第19話 言語を司る魔物
弟のカイトを救ったケイトは避難所のギルドに戻った。
「魔物を倒すなんてにいちゃんすごいんだなー!俺も大きくなったら冒険者になる!」
「冒険者は危ないからやめとけ。お前は安定した仕事につけばいいんだよ」
「子供扱いするなよー、あっ!かあちゃん!」
弟カイトは母親を見つけると一目散に駆け寄る。
「カイト!どこいってたの!心配したのよ。ありがとうケイト。サニちゃんもありがとうね」
母親はカイトを抱きしめながら涙ながらにお礼を言う。
ケイトとサニは微笑み合う。
「新手の魔物が出た!残ってる冒険者はすぐに町の入口まで来てくれ!」
安心したのもつかの間、新たな魔物が出現したと冒険者が大声で駆け寄る。
「新しい魔物だと……」
ギルドにいる冒険者、受付嬢全員が息を呑む。ヘルガードの討伐は冒険者達により上手くいっていた。怪我人はいるが致命傷を負う者は誰一人いない。このまま無事に終わると希望が見えていた。
「行こう、サニ。この町は俺たちで守るしかないんだ」
後ろを振り返れば避難した人達が大勢いる。
戦うしかないとケイトは決意を固める。
ケイトの決意に他の冒険者たちも自ら鼓舞する。
残りの冒険者は町の入口まで向かう。
町の入口に突如現れた魔物は全身エメラルドグリーン色の巨大な犬だ。
魔物は立派な四足で立ち上がり目の前に立ち塞がる人間達を鋭い眼光で睨みつける。
『人間どもそこを通せ。貴様らでは我に勝てぬ』
魔物の言う通り力の差は歴然だった。魔物によって負傷した冒険者は7人。致命傷までとはいかないが戦闘を続行することは厳しい。
目の前で倒れる仲間を見て手の震え、足の震えが止まらない者がほとんどだ。それでも立ち向かおうと必死に武器を握りしめているのはこの魔物だけは通してならないと肌で伝わるからだ。
この魔物を通せば町は壊滅状態になる、それは誰もが分かっていた。
「なんだよ、これ……」
到着したケイトとサニは目の前光景に言葉を失う。
魔物が放つ威圧に心がざわめく。今まで対峙した魔物とは格が違うと一瞬で理解した。間違いなくAランク以上の冒険者が討伐するレベルの魔物だ。Bランクの自分が敵う相手なのか。自分と同等の冒険者たちは負傷して倒れている。
『少年よ、恐れているのだろう。その若さで自ら死を選ぶ必要はない。そこをどけば、命は取らぬ』
「嘘……魔物が何で言葉を……」
隣にいるサニは絶句する。言語を話す魔物が存在するなどありえないことだった。
『約束しよう。我はヘルガードのように本能に身を任せない。決して命だけは取らぬ。ただ町をかき乱すだけだ』
「ふざけんなよ……お前らのせいで怪我した人がたくさんいるんだぞ。今も恐怖に怯えているんだぞ。これ以上、町の人に怖い思いはさせない。絶対にお前を通さない!」
ケイトは魔物に剣を向ける。それは魔物の提案に逆らう表れだ。
『そうか、歯向かうか』
ケイトは剣を構えて魔物に向かい走る。他の近距離型の冒険者達もケイトの勢いに乗り走り出す。
サニや遠距離型の冒険者達は弓矢や魔法で支援する。
放たれた矢や炎、水、風の弾丸が一斉に魔物へと向かい攻撃する。
魔物は大きな口を開け咆哮する。その吠えは風の渦を生じさせる。
全ての攻撃は風の渦によって遮られる。矢の軌道は変えられ魔法は無に帰する。
魔物は俊敏な動きで走り向かう冒険者を翻弄する。その動きは疾風のごとく大地を四足で駆け回る。
冒険者は立ち止まり目で魔物の動きを捉える。何度も剣先の向きを変えて構える。
しかし目で追って構えても魔物の素早さには追いつかない。
魔物の鋭い爪で肉を引き裂かれ、あまりの痛みに次々と冒険者が倒れていく。
気づけばケイトの周りを魔物が駆け回る。どこから攻撃されるか焦りが生じる。
『自分の決断を悔め』
魔物はケイトの背後を取る。振り返り背後に迫っていると気づいたとき思考が停止する。
どうやったとしても攻撃を躱すことはできない。
その瞬間、ケイトは吹き飛ばされた。魔物の爪による攻撃ではない。
吹き飛ばされたことにより魔物の攻撃を回避したのだ。
「いてて……」
ケイトは訳が分からず目を開ける。
「ガアー」
「アルティー!?なんでここに……」
目を開けるとケイトの腹部にアルティーが乗っかっている。
アルティーは首を傾げてケイトを見つめている。
「――助けに来たよ。ケイト、サニちゃん」
そこに現れたのは……
「ルミ……」
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