第12話 我が家へようこそ

「あの、助けてくれてありがとうございました」

 セリアはジュエリーに礼を言う。印象は怖いが助けてくれたのは確かだ。

 ケイトとサニもセリアを助けてくれたことに感謝を述べる。


「エルフがいたのは災難だったな。奴らは聴力が発達しているからお前らの居場所が分かったんだ」

「だからルミちゃんは大きく鳴いてって命令したんだね。ありがとう、えーっと、ドラゴンちゃん」

 セリアは納得してアルティーの頭を撫でる。気持ち良さそうにするアルティー。しかし誰も彼の本当の名前を覚えていない。


「エルフもそうだけど、この森に魔物がいたのもおかしい」

 西の森に魔物が出現したことは今までにない。魔物がいること自体が変だとサニは指摘する。


「私も西の森は安全だと受付の人に聞きました」

「てことは何か異常なことが起きてるってことだな。直ぐにギルドに報告しよう」

 ケイトの言葉にルミ、セリア、サニの3人は頷く。


「私は森に残る」

 しかしジュエリーだけは拒否した。ルミが「何でですか?」と聞くと「調べたいことがある」とジュエリーは言い、森の奥へと姿を消す。


「そういえば食事の時もフード被って包帯で目を隠してたよな。何でなんだ?」

「それは私にも分からない」

 そうルミは答える。

 残された4人はギルドに戻ることにした。


 ***


 ギルドに戻り受付嬢に起こった出来事全てを伝えた。赤色の狼型の魔物がいたこと、エルフが現れてジュエリーとルミが助けてくれたこと。


 安全だと思われていた森に魔物がいたことを知りリーサは衝撃を受けた。


「赤色の狼……その魔物はヘルガードと呼ばれています。ヘルガードは本来ダンジョンに潜り込んで外から来た獲物を捕食する魔物です。外に出て活動する話は聞いたことがありません」


「一体何が起きてるんだ……」

 ケイトは頭を抱える。分からないことだらけで困惑するのは他の3人も同じだ。

「私の方から上層部に掛け合ってみます」

 現時点でルミ達が何かできることはなく報告が終わった後はギルドを出るしかなかった。


 晴れないモヤモヤに黙り込む4人。

「あの、今から私の家に来ませんか?」

 沈黙を破ったのはセリアだった。 

「セリアの家、見てみたい」

「じゃあ、私はこの辺で……」

 サニが賛成するとルミはその場を立ち去ろうとする。


「ルミちゃんも来ませんか?お風呂入れますよ」 

 お風呂という言葉にルミは足を止める。思えばセリアの家を出てから一度もお風呂に入っていない。

(え?女の子として私どうなの?)

 冷静に考えてしまった以上お風呂に入る為にセリアの家に行くしかない。


「いいの?」

「もちろんです。ケイトくんも」

「…………」

「ケイトくん?」

「あ、俺もセリアの家見てみたいぜ」

 ケイトの反応にサニは首を傾げた。別のことを考えているのか落ち着きがないように見える。


「それでは行きましょう!」

 セリアは張り切って自分の家に案内する。

 セリアの家ははっきり言って豪邸だ。使用人を数人雇い客人の応接室もいくつか存在する。

 鉄格子の門に着いたケイトとサニの反応は同じだった。まさしく開いた口が塞がらないとはこのことだろう。

 2人の表情を見て過去の自分と重ねるルミ。冒険者になるほとんどの理由はお金を稼ぐ為だ。冒険者の実家が裕福とはにわかに信じがたいことなのである。


「お前何で冒険者やってんの?」

「父と母が元冒険者でその影響で私も興味を持ったんです」

「冒険者で稼いだ金がこの家ってことか」

 裕福な家に生まれたセリアが箱入り娘じゃないのは父親と母親が冒険者だからかと納得するケイト。


「お嬢様ーお帰りですかー!」

 門にいるルミ達に声を掛けながら老年男性が息を切らして近づいてくる。

「ルワード走ってはダメじゃない。もう若くないんだから」

「い、いえ、お嬢様に心配されるほどではありません」

「お嬢様はやめてって言ってるのに」

 年老いた男がわざわざ走って出迎えたのには理由がある。

(もしかしてと思って来てみれば男ではないか!そうかこいつがケイトか!お嬢様が男を連れて来たのは今回が初めて……もしや恋人……いやありえん、まだ15歳のお嬢様がその様な関係を持つことなど爺やは許しません!)


 ルワードは内心の動揺を隠して平常心を装う。

「私はお嬢様の執事ルワードと申します。お嬢様がご友人を連れて来るのは久しぶりのことで急いで出迎えてしてしまいました」


「セリア、お姫様みたい」

「違いますよ。勝手にルワードが呼んでるだけです」

 サニの問いにセリアは訂正を入れる。

「てかここに居候するって度胸あるなお前」

「わざわざ言わないでよ」


 ルワードの思考はこれ以上にないほど急速に回る。

(どうする……どうすればあの男とお嬢様の関係を確かめられるのだ。そうだ!)


「皆さん今日はお疲れのことでしょう。湯船に浸かり疲れを癒してはどうでしょうか」


「俺は面倒くさいからパス」

 ルワードの提案をケイトは拒否する。するとルワードはケイトの肩に手を置く。

「遠慮することはないですよ、ケイト様」

 それと同時に手に力を入れる。

「あはは、そうですか。じゃあ浸かろうかなー」

 内心「何だこのジジイ」と思ったがケイトはグッと堪える。


「何で名前知ってるの?」

 ルワードがケイトの名前を知っていることにサニは疑問を持つ。

「存じておりますよ、サニ様。家でよく冒険のお話をお嬢様から聞きますので」


「ガァー」

 ルミの足元にいるアルティーがルワードに反応する。

「おおこれは、アルティメットドラゴンペガサスナイトエンジェルゼロ様。お久しぶりですね」


「何ですか、その変な名前」

 微笑を浮かべながら言うルミ。

「その変な名前にしたのアンタだけどね」

 そんなルミにサニは的確なツッコミを入れる。

「さ、お風呂にレッツゴー」

「ごまかしたね」

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