第21話 朝日の輝き

 クーシーの心には焦りが生じていた。相手の発言に惑わされるなど自分らしくない。

 常に冷静でただ主の命令を実行すればいい。それが我の喜びであり生きる意味だ。  

 分かっているのだが、魔物を庇う少女がクーシーの心を揺れ動かす。

 クーシーの俊敏さや攻撃のキレが失われていく。

 突然、クーシーの耳にキーンと甲高い音が流れる。

「主!?急がねば!」

 クーシーはこの音の正体を知っている。自分にだけ流れてくるこの音は主の危険を示してくれる。

 危機察知能力――主と認めた人間に危険が迫った時気がつくことができるクーシーの能力だ。

 クーシーは主であるガーレンのもとへ引き返す。ガーレンが危機に面したということは計画は失敗だ。

 クーシーが町を壊滅しガーレンが助けに入り、人々を脅かした魔物としてクーシーはガーレンの手によって殺される。

 これがガーレンの立てた計画だ。


「逃がすかよ!」

 背を向け逃げ出すクーシーにケイトは剣を投げつけた。

 剣は回転しクーシーの後ろ脚を斬りつける。

『吹き飛べ!』

 クーシーは空に向かって全力で咆哮する。巨大な竜巻が生じ冒険者達の行動を止める。

 竜巻が止み目を開けるとクーシーの姿は消えていた。


「いない……逃げたのか。何でだ……」

 力の差は歴然だった。魔物の方が圧倒的に優位だった。何故魔物が逃げ出したのかケイトは疑問に思う。

 そんなケイトとは反対的に後衛職の冒険者は魔物を追い払ったと声に出して喜んだ。仲間と共に生きる喜びを分かち合う冒険者達。

 サニは全身の力が抜け膝から崩れ落ちる。奮い立たせていた足はもう限界だった。


「ねえケイト、セリアと無事なの?」

 途中から参戦した何も知らないルミが聞く。

「そういえば、あいつらは……」

 ガーレン率いるAランク以上冒険者とジュエリーは西の森の探索に行ったきり戻ってきていない。ケイトはもしかしてと目を見開く。

「今すぐ西の森を見に行くぞ!」


 ***

 ガーレンが企てた自作自演の英雄譚計画は町の冒険者とジュエリーの活躍によって失敗に終わった。数多くのヘルガードが町に放たれたが冒険者が討伐し被害は最小限に抑えられた。ヘルガードに襲われた人々の治療は回復魔法が使える冒険者に任された。治療は順調に進んでいる。

 ガーレンの不意打ちで毒に苦しんでいた9人のAランク冒険者達も後から捜索に来たケイト達に発見され命を取り留めた。彼らもまた治療を受けている。

 そしてガーレンの計画を阻止したジュエリーは今――


 ――目を覚ますと朝日の輝きが眩しくて手の平で視界を覆った。

 見慣れた部屋かと思えば自分の家で眠っていたようだ。

 ガーレンを倒した後の記憶がない。寝息が聞こえ視線を下げる。

「そうか、お前が助けてくれたのか」

 ルミがベッドの上に頭をつけてぐっすり眠っている。

 長い時間ジュエリーを看病していたのだ。


「ルミ」 

 ジュエリーはルミの頭を優しく撫でた。

 ルミは微かに目を開け手で擦る。ぼやけていた視界が鮮明になっていく。

「ジュエリーさん!」

 ルミは状況を理解するとジュエリーに抱きついた。ジュエリーが無事だったことと久しぶりに会えた嬉しさが同時に押し寄せてくる。

「ジュエリーさん、すっごく綺麗ですね」

 今までルミが知っているジュエリーの外見は白い包帯にマントで身体全体を隠していた。ジュエリーの瞳は宝石の様に綺麗で顔立ちは整っている。

 こうして目を合わせて話せるのも初めてだ。


「あの後どうなったんだ?」

「ガーレンさんは捕まりました。ヘルガードの脅威が去った後、森に行った冒険者達をみんなで探しに行ったんです。そしたら毒で倒れている冒険者の方々やジュエリーさんとガーレンさんを発見しました」


「そうか……ありがとなルミ、ここまで運んでくれて」

「ケイトとサニが手伝ってくれたんです。でもジュエリーさん軽いから楽ちんでしたよ!セリアも後から来てくれて回復魔法で手当てしてくれました」

「みんな無事だったんだな」

「あとリーサさんがジュエリーさんが起きたらギルドに来て欲しいと言ってました。少し休んでから行きますか?」

「いや大丈夫だ。今すぐ行こう」












































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