第13話 本音
ルミ達と別れてケイトは一人男湯の方に行く。
「ふうーデカい風呂ってのもいいものだなー」
ケイトは湯船に肩まで浸かり自然と声を出した。日々の疲れが抜けていくのを感じる。
手足を伸ばして完全にリラックスする。
「だけど、一人ってのもなんか寂しいな」
「お背中お流ししましょうか?」
突然ひっそりと耳元に囁かれる。リラックスしていたのもあって声を出して驚く。
振り向くとルワードが腰にタオルを巻いただけの姿で立っている。
「何故あなたがここに!?」
「いや偶然時間が空いたので私も入ろうかなと」
「ああ、そうですか……」
ルワードは肌と肌が触れるぐらいにピッタリとケイトの隣に浸かる。
「あのー何でこんなに近いんですかね?こんなに広いのに」
「ケイトさんはお嬢様のことをどう思って
らっしゃるのですか?」
ケイトの問いは無視して本題に入る。わざわざお風呂を勧めたのはケイトと二人っきりになるためのルワードの策略だったのだ。
(よし!やっと聞けたぞ。今お嬢様はこの場にいない、それによってこの男の本音が聞けるに違いない!さあこの問いにどう答える)
「うーん。あまり考えたことないけど、かけがえのない存在ってところかな」
ケイトは顎に手を当てて答える。
その瞬間、ルワードの身体には雷が打たれたような衝撃が走る。
(何ですとー!!かけがえのない存在ってそれってもう恋仲にあるってことではないか!?
急に爆弾発言投げられたのだが、何この男!何でそんな歯の浮くようなセリフをしれっと言えるんだ!!)
ケイトの言ったかけがえのない存在とは同じパーティーメンバーとしてという意味だ。
ケイト自身恋とかには無縁な方であまり興味がない。
「えーっと、お二人はいつからその様な仲に?」
掠れた声でルワードが聞く。ルワードにとってルミは我が娘同然のように扱ってきた。
ルミがお年頃とは言えど恋人はまだずっと先の話だと思っていた。
「まあ段々って感じかな。ピンチを掻い潜るほど互いの結束力が強くなっていくんだ」
「そ、そうですか……」
(二人はすでに愛を育んでいたんですな……)
ルワードの全身の力が抜けていく。顔面を湯船につけそのまま沈んでいく。
ルワードの精神はケイトの発言により崩壊した。娘同然のセリアが大人の階段を登ったことに打ちひしがれていた。
(ああ、私のお嬢様がどんどん遠のいていく……)
「っておい!どうしたんだ!」
ケイトは沈んだルワードの身体を起こす。
「気を失っている!」
ルワードの勘違いが解かれるのはまだ先のことである。
***
「全く何やってるんですか!」
「はい、すみません……」
ルワードは風呂上がりのセリアに正座姿で説教を食らっていた。
「もう歳なんだからあまりはしゃがないでください」
「はい……」
正座姿の老人が少女に叱られるという場面を見守るルミ達。
「セリアが人に怒るの珍しい」
「そっちはどうだったんだ?」
「何ケイト女湯が気になるの?やめてよね変な想像するの」
「違うわ!」
その後セリアの説教が終わり食事の準備が出来るまで部屋で待つことになる。ルミ達はセリアの部屋に男のケイトは別部屋を紹介された。
「ねえ、何で家に誘ってくれたの?」
ルミはセリアのベッドに寝そべりながら聞く。
「皆さん張り詰めてたから気分転換が必要だと思ったんです」
「セリア……」
人間に母や友を奪われたエルフ、外には出現しない魔物、身元不明の2人分の死体、西の森の調査に行ったものの多くの謎が解決しないままだ。浮かない顔をするのは当たり前だ。だがどんなに悩んでも謎が解決するわけではない。セリアは家に誘うことで一旦問題からルミ達を引き離したのだ。
「確かに3人同じ部屋で寝るのは新鮮で楽しい」
同じベッドであぐらをかいているサニが微笑む。
「あーサニが笑ったー」
「サニちゃんが笑いました」
「私って普段どんな顔してるの?」
女子3人の笑い声が部屋中に響く。ルミはこうしてセリアやサニと笑えることに懐かしさを感じた。同じパーティーだった頃はよく3人で他愛もない話をしていた。
「2人が来てくれて良かったです。父と母は仕事で家に帰って来ないので久々に賑やかで楽しいです」
「私も誘ってくれて良かったよ。ほとんど一人だからさ」
