第16話 突然に

 サニの練習とルミの休憩が終わり2人は町に戻って来ていた。

「はあ~疲れた~、もうくたくただよ~」

「だねー」

「ん?見て見てサニ。あそこに美味しそうなお肉があるよ」

 ルミは通路の隅の方で網で肉を焼いている屋台を発見する。屋台の男性が周囲に声かけをしながら肉を焼いている。香ばしい匂いが漂ってくる。

「あれ食べるの?」

「いいじゃん。買っていこうよ」


「――ルミ?」

「え?」

 急に呼ばれて条件反射で振り返る。そこにいたのはジュエリーでもケイトやセリアでもなかった。

「どうしてあなたがここに……」

 ルミの目の前に現れたのは3ヶ月前暮らしていた施設の職員の女性だった。感動の再会になるはずもなく何とも言えない微妙な空気が流れる。それもそのはずルミは施設を家出した身だからだ。


「それはこっちのセリフよ!何故あなたがこの町にいるの!今まで何してたのよ!みんな心配したのよ」

 ルミが暮らしていた施設はこの町から離れた所にある。普段町に買い物に来ることはなかったのだが傷薬を切らしており補充する為に来ていたのだ。


「いや、ここで言っても仕方ないわね。帰るわよルミ。院長にきちんと謝るのよ」


「ルミ……」

 ルミの事情は聞いていたが突然このようなことになるとは思ってもいなかった。サニはルミの様子を伺う。

「サニ、みんなにありがとうって言っといてくれるかな」

「……え?」

 ルミは職員の女性のもとへ近づく。女性はサニに会釈をしてルミと一緒に町の出口へと向かう。ルミは俯いておりサニの目からは表情を読み取ることが出来なかった。


 突然の別れだった。ルミがケイトやセリアに何も言えずに自分達から去ったことがとてつもなく悲しかった。

 それでも引き留められなかった。ルミは家出をした。心配していた人がいる。それを思うとサニはルミを引き留める声が出なかった。


 ***


「ルミが施設に戻った?」

「うん、昨日施設の人と町で会って帰った。みんなにありがとうって言ってたよ」

「ルミちゃん……」

 サニはギルドで昨日起こった出来事をケイトとセリアに伝えた。二人とも驚きを隠せなかった。ルミの事情からいつか別れが来ることは分かっていた。けれど昨日まで一緒にいたと思うと心の整理が追い付かない。


「別れぐらい言えよな……」

 3ヶ月間という短い期間だったがルミとは苦楽を共にしてきた仲だ。ショックはあまりにも大きかった。


「私もルミちゃんにありがとうって伝えたかったです」

「でもルミの施設ってどこにあるのか分からないからな」


「その話は本当か?」

 突然声が聞こえて振り向く。ジュエリーが突っ立っていた。

 ケイトは昨日のことを思い出し顔を背ける。

「ジュエリーさん!?なんでここに?」

「本当だよ。みんなにありがとうだってさ……」


「そうか……残念だな。でも私は戻って来ると思うぞ」

「ガァー」

 ジュエリーの足元からひょこっと出てきたのはアルティーだった。

「それってルミちゃんの魔物!?」

「なんでアンタが持ってるんだ?」


「そこらへんに転がってた。ルミならコイツを探しにまた来るだろ」

(ルミ、待ってるからな……)


 それからルミが欠けた後、3日間が経過したがケイト達は冒険者活動を続けながら帰りを待っていた。

 ジュエリーはエルフを探しを続けた。しかし情報がない中でエルフを見つけるのは困難であった。

「ほら、食え」

 ジュエリーは程よく焼いた肉をアルティーの前に置く。アルティーは一度ジュエリーの方を向き肉を啄む。ルミがいない間、アルティーのお世話はジュエリーが代わりにしている。

 星が輝く空を見上げジュエリーはルミに思いを馳せる。

「今日は夜空が綺麗だ……」


 ***


「おい、ルミ今日は星が綺麗だぜ」

 ルミが施設の二段ベッドの上に横たわっていると同じ部屋にいるロイが窓越しから夜空を見上げる。


「うん、そうだね」

 ロイはルミの素っ気無い返事に頭を掻く。施設に帰って来て3日間が経つというのにルミはずっと落ち込んだままだ。なんとか元気を取り戻してもらおうと色々な話題を振ってみるが反応は今みたいな返事しか返ってこない。


「ルミが心配なのは分かるけど、疲れてるんだからそっとしときなよロイ」

「何だよマール。別に心配なんかしてねえよ」

 同じ部屋にマールが入ってくる。ロイとマールはルミと同じ16歳で親がおらず、この施設で育てられた。施設では年齢別で部屋を分けており、ルミは幼い時からロイとマールと一緒の部屋で暮らしていた。

 町を去ったあの日からルミは心に穴が開いたような感覚が続いている。

 町のみんなが今どうしているのか気になって仕方がない。アルティーともはぐれてしまった。サニと別れた後もう一度無断で施設を出れば縁を切ると言われた。

 物心つく前からこの施設でお世話になった。血の繋がりは無くともルミにとって施設にいるみんなは家族のようなものだ。だから行動を起こすことは出来ない。


「今頃みんなどうしてるんだろ……」

 ふと呟く。別れを言えずに去ったことがあまりにも悲しい。ルミは体を丸めて毛布にくるまった

 ロイとマールは今は関わらずにそっとしておこうと判断して部屋の電源を静かに切った。

 












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