第15話 燃え盛る憎しみに

 ギルドに来たケイトはセリアを探す。どうやらまだ来ていないようだ。

 集合時間が迫り気になりだすケイトの後ろで扉が開く音が聞こえる。

「遅いぞーセリ、ア……」

 セリアかと思い振り返るとジュエリーが立っていた。

「何でお前!?」

「私も呼ばれてたから」

「お前は関係ないだろ!冒険者じゃないのにいちいち――」


「あれ?ケイトさんとジュエリーさんだけですか?」

 11時になりリーサが入ってくる。

「いや、あと一人来るんでもうちょっとだけ待ってください」

「う~ん。人を待たせてるから待つのは無理ですかね」

「なんだって……」

「説明は歩きながらで。行きましょう」

 ジュエリーとケイトはリーサに連れられてギルドを出る。


「今から西の森で死体を発見した男性に会いに行きます。時間の都合が合わず今日になってしまったのですが話を聞くには現場にいたケイトさん達やジュエリーさんもいた方が良いかと思いまして」

(なんで、こいつと二人なんだよ……)


「ここです」

 リーサは一軒の家の前で歩みを止める。

 家の外見は他の家と比べると少しこじんまりとした感じだ。

「すみません。ギルドの者です」

 リーサは家のドアを軽く叩きギルドの者だと伝える。


「おばさんだれ?」

 ドアを少し開けて顔を出したのは6歳くらいの女の子だった。女の子におばさんと言われてリーサは動揺する。

「おばっ!えーっとお父さんいるかな?」

 リーサは現在29歳で今年の誕生日で30歳を迎える。ギルドの仕事が忙しいのもあるが単純に出会いがなく焦っている。

「おっとう!おきゃくさん!」

 娘の声で父親が出てくる。静かそうな雰囲気をしている。

「すみません。わざわざ来てもらって」

「いえ、情報提供感謝します。それではさっそくお話を聞かせてください」

「では、どうぞ」

 中に入りテーブル席に父親とリーサが座る。

「ごめんミア、今から大事な話をするから別のお部屋に行ってくれないかな?」

「えー、わかったよーしかたないなー」

 ミアと呼ばれる娘は不貞腐れながら部屋を出ていく。


「子供にはあまり聞かせたくないので」

「それではお願いします」


「私は木こりの仕事をしています。3日前いつもみたいに西の森に行きました。以前死体が2つあるとそちらに話したのですが、冷静に考えるとあれは死体というよりかは身体の一部でした」

「一部?」

「千切れた腕が4本に足が3本転がっていました……」

 父親の言葉にリーサとケイトは絶句する。

 死体の損壊を想像して激しい嫌悪感に襲われる。


「手足の太さはどうだった?性別は分かるか?」

 ジュエリーが父親に質問する。

「その時は怖くて逃げてしまいました。細かく見てないので分からないです。ですが、時間を開けてもう一度確認しに行くと手足はどこにもありませんでした」


「そうか」

「すみません。私からはもう何もないです」


 死体の身元が分からない限り犯人を特定するのは困難だ。それでも発見者に聞けば何か手掛かりが見つかるとリーサは思っていた。しかしあまりにも情報量が少なすぎる。


「いえ、ありがとうございました」


「なーにそれ?」

 突然ミアの声が聞こえる。気づくとミアがケイトの腰に掛けた剣に注目している。

「なんか入ってるの?」

 ミアは不思議そうに剣が入った鞘を指で突く。

「これは剣が入ってるんだ」


「ミア、ダメじゃないか、部屋に入ってきたら」

「だってお母さん買い物行ってるし、暇なんだもん。ねえ、何で目を隠してるの?ちゃんと見えるの?」

 ミアはジュエリーの目に付けている包帯を指差す。

「付けてると落ち着くんだ」

「ふーん。へんなのー」


「すみません。娘が失礼して」

「いやいや大丈夫ですよ。これくらいの歳の子はこんなもんですよ」


「ねえ、なんでけんもってるの?」

「俺は冒険者をやってるんだ。この剣で町のみんなを守るんだ」

「すごーい!じゃあ私がたいへんなとき、たすけてくれる?」

「もちろんだ」

 ケイトが自信満々に答えるとミアは目を輝かせる。ミアは冒険者という言葉に興味深々だ。ミアの中では冒険者は人を救うヒーローの様なものだ。



 聞き込みが終わりリーサ達は父親の家を出る。

「今日はありがとうございました」

「またね~」

 父親は頭を下げて娘は手を振る。

「おうまたな!」

 ケイトはミアに手を振り笑みを見せる。ミアには自信があり堂々としたケイトの姿が映った。

 新しい情報が入ったが事件の解決を進展させるものではなかった。ギルドへの帰り道リーサは来てくれたことの礼をケイトとジュエリーに言った。


「それにしてもケイトさん、子供の扱い上手いですね」

「俺下に弟がいて、さっきの子と同じぐらいで慣れてるんですよ」

「そんなんですか。あ、じゃあ私はここで」


 ギルドの手前に着きリーサとはそこでお別れになった。リーサは帰りまで明るく振る舞っていたが内心不安の心で追いつくされていた。本人は隠しているつもりだがケイトとジュエリーは薄々察していた。

「リーサさんも大変だよな」

 ギルドを目の前にしてぽろっと言葉が出る。

「そうだな」

 いつものように素っ気ない返事をしてジュエリーは立ち去る。


「今日はありがとな。サミの練習を手伝ってもらって。でも意外だったよ、アンタが他人に技術を教えるとは」

 ケイトは目線をずらしジュエリーに感謝の意を示した。いろいろ気になることはあるがサニが成長出来たのは事実だ。リーダーとして言わなければと思ったのだ。

「私も前にナイフの使い方を教わった。だから教えようと思った」


 その言葉を聞き昨日のことを思い出す。男性のエルフは鮮やかなナイフ裁きにより死を迎えた。男性の死に間際の悔しそうな顔が脳裏から離れない。


「あいつを殺す必要あったのか……?」

「あいつ?」

「昨日のエルフだよ、あいつは母親と友達を人間に殺されたと叫んでいた。だから俺達を見て殺そうとした。だけどあそこまでする必要あったのか!身柄を捕らえて落ち着いて話し合えば分かり合えたんじゃないのか!」

「分かり合えるわけがない!!」


 ジュエリーが初めて感情をむき出したことにケイトは驚きを隠せなかった。

 何が彼女の琴線に触れたのか見当もつかない。


「奴らと分かり合える?ふざけるな!エルフは人間を愚かな劣等種としか見ていない。あの時お前らは仲間を人質にされていたんだぞ、あの女が死ぬ危険性は十分にあった。あの女が死んでもお前はエルフと分かり合えると言えるのか?失った人は二度と戻らないんだ!いいか、大切な人を失わない為には自分が強くなるしかないんだ!!」


 ジュエリーの怒涛の感情的な発言にケイトは何も言い返すことが出来なかった。

 ジュエリーはふと我に返り、被ったフードを手で強く押さえつけて何も言わずに今度こそ立ち去る。

 ジュエリーの背中が視界に映らなくなるまでケイトは立ち尽くした。周りの通行人や仕事終わりの冒険者が過ぎ去る中ケイトは動けなかった。思考が追い付かなかった。しかし理解出来ることが一つだけある。彼女の闇は深く根底にあるものはエルフに対してのということだ。


「お前も昨日のエルフと同じなんだな……」

 ジュエリーは燃え盛る憎しみにその身を囚われていた。





















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