第6話 帰還

「あの、助けてくれて……ありがとうございます」

 ルミは人間だと名乗る女性に礼を言った。

「名前は?」

「ルミといいます……」

「そうか、礼ならあいつに言ってくれ」

 女性は森の方を向く。すると、のんびりと歩く魔物が出てくる。 


「ドラゴン!」

 その魔物とはアルティメットドラゴン(以下略)のことだった。

 飼い主を見つけたアルティメットドラゴン(以下略)はルミのもとへと駆け寄る。


「もう、どこ行ってたの。でも良かった」

「ガァー」

 ルミはアルティメットドラゴン(以下略)を抱きしめた。呆れた口調のルミだが内心とても喜んでいる。

 魔物だがルミにとっては家族同然なのだ。


「そいつが私をこの場所に連れてきてた。だから気付くことができた」


「そうなんですか。ありがとうードラゴン」


(ん?でも待てよ。ドラゴンがいなくなったせいで私は猪に追いかけられてエルフに殺されそうになったんだよね。んんん?」


 アルティメットドラゴン(以下略)がいたからルミは助かった。しかし殺されそうになったのも元はと言えばアルティメットドラゴン(以下略)がいなくなって森を彷徨さまよったことが原因だ。

 複雑な気持ちになるがルミは心の中に留めておく。今は何よりも助かったことを喜んだ。


「もう夜は暗い。今日は私の住処に泊めてやる」

 女性はルミに近づき姿勢を低くくする。足を痛めていることを知っている様だ。

「えっと……」

 森を彷徨ったせいで方向感覚は狂い街に帰ることは極めて危険で困難だ。しかしこの女性を信用していいのだろうか、ルミは躊躇ためらう。親切にされてついて行った結果がこれだ。

「どうした?」

 女性がルミの方を振り向く。

「あ、一瞬、最低な男と被っただけです」

 ルミは女性への疑いを打ち消した。ルミが今生きていられるのはこの女性のおかげだ。疑う理由がない。

「そうか」


 ルミは女性におんぶされその場を離れる。アルティメットドラゴン(以下略)もその後をついていく。


「あの、本当に何とお礼をしたらいいか……」

 殺されそうな所を助けてもらい、家に泊めてもらい、その道中でおんぶをしてもらう。

 してもらってばっかりで申し訳なくなる。


「いや、おかげでエルフを殺せた。だったがな」


「エルフ……私が想像していたのと随分違いました」

 エルフは森に迷った少女を助ける親切な存在として物語に登場していた。

 昔読んだ絵本の内容と実際のエルフは大違いだ。

「エルフはプライドが高く人間を常に見下している。自分達を神に近い存在だと本気で思い込んでいる。傲慢で狂った連中だ、奴らは」


 ルミは違和感を覚えた。まるで自分はエルフではないかの様な言い方だ。しかし女性の耳は長く伸びておりエルフを想起させるものだ。


「ところでお前は森で何をしていたんだ?」

「……」

 ルミの返事はなく女性は後ろを向く。


「人の背中で寝るなよな」


 疲れ切ったルミは女性の背中で寝ていた。

 おんぶされながら寝ている姿はまるで幼い子供の様だ。


 ***

 翌朝。


「おい、いつまで寝ている気だ」

 女性はルミの身体を軽く揺すり声をかける。


「う〜ん。まだいいじゃん〜セリア~」


「はあ、駄目だな」

 女性は溜め息を吐きルミを起こすのを諦めた。


 2時間後


「ん?ここは……どこ……」

 目を覚ますと見知らぬ天井が視界に映る。

「そして何か良い匂いが……」

 身体を起こすとルミはベッドの上にいた。

 寒くならないように厚い布を掛けてくれている。

 部屋は木造でそこまで広くなく、真ん中にテーブルと椅子、端には暖炉、小窓が一つ、ルミに見覚えはない。


 小窓が空いておりそこから顔を覗かせる。


「あっ」

「ん?」


 外で食事をしている女性と目が合う。木を積み火を焚いて肉らしき物を焼いている。


「お前も食うか?」

「えっと、貰います?」

 思いもしない言葉で疑問形になる。


 ルミは部屋の扉を開けて外に出る。外に出ると周りは木だらけだ。ここは森の中だと知る。 


「よく寝てたな、人のベッドで」

「す、すみませんでした。あと昨夜は助けてもらってありがとうございます」

 ルミは女性に近寄り頭を下げる。


「礼はいい。お腹減っただろ」

 そう言って女性は肉が刺さった木をルミに渡す。

 ルミは肉を貰いその場に腰を下ろす。


「あの、あなたは……」

 ルミは言葉を詰まらせる。

「……?」

 話さないルミを見て女性は首を傾ける。

「いえ、よければあなたの名前を教えてくれませんか?」


 あなたはですか?そう言おうとしたがルミは止めることにした。

 昨夜、女性は自分を人間だと言った。ならわざわざ聞く必要もない。

 昨夜会ったばかりの自分が踏み込んではいけないと察したのだ。


「ジュエリーだ」

 女性はジュエリーと名乗った。


「ジュエリーさんは何でいつもフードを被って目を隠してるんですか?」

 ギルドで見かけた時や昨夜ルミを助けた時、そして今ご飯食べている時、常にジュエリーは大きいマントに付いているフードを被り、目の部分に白い包帯を巻きつけている。


「付けてると落ち着くんだ。食わないのか?肉が冷めるぞ」


「あっいただきます」

 焼いた肉を一口食べる。少し硬いが歯で噛みちぎる。


「この肉美味しいですね。何の肉ですか?」

「昨夜お前の周りをうろちょろしていた鳥の肉だ。意外に上手いな」

 ルミは心臓を掴まれた様にドキッとした。朝からアルティメットドラゴン(以下略)を見かけていないと思うと頭の中で嫌な想像が膨らむ。


「え、それって……冗談ですよね」

「ああ冗談だ。お前の鳥ならあそこにいる」


 ジュエリーが指を差すを方を見ると一点を見つめて地面をクチバシで突いているアルティメットドラゴン(以下略)の姿があった。


(この人、変わった人だな)

 ルミは心の中で呟く。


「あいつ魔物か?」


「そうですよ。だけど何の魔物までかは分かってないんですよ。だから名前を付けて読んでます」


「何て名前なんだ?」

「アルティメットドラゴンペガサスナイトエンジュルゼロって言います。よし言えた!カッコイイですよね?」

 自信満々に言うルミ。ジュエリーはどう反応すれば良いのか分からなかった。

(もうちょっとマシなのはないのか……変わった奴だな)

 ジュエリーは心の中で呟き、話を逸らす。


「あー、そうだな。ところであの魔物はお前の言うこと聞くのか?」

「それはもちろん聞きますよ。私は魔物使いですからね」


「魔物使い?」

「魔物使いは魔物を味方にすることが出来る冒険者の中では珍しい存在なんですよ」

「お前、冒険者なのか?」

「はい、そうですけど」

 するとジュエリーは顎に手を当て何かを考える仕草をし始める。


「頼みたい事があるんだ。この後空いてるか?」

「空いてなくても手伝いますよ。あなたは命の恩人ですから」


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