第8話 Sランクの冒険者
森を抜けてジュエリーとルミはギルドに到着した。
革袋に入った薬草をリーサに渡す。
「また来てくれたんですか?昨日も頂いたのに」
ジュエリーが立て続けにギルドに来たのは今回が初めてのことだった。
「運が良かっただけだ」
「あれ、お二人って知り合いだったんですか」
リーサはルミがいることに気づき意外そうな顔をする。
ジュエリーが誰かと一緒に来るのも今回が初めてだった。
「まあ、いろいろあって……」
ルミは言葉を濁す。
(言えない、ギルドを通さずに金儲けしようだったなんて絶対に言えない)
ギルドで冒険者登録した以上、クエストを受ける場合は運営側に報告しなければならない。そのルールをルミは破ったことになる。
もし正直に話してしまえば冒険者登録を剥奪されてしまう可能性もあるのだ。
「あ、謝礼金を用意しないとですね。少々お待ちください」
そう言うとリーサは慌てた様子で席を外し別室に行く。
ジュエリーは毎回突然に薬草を持ってくるので報酬の準備ができていない日があるのだ。
「座りましょうか」
「そうだな」
受付の前でずっと立っているのも大変なので二人はそこら辺のテーブル席に座ることにした。
ギルドはクエストを受ける場だけでなく冒険者同士の交友の場としても使われている。
「やあ、少しいいかな?」
座っていると誰かが声をかけてくる。呼ばれた方を見ると大剣を背中に抱えた長身の男がいた。
「あ、あなたはガーレンさん!?」
ルミは驚きのあまり席から立ち上がる。
「誰だお前」
「知らないんですか!ガーレンさんはギルド内唯一のSランクパーティーの一人ですよ!いつも3人でいるのに今日はお一人なんですね」
「他の2人は故郷に帰ってるんだよ。それで一人寂しくギルドにいるってわけさ」
「ふーん」
ギルド内の有名人に会って驚くルミとは対照にジュエリーは表情を少しも変えない。ルミが歓喜するのも無理なかった。Sランクはギルド内でトップランクだ。
ガーレンのパーティーは3人編成でその実力は一頭のドラゴンを容易く倒す程と言われている。また、町の人々や他の冒険者達の中には命を救われた経験を持つ人もおり、ギルド内だけでなく町にもガーレン達の存在は知れ渡っている。
「それに俺なんて2人と比べたらまだまだだよ」
ガーレンは爽やかな笑みを浮かべ謙遜する。
「いやいや聞きましたよ、この前ガーレンさん達でドラゴンを倒したって!」
「あれは偶然ドラゴンが弱ってたからで––––」
「用はなんだ?」
ガーレンの言葉を遮りジュエリーは聞く。
「たいしたことじゃないんだけど、実は前から君のこと気になっててね。何故君はずっと薬草採取とかいう地味な仕事をしているんだい?そもそも冒険者でもないのに」
「生活するためだ」
「君がいつも持ってきている薬草、ずいぶんと上質なものだ。一体何人のエルフを葬ってきたのかな?」
ガーレンはSランクの冒険者だ。当然エルフの体質が上質な薬草を生むことを知っている。
「ガーレンさん、その話は……」
「君も興味ないかい?何故彼女がここまでエルフを殺すことに執着しているのか」
ガーレンの問いにジュエリーは黙り込む。
ほんの僅かの間、沈黙が訪れる。
「ジュエリーさーん!謝礼金用意できました!」
受付嬢に呼ばれたのを機にルミはジュエリーの手を引く。
「行きましょう、ジュエリーさん」
「最後に忠告しとくよ。西の森には行かない方がいい。凶暴な魔物がいると聞いたからね」
ガーレンの言葉に二人は一瞬足を止めるが、振り切る様にルミが手を引きリーサの方へと行く。
「はい、こちら謝礼金です」
リーサはカウンターの上にお金が入ったトレーを置く。
ジュエリーはトレーに入った金を革袋の中に入れる。
「急で悪かったな」
「いえ、私ども運営はジュエリーさんに感謝してますよ。上質な薬草がなければ命を落とす冒険者は間違いなく増えます。それなのに冒険者の方はある程度の実力や地位をつけると派手なクエストばかりお受けになるんです。なので、ジュエリーさんがやっていることはとてもカッコイイことだと私は思います」
「私もそう思います」
ルミも続けて言う。受付嬢の言う通り冒険者は派手なクエストを率先して受けようとする。それは高ランクの冒険者ほど多い傾向がある。
派手なクエストを受けクリアすれば知名度が上がる。知名度が上がれば特定の冒険者を指名してクエストを依頼する貴族や商人が現れる。
高報酬な上、貴族や商人との繋がりもでき、知名度はさらに上がる。
この様な仕組みがある為、上質な薬草はなかなかギルドに回ってこない。
ギルド側はジュエリーの行為に助かっているのだ。
「ですので、また来てくださいね!」
「ああ、また利用させてもらう」
ジュエリーとルミはお金が入った革袋を持ってギルドを出た。ギルドを出るときルミは横目でガーレンを見る。ガーレンのもとに多くの冒険者が集まっている。
なぜエルフを殺すことに執着しているのか。その言葉が頭から離れない。
「手出せ」
「あ、はい」
言われた通りに手を出すとジュエリーは革袋に手を突っ込みお金を置く。
「やるよ」
「こ、こんなに貰っていいんですか?」
ルミ一人では絶対に手に入らなかった金額だ。
「でも私何もしてないですよ?」
「薬草集めるの手伝ってくれただろ?その分だ」
「でも、ただ集めただけだし……そうだ、ジュエリーさんお腹減ってませんか?私奢りますよ!」
貰ったお金ほど貢献していないと感じたルミはお礼に飲食店で代わりにお金を払おうと考える。
「いいのか?」
「いいんです!行きますよー」
ルミは自分がよく行く店にジュエリーを連れて行った。
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