ルミは人差し指で頬を掻き微笑んだ。その瞬間、セリアはルミを抱きしめた。
「ごめんなさい……ルミちゃん」
「いいよ、1人になって分かったの、自分だけじゃ何も出来ないって。あの時ケイトが言ったことは間違いじゃない。追い出されて当たり前だよ。だからセリアが謝る必要――」
「違うんです!そうじゃないんです……ごめんなさいサニちゃん、私やっぱり言うね……」
ルミにはこの状況が理解出来なかった。何故セリアが謝るのか、何故横にいるサニが辛そうな顔をして頷くのか。
「パーティーから外したのは弱いからじゃないんです。全てルミちゃんを傷つけない為です……」
その言葉で全てを察するルミ。
「そっか。みんな気付いてたんだ。私が魔物使いじゃないって」
「ルミはあの子以外魔物を連れてないからずっと変だと思ってた」
サニは部屋の隅で眠っているアルティーに目を向ける。魔物使いの強みは複数の魔物を同時に操れることだ。しかしパーティーにいる間ルミが他の魔物に対して呪法を使ったことは一度もない。そのことからケイト達は疑問を抱くようになった。
「その子は私が小さい頃に拾った卵から生まれて、それから私に懐くようになったの。私は魔物を従わせる魔法があるなんて知りもしなかった。最初は私みたいに魔物を連れてる人のことを言ってるんだと思ってたけど段々周りの話を聞いてるうちに全然違う存在だって気付いた。でも言えなかった、言ったらみんなが離れるんじゃないかって考えると怖かったから」
魔物を連れて歩く人などそうそういない。皆がルミを魔物使いだと思っていた。しかし近くで見ていたケイト達はルミには魔物を従える力がないことを薄々感じていた。最初はルミが自ら打ち明けるのを待つという考えだったがケイト達のランクがBランクに上がったことで3人の考えが変わった。これからのクエストは一層危険を増すことになる。となると自分達のことで手一杯になりルミを庇っての戦闘が困難になる。ルミを危険に晒すぐらいならパーティーから外そうとケイトがセリアとサニに提案したのだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
セリアの声が震えて泣いていることに気づく。自分がこんなにも友達に気を遣わせていたのかと思うと嫌になる。思えば自分は隠し事ばかりだ。お金を貯める目的も魔物使いじゃないことも、さらけ出していなかった。
「いいんだよ、私こそごめんね。何も言わなくて。そしてありがとうセリア、サニ、私のことを想ってくれて」
「ルミ……。ケイトもルミのことを想って……あんなこと言ったんだよ。ケイトは自分から嫌われ者になることを選んだ……ルミに本当のことを言わせない為に」
サニは下を向き目に手を当て言った。いつも冷静で自分の弱みを見せないサニらしい姿だ。声が震えないように平静を装う。
「うん……ほんと私はパーティーに恵まれてるね……」
***
「あいつら遅いな。また女子会でも開いてんのか」
ケイトは使用人に連れられてダイニングテーブルの部屋の前に来ていた。目の前には数々のご馳走が並んでいる。一般庶民のケイトには知らない料理がほとんどだが漂ってくる匂いと見た目で間違いなく美味しいことが分かる。すぐにでも口に入れたいが流石に呼ばれた分際で女子達を待たずに食べるのは失礼だと自分を制御する。
「ごめん、待った?」
ルミ達が左の通路からやって来る。
「待ったわ、めちゃくちゃ待ったわ」
ケイトは女子三人の目の下が少し腫れて赤くなっていることに気づく。
いきなりルミはケイトの肩を叩いた。
「痛っ!急に何すんだよ!」
「ありがとね!」
ルミはケイトに笑顔を向ける。状況が呑み込めないケイトはセリアとサニの方を見る。すると二人同時に目をそらす。
セリアとサニの反応と3人の目の下が赤いことから全てを察する。
「まあ一応リーダーだしな。さ、飯にしようぜ。もう腹がペコペコだよ」
「あー!見て見てセリア、サニ、あのお皿ケーキで埋まってるよ!」
「何あれすご」
「行きましょう!」
女子3人は部屋に入りケーキ目掛けて急ぐ。
「あれ……まあいっか!おい待てよー」
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