出来事をリーサに話した。
ガーレンは英雄になる為にヘルガードに町を襲わせたこと、そして邪魔になるSランク冒険者2名とエルフ達を殺し、Aランク冒険者に手をかけたこと。
ガーレンの悪逆非道の行いにリーサは言葉が出てこなかった。
「……そうですか……これでガーレンさんの処分は決まりました。後日騎士団が町に来るでしょう」
騎士団とは町から離れた王国にある組織だ。ガーレンほどの大罪人を一つの町で対処することができないため王国所属の組織、騎士団が連行しに来るのだ。
「ガーレンは今どこにいる」
「町の診療所で治療を受けて意識が戻らないままです」
ジュエリーの一撃を食らったガーレンは現在診療所で意識が戻らないままだ。
発見当初はガーレンが黒幕だと知らずにAランク冒険者同様に治療を受けたのだ。
一命を取り留めたのはジュエリーの筋肉量の少なさにより即死ほどの傷に至らなかったのである。大剣の一撃がジュエリーでなかったら間違いなくガーレンは即死だった。
「冒険者達は真実を知っているのか?」
「知っているのは被害にあったAランク冒険者の方達のみです。今ギルドにいる方達は知らないはずです」
今騒いでいる冒険者達は皆ガーレンの悪行を知らない。リーサは当事者であるジュエリーの証言を聞くまでは真実は公表しないように決めていた。真実を明確にしなければ不確かな情報を流してしまう危険性があるからだ。
「ジュエリーさん、今回の件に関してギルドの職員として、そしてこの町に住む一人の人間として誠にありがとうございます」
リーサは立ち上がり深々と頭を下げる。
「別に礼を言われることじゃない。そうしたいと思ったからそうしたまでだ。このギルドには世話になったからな。それにあの娘の悲しむ顔を見なくて済んだ」
「以上でお聞きしたいことは終わりです。時間を取らしてしまいすみません」
話が終わり個室から出てルミ達がいる場所へ戻る。戻るとルミとサニとセリアの女子3人組で椅子に座り楽しく談笑している。
「あっ!ジュエリーさん!」
「用は済んだ。私は先に帰るからな」
「じゃあ私も」
「まだ居とけ。楽しいんだろ」
談笑中のルミを置いてジュエリーは一人でギルドを出る。ようやく戻った平穏を邪魔したくないと思ったからだ。
外は時間が経ちすっかり夕暮れ時を迎えていた。
家までに帰る途中、町の広場のベンチにケイトが座っていた。
自然とお互いの目が合う。
「ジュエリー……」
「こんなところで何をしている?」
「自分が強くなるしかない……あの言葉の意味、俺にも分かったよ。助けることできなかったみたいだ。約束守れなかった」
「何の話だ?」
「……亡くなったんだ。この前俺達で会いに行った発見者の人……」
亡くなったのは木こりの仕事の際、西の森で死体を発見した男性だった。
「さっきその人の娘と会ってさ、泣きながらウソつきって言われたよ。何度も助けてって呼んだのに誰も来てくれなかったみたいだ。守るって約束したのに、俺は何もできなった……」
ケイトは下を向き拳を強く握る。救ってくれなかった怒りと父親を失った悲しみが混じった少女の顔が脳裏から離れなかった。
「そうか……」
「俺さ弟がいるんだよ。まだ小さくてさ、父さんが早くに病いで亡くなって母さんが1人で育ててくれたんだ。冒険者を始めたのも金を稼いで母さんの負担を減らす為だった。だから別に人助けがしたかったわけじゃない。全部自分の為だ。なのにさ……苦しいんだ……悔しくて、辛くて、俺が助けていればって思うんだ……」
声が徐々に震え、涙が止まらない。泣き顔は見せないがジュエリーは察する。
一人の少年が抱えるにはあまりにも重い事実だった。気持ちの整理ができずに通りかかったジュエリーに全ての思いをぶちまけてしまう。そんな自分にケイトは驚く。
「何言ってんだ俺……お前に関係ないことまで……」
「過去を変えることはできない。残った者は全てを背負って生きていくしかない。だから誓え、亡くなった者に。これからどう生きるのか。その生き方から決して逃げるな」
ジュエリーはそう言い捨ててケイトの前から姿を消した。
今のケイトに同情や慰めなどは必要ない。それをしてもケイトの心は救われないからだ。何を言ってもケイトは自分を責める。責めた後、無気力で空っぽな人間にならないためには未来を想い原動力にするしかない。ジュエリーはあの時そう判断した。それしか乗り越える方法を知らないからだ。
自分がエルフを憎み復讐すると誓ったあの日のように。
